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【書評】「どろどろの聖書」(清涼院流水、2021)を読んで。

▮ おおざっぱな内容

著者は清涼院流水という作家。私はあまり知りませんでした。幼稚園でカトリック系の園に通っていたものの、祖母までの代は兵庫県西宮で神職にあったそうで、その影響で神道を学んでいたそう。しかし小説で大村純忠らカトリック大名を書くにあたり、ポルトガルとスペインへ旅行に行き、2016年を境にキリスト教に目覚めたとのこと。2020年に受洗してカトリック信徒になったということです。作家がわかりやすく「聖書」のストーリーを解説する内容。

第一章は「イスラエルの族長たちの愛憎劇」。
旧約聖書の最初の方のことが書いてあり、アブラハム、イサク、ヤコブが中心。アブラハムの正妻サラからユダヤ民族の祖先であるイサクが生まれ、女奴隷との間にできたイシュマエルはアラブ民族の祖先になる。
イサクの子ヤコブとヤコブの兄エサウとの争い。そしてヤコブの子たちの復讐の物語。

第二章は「イスラエル建国以前の愛憎劇」。
ヤコブらの時代から数百年後。出エジプトのモーセの生誕から死、後継者のヨシュアやその後の士師の物語。モーセとその兄のアロンが、奴隷状態にあったユダヤ人をひきつれエジプトを出、シナイ山での十戒を得て、約束の地カナンへ到達するところがドラマチックにどろどろと書かれている。その後、ヨシュアや士師たちの苦闘。殺された女の復讐のためにユダヤ系12部族が集結するなど。

第三章は「ダビデとソロモン時代の愛憎劇」。
第2代イスラエル王のダビデが王位に就くまで、そして就いてから老齢を迎えるダビデ。強かったんですね、ダビデ。その子第3代王ソロモンは神にお伺いを立てて、王位に就いたものの、老齢期に入ってからは酒と女の生活。神々から疎まれた。

第四章は「王国分裂とバビロン捕囚時代の愛憎劇」。
ソロモン死後、イスラエルは2つに分裂。13部族のうち11部族が集まった北イスラエル王国と、ソロモンの子レハブアムが建国した南ユダ王国。北イスラエル王国は、紀元前722年にアッシリアの攻勢を受けて滅亡。一方の南ユダ王国もアッシリアの後に力を得たバビロニアに滅ぼされ、ユダヤ民族はバビロン捕囚といわれる時代へ。通底するのはユダヤの神を信じなくなるとユダヤは落ちぶれるという流れ。祭司や預言者が時々出てきて、民衆を戒める。

第五章は「救世主イエスをめぐる愛憎劇」。
ようやく新約聖書。最終章。ローマ帝国のもとで弱い立場にあったユダヤ民族。救世主とされるイエスを探しまくるヘロデ大王。危機をかいくぐり生き延びたイエスはヨハネから洗礼を受ける。ヨハネはその後死亡。いくつかの軌跡を起こし、エルサレム近くでもラザロを復活させるなどその名声が一気に広がる。いよいよイエスが最後の晩餐を経て捕まり、ゴルゴダの丘へ十字架を背負いのぼる。杭でうたれ、窒息死したあと、三日後に蘇るイエス。ユダは裏切ったが罪悪感から自殺。一番弟子のペトロはじめ、全員「イエスのことは知らないと」いって逃げる始末。そこへ死んだイエスが現れる。改心した使徒たちはその後、イエスの教えを布教する。ローマ帝国もその後、キリスト教を国教にした。ローマ教皇はペトロの後継者として2千年間にわたり、キリスト教の最高権力者の地位にある。

▮ 読後感

私もカトリック系の幼稚園にたまたま通っていたこともあり(信者ではない)、キリスト教の世界観というのはなんとなくイメージが付きます。本屋で面白い本がないかなと探していると、この本が目につきました。タイトルが強烈ですね。よく考えたらキリスト教のコト、聖書のコトって知ってそうで、全然知らなかったなと思い購入。

本書を通じて旧約・新約の聖書をひととおり大雑把にストーリーを掴むことができたように感じています。タイトルにある通り、本当にどろどろした、人間っぽいストーリーだなと思いました。本当は違うのかもしれませんが、本書を読む限り。

イエスのこと、特に最後の晩餐から死んで復活するまでのことをある程度詳しめに書いてあり、なるほどと思いました。イエスって、死ぬまでは、みんなから本当に救世主なのか?ペテンじゃないのか?と思われてたんですね。一番弟子のペテロからもイエスの言う通り3回にわたって「イエスなんて知らない」とシラを切られるなど、師弟関係も微妙だったのかなと思ったりします。でも死後、復活し、使徒たちの面前に現れて指示するなど活躍。生身の身体ではないということですが、実際に疑っていた弟子もその姿を見て驚いたということなので、真実味があります。

聖書について、ざくっと流れを知っておきたいなという方には、この本はいいのではないかと思います。教養として。ほかに聖書関係の本を読んだことがないので客観性は分からないのですが、本書は聖書におけるゴシップネタの連続で、読むに飽きないストーリーで描かれています。

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◇藤井 哲也(ふじい・てつや)
株式会社パブリックX 代表取締役/一般社団法人官民共創未来コンソーシアム事務局長/SOCIALX.inc ボードメンバー
1978年10月生まれ、滋賀県大津市出身の43歳。2003年に雇用労政問題に取り組むべく会社設立。職業訓練校運営、人事組織コンサルティングや官公庁の就労支援事業の受託等に取り組む。2011年に政治行政領域に活動の幅を広げ、地方議員として地方の産業・労働政策の企画立案などに取り組む。東京での政策ロビイング活動や地方自治体の政策立案コンサルティングを経て、2020年に京都で第二創業。京都大学公共政策大学院修了(MPP)。日本労務学会所属。議会マニフェスト大賞グランプリ受賞。グッドデザイン賞受賞。

◇問い合わせ先 tetsuyafujii@public-x.jp

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