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伊藤大貴・伊佐治幸泰・梛野憲克「ソーシャルXー企業と自治体でつくる楽しい仕事」(2022年)を読んで。

SOCIALXのパートナーである伊藤さん、伊佐治さんと、梛野さんが共著で出した新著「ソーシャルX」。なんと!社名が書名になるという、すごい展開。本のタイトルを決める際に、出版社(日経BP)と協議があり、出版社も納得の上で決定。

トランスフォーメーションを意味するX。社会課題と事業を掛け合わせる意味のX。経験を意味するX。すべての意味を込めて「ソーシャルX」があります。

本書では「企業と自治体でつくる楽しい仕事」という副題の通り、官と民での共創(官民共創)の概念と最新事例を中心に、その成功に向けたエッセンスがちりばめられています。また政官民それぞれの官民共創のキーパーソンに対するインタビューも掲載されています。

以下、気になった個所を取り上げ、読後感を付しておきます。

▮気になった個所(備忘録として)

●官から民に事業を発注する上から目線ではなく、同じ目線の高さで社会課題を共有し合うことで、企業は自治体が抱える課題を初めて的確に把握できる。
(p21)

●この長い採用控えがじわりと自治体を苦しめている。一般に若いほど発想が柔軟で、情報への感度は高い。複雑化・多様化する社会課題と向き合うには柔軟な発想のできる人材は不可欠だが、採用を控えてきたことで、若い人材が地方自治体には絶対的に足りていない。
(中略)自治体の目の前には、解決したいけれども自前ではどうにもならない社会課題が山積している。これが、現在の“お役所仕事”のイメージである。視点を変えると、お役所仕事には多くのニーズが存在していることになる。
(p31-32)

●自治体が仕事内容を公開して企業のアイデアを募る公募プロポーザルは、自治体が持つ発注の仕組みの中ではイノベーティブな仕組みである。だが、自治体サイドが自分たちの抱える課題の本質を捉え、かつ的確に言語化できなければ、企業に対して「何を手伝ってほしいか」の的確なメッセージを発信することはできない。加えて、自治体の財政難が追い打ちをかける。成果物への適切な対価を用意できなくなっていく可能性がある。
(p40)

●これからの行政および公共サービスのあり方は「大きな政府」でもなければ、「小さな政府」でもない。「小さくて大きい政府」である。これによって行政を効率的に運営し、かつ公共サービスの質をこれまで以上に高める。そうした未来を実現しようと考えると、必然的に従来の常識ややり方は通用しないということになる。
(p69-70)

●ポイントになるのは“問いを立てる”ことにある。ウェルモは“問いの見つけた”のではない。「立てる」と「見つける」には大きな違いがある。ここは非常に重要なポイントだ。“問いを立てる”とは、インパクトを設定することと同義である。言い換えれば、理想と現実のギャップを定義する作業だ。
(p79)

●テクノロジーの進化によって経済合理性限界曲線が外側に広がり、ビジネスで解決できる領域が広がりつつある。この変化は「問題を解決できる人」から「問題を発見できる人」への価値のシフトをもたらす。
(p87)

●横浜市の答弁に少しだけ加えるのであれば、「企業と行政が対話を通じて、知恵とノウハウを結集し、新たな価値を創出すること」だろうか。そして、その新たな価値創出が社会課題の解決につながって、初めて共創ということになる。
(p109)

(p110)

●サウンディング型市場調査を機能や手法に関する情報収集/情報共有の場ではなく、プロジェクトのあるべき姿(ビジョン)を議論する場に切り替えるのだ。官民共創は大きく2つのフェーズで構成される。一つはビジョンの設定。もう一つは手法の設定である。
(p114-115)

●特に、公共サービスは機能よりも意味(ストーリー)が重要になってくる。「顧客=市民の体験がどう変わるのか」「市民にどのような体験を提供できるのか」という視点は極めて大切になる。
(p136)

(p138)

●共創で必要なことは「機能」ではなく「意味」を伝えることである。それが「どういう未来をつくりたいか」ということだ。意味を定義できて、初めて機能を実現する議論に着手できる。それ故に、問いは「意味」を伝える内容であるべきなのだ。
(p189-190)

●マーケットサイズが十分あることや、自治体の財政負担を減らせること、不便なことが解消されるということなど、「不確実性が少なく、相当の確度でうまくいく様子」を見える化することが必要です。普段はビジネスと直接的な関りを持たない公務員が腑落ちするように説明するには、分かりやすさは重要となってきます。
(p277、塩手能景氏インタビュー)

●SDGsは重要な概念ですが、純粋に追い求めるだけでは社会のコストにしかなりません。そこで、何かしらマネタイズする仕組みをつくって合理的に社会課題を解決しつつ長い時間軸で収益を得られる構造が必要になります。パーパス経営の潮流はこの文脈から来ていると思っています。
フランスは企業の成長と変革を促すため、2019年に「PACTE(企業の成長・変革のための行動計画)法」を制定し、「ミッションを有する企業」という、いわばソーシャルビジネスに対する国家認証制度をつくりました。つまり社会をパーパス経営型に変えていくための制度で、ダノンが適用第1号の企業になりました。
(p310-311、大野敬太郎氏インタビュー)

●国と地方自治体との関係も、同じような構造になるのがいいのではないか。自治体同士が連携・補完しながら機能し、必要な情報は国に連携され、国は大きな方針を打ち出す。国はすべての情報を管理するのではなく、各自治体が機能しやすい構造を設計してサポートする。お金(ヒトでは血液)が末端まで巡り、そのおかげでセンサーの値が入ってくる。人としての住民とコミュニケーションを取ること、そして人を含む外部環境との良好なインタラクションにより、そこで入ってくる情報は国の成長につながる。そのような循環の仕組みが理想ではないかと思われる。
(p346)

▮読後感

著者の3名とは事業パート―ということもあり、日常的にコミュニケーションを取っており、掲載されているプロジェクトなどは企画運営にともに携わっているものばかりです。
掲載されている事例や、また掲載されていない事例から、成功と失敗のエッセンスが醸成されてきており、それらを一冊にまとめた優れた一冊だと思います。

官民共創とは何か。まだまだ定義が定まっていない概念でありますが、本書が画期となって、今後、官民共創がより一層一般化し、10年後には、特段意識されない普通の考え方になっていくのではないかと思います。

本書でも取り上げられていますが、自治体や企業で官民共創に関わる人たちの「熱意」や「受容性」が重要ということですが、パートナーとなる官民共創の相手(自治体から見たら民間企業、民間企業から見たら自治体)への受容性のみならず、官民共創プロジェクトの地域実装には、住民や地域事業者が含まれてきます。そうしたステークホルダーも含めてマルチベクトルの受容性が求められるはずです。

フューチャーセンターについての記載があります。官民共創を解決策ではなくビジョンから一緒にパートナーやステークホルダーと一緒に議論していくことが地域課題の解決に不可欠なんだろうと思います。

今後の官民共創の課題は、資金をどうするかという問題があると思います。幸い、日本の大手企業には多額の留保金や、新規事業開発予算があります。こうした資金をいかに地域や社会課題の解決に使えるか、そうした仕組みづくりが必要になってくるはずです。

地域課題に取り組みたい方。新規事業開発に取り組みたい方。地方自治体で働くなんとか地域を良くしていきたいと考えている首長や公務員の方々へお勧めします。

「問い」の重要性を再認識しました。課題をデザイン(発見・定義)できる力がこれから求められていきます。

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◇プロフィール
藤井哲也(ふじい・てつや)
株式会社パブリックX 代表取締役/SOCIALX.inc 共同創業者
1978年10月生まれ、滋賀県出身の43歳。2003年に若年者就業支援に取り組む会社を設立。2011年に政治行政領域に活動の幅を広げ、地方議員として地域課題・社会課題に取り組む。3期目は立候補せず2020年に京都で第二創業。2021年からSOCIALXの事業に共同創業者として参画。現在、社会課題解決のために官民共創の橋渡しをしています。
京都大学公共政策大学院修了(MPP)。京都芸術大学大学院学際デザイン領域に在籍中。日本労務学会所属。議会マニフェスト大賞グランプリ受賞。グッドデザイン賞受賞。著書いくつか。

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