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棘下筋の機能解剖と評価・介入
みなさんこんにちは
肩関節機能研究会の柳沢です。
今回は記事執筆の機会を郷間先生からいただきまして私が執筆させていただきます。
Instagramにて運動器理学療法の評価・介入に関して情報発信を行っていますので、もし良ければ下記のアカウントをチェックしていただけると幸いです。
Instagram:@ryo_kataken701
それでは内容に入っていきたいと思います。
今回は、”棘下筋の機能解剖学的特徴に基づいた評価・介入”についてまとめさせていただきました。
普段肩関節の臨床を行う際に棘下筋由来の制限や棘下筋の機能低下に対して、アプローチすることが多いのではないでしょうか?
私自身、普段肩関節疾患の患者様を担当させていただく機会が多く、棘下筋への評価や介入をすることが多いなと感じています。
中でも主な主訴として
着物の帯を後ろで結べない
ズボンのポケットに物を入れられない
反対の脇を洗えない
他にもたくさんあると思いますが、上記のような訴えを患者様から聞くことが多いなと感じています。
上記のような主訴を運動学に置き換えて考えてみると
肩甲上腕関節の”水平内転”や”伸展内旋”動作になると思います。
棘下筋は水平内転や結帯動作の制限に関与してくる筋肉です。
水平内転制限や結帯動作を改善、その他棘下筋への介入を行う際の介入の一助として、棘下筋の機能解剖学的特徴を基に評価方法や治療方法の一案をまとめていきたいと思います。
機能解剖(基礎編)
棘下筋は、棘上筋・小円筋・肩甲下筋とともに回旋筋腱板(Rotator cuff)を構成する筋の一つです。
回旋筋腱板には下記のような作用があると言われています。
”前方と後方の腱板筋が共同して骨頭を関節窩へ引きつける作用”(force couple)がある。
また肩関節は構造的特徴から”骨性の支持”を得られにくいため、腱板は下記のような働きを担っています。
腱板が機能することによって”上腕骨頭の前後方向の安定性”を高めている。
上腕骨頭の前後の安定性に関してJobeらの報告では下記のような表現をしています。
肩甲下筋などによる上腕骨頭の前方偏位に対する動的安定性を『前方の壁』
肩甲下筋は前方の壁と表現されるのであれば、後方の壁は外旋筋である”棘下筋”や”小円筋”が役割を有していると考えられます。
では、棘下筋の起始停止をおさらいしていきましょう。
養成校時代には下記のように勉強したかと思います。
起始:肩甲骨棘下窩
停止:上腕骨大結節
神経:肩甲上神経(C5〜6)
運動:肩関節外旋・水平伸展
機能解剖(臨床編)
私自身、国家試験で勉強した内容だけでは太刀打ちできない部分があり、臨床に出てから機能解剖学をさらに勉強しました。
その際に下記のような報告がされており、より棘下筋について学びを深めました。
棘下筋は筋線維方向によって横走部と斜走部で構成されていることが確認された
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棘下筋は横走線維と斜走線維の2つの線維が存在し、臨床においてはそれぞれの役割を考えて評価や介入する必要があります。
線維別の機能や役割については、次の項目で解説していきたいと思います。
線維別の特徴
横走線維と斜走線維それぞれの特徴について説明していきます。
まずは横走線維についてです。
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上腕骨頭付近で斜走線維の表面を覆う
薄い腱膜となり斜走線維から連続する腱性部に停止する
横走線維は斜走線維を覆うような解剖学的特徴を有しています。
そのため、膜厚な腱性部はないと報告されています。
横走線維の役割としては、私の中では斜走線維を覆っていることから斜走線維の活動を補助するような役割を有していると考えています。
次に斜走線維についてです。
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上方(頭側)1/2に長く厚い腱性部が存在する
筋内腱が横走線維の腹側に入り込む
斜走線維は横走線維よりも厚い腱性部が存在し、停止部である大結節に筋張力を伝えやすい特徴があります。
直接大結節に付着するのは斜走線維であると報告されています。
そのことを踏まえると斜走線維が、棘下筋としての主たる機能を有していると考えています。
棘下筋は横走線維と斜走線維に分かれていますが、実際どの肢位で働いてくるのか?ということが私自身疑問が生じました。
その疑問について次にまとめていきます。
肢位別の外旋筋活動の特徴
肩関節の肢位別で外旋筋の活動の特徴があります。
下記のスライドをご覧ください。
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外旋運動後にグルコースを取り込んだ際
下垂位では棘下筋、外転位では小円筋が最も高い取り込みを示した
下垂位外旋は横走線維、外転位は斜走線維が外旋に関与すると言われていますが、Kurokawa Dらの報告では外転位では小円筋が高い活動を示しています。
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肩甲骨面挙上角度が増大するにつれ棘下筋の活動が減少していく
Kurokawa Dらの報告はグルコースの取り込みを利用しての報告でした。
Ugα Dらの報告では、肩甲骨面挙上にて角度別に等尺性外旋筋力を調査したものです。
Ugα Dらの報告でも、挙上角度が大きくなることで棘下筋の活動が減少してきたと報告されています。
私の中で2点疑問が生じました。
外転位で小円筋が働きやすいのはなぜ?
挙上位では棘下筋斜走線維は外旋ではなく、何の動作に働きやすいのか?
まずは外転位で小円筋が働きやすい理由は下記の通りです。
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下垂位では、上腕骨頭の外旋軸に対して筋線維方向がより直行しているのは棘下筋です。
また、外転位では小円筋の走行がより外旋軸に対して直行に近い肢位であることがわかります。
そのため、外旋するためのトルクを発揮しやすいことから、外転位での外旋では小円筋が高い筋活動を示していると考えられます。
逆に棘下筋は挙上するにつれて上腕骨頭の外旋軸に平行に近づくため、外旋作用が減ってきます。
では、棘下筋は挙上位ではどんな働きをするのでしょうか?
私なりの見解ですが、主に棘下筋の斜走線維ですが挙上位では”水平伸展”に働いてくると考えています。
挙上位で上腕骨頭の長軸に平行になるような筋の走行をしているため、棘下筋が収縮すると後方へ引っ張る作用が大きくなると考えられます。
肩関節でいうと後ろに引く動作は水平伸展のため、棘下筋は水平伸展に挙上位では強く作用すると考えました。
腱板断裂との関連性
次に腱板筋ということで腱板断裂との関連性についてお話しさせていただきます。
腱板断裂というと棘上筋の印象が強いかと思いますが、近年では棘上筋のみならず棘下筋も考えられています。
その理由に関して説明していこうと思います。
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上記スライドは棘下筋の大結節付着部に関してまとめています。
従来では左のように大結節の中面(middle facet)に付着すると言われていましたが、近年では右のようにmiddle facetに加えて上面(superior facet)にも付着を持つと報告されています。
ここから何が言えるかというと、
棘下筋は大結節を後方から包み込むように付着をしていますが、棘上筋の付着部まで包み込むように付着します。
そのため、今まで棘上筋損傷が起こりやすいと言われていた部分に棘下筋も付着するため、双方が損傷しているという可能性があることが示唆されました。
また、腱板断裂には無症候性と症候性の2種類に分類されます。
病院に来院する方の多くは疼痛を訴えて来院されることが多いと思います。
では、症候性と無症候性の方の特徴の違いは何でしょうか?
その疑問を解決する報告があります。
①利き腕側の罹患か否か(オッズ比:2.99)
②インピンジメント徴候(オッズ比:10.18)
③外旋筋力低下(オッズ比:3.10)
群馬県にて地域検診を行い腱板完全断裂を呈していた方を対象とした研究です。
症候性群は無症候性群と比較して上記3つの特徴が見られました。
特にインピンジメント徴候はオッズ比が10.18と高い数値が見られ、症候性腱板断裂はインピンジメント症状による疼痛が原因であることが予想できます。
インピンジメント症状を有する方の理学所見では下記のような報告がされています。
①Painful arc sign
②Hawkins-Kennedy test
③Infraspinatus muscle test
上記3つが陽性の時のインピンジメント陽性尤度比が10.56
症候性腱板断裂において外旋筋力低下が指標の一つであり、症状の要因であるインピンジメント症状においてもISPtest陽性が一つの指標であることを踏まえると棘下筋機能は腱板断裂患者への評価や介入で重要であると考えます。
では、機能解剖に関する知識を基に評価や介入について説明していきます。
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