エンジェル投資家から資金調達するまで①
エンジェル投資家とは
経営者が資金をエンジェル投資家とは、企業に投資する個人投資家のことを指します。
基本的には起業を開始した初期の段階から投資を始めますが、場合によっては起業する準備の段階でも出資してくれることもあります。
起業や事業の発展にはどうしても資金が必要になってきますので、そういった事業の立ち上げを資金面で支える役割を持っているのがエンジェル投資家です。
さらに、金銭面だけのサポートでなく経営面でのサポートもしてくれる場合があります。
エンジェル投資家のほとんどが、これまでに事業で成功してきた人たちになります。資金に余裕があるのはもちろんのこと、自分たちがこれまでに行ってきた事業のノウハウなども保有しているのです。そのため、資金援助をしつつ企業が成長していくためのアドバイスも送ることができます。
エンジェル投資家と呼ばれるようになったのは1980年頃からです。元々は欧米で劇団や役者を支援する人のことを『エンジェル』と呼んでいたのですが、それがいつしか『起業家に投資する人』の意味でも使われるようになりました。確かに、支援が必要なベンチャー企業やスタートアップ企業にとって温かい支援をしてくれる投資家は『エンジェル(天使)』に見えてしまいますよね。
シリコンバレーの発展を支えたエンジェル投資家たち
エンジェル投資家の多くは、引退した起業家や実業家です。そういった事情もあるため、エンジェル投資家が行う活動は資金の提供だけではなく、起業した事業が軌道に乗るようにアドバイスすることも含まれます。
アドバイスの方法も人によって違いますが、第一線で活躍している現役の経営者を紹介したり、現状の経営についてどのようなことをするべきなのかをアドバイスしたりします。
エンジェル投資家は出資をする代わりに、支援した会社の株を取得するケースがほとんどです。
仮に起業家の事業が成功し株式を公開することになれば、それだけでエンジェル投資家に対して大きな利益が入るようになります。しかし、実際に新規事業を軌道に乗せて株式を公開させることは難しく、エンジェル投資家は『失敗するリスク』があることを前提に支援しているのです。
そんなエンジェル投資家たちがもっとも活躍した場所として有名なのが『シリコンバレー』です。ベンチャーキャピタルもシリコンバレーには多く存在し、起業家にとっては聖地のような場所になっています。
シリコンバレーの発展を支えたのはエンジェル投資家たちと言っても過言ではありません。今でこそ有名であるGoogleやYahoo!、Facebookなどの成功にも、エンジェル投資家の支援なくしては不可能だったのです。
日本にエンジェル投資が広がってきた背景
では、なぜシリコンバレーで大きな発展を見せていたエンジェル投資が日本に広がってきたのでしょう。日本のエンジェル投資家はアメリカなどに比べまだ少ないですが、徐々に増えつつあります。
その背景には、やはりベンチャービジネスに注目が集まっていることが挙げられるでしょう。
そういった、ベンチャー企業やスタートアップ企業が成長しているという事実は、長年有力企業をリードしてきたベテラン経営者や、IT起業で成功した人などからすれば投資のしやすい企業ということになります。
それに加えて、国も創業を支援するための税制優遇制度として『エンジェル税制』の導入を始めたのも大きいです。
この制度があるからこそエンジェル投資がしやすくなったと言っても過言ではありません。
エンジェル税制とは、創業から最長で10年未満の企業を対象として出資をした場合、その企業の株を取得した個人に対して大きく2つの優遇措置があります。
①対象企業に出資して株を取得した時(所得控除または株式譲渡益からの控除)
②対象企業の未上場株を売却したり、対象企業の破産、解散などにより損失が出た時(株式譲渡益から相殺)
エンジェル税制の対象企業となるには企業側でいくつかの要件を満たす、制度に関する手続きが必要になります。
しかし、ハイリスクハイリターンと言われているエンジェル投資に対して、投資先の企業が事業に失敗してしまったとしてもリスクに対するメリットが得られる制度はありがたいですよね。
こういった取り組みが、起業家にとってもエンジェル投資家から資金調達するチャンスが増えている環境になっています。
エンジェル投資家の果たす役割
エンジェル投資家が果たすのべき役割として与えられているのは、金融機関からの融資を受けにくい企業を支援することです。
投資という言葉を聞くと、もっともメジャーなのが銀行などの金融機関による『融資』でしょう。
融資は借りられる金額が大きい、銀行という安心感があるというメリットがありますが、融資という性質上返済義務があります。借りたものは返さなくてはいけませんし、それだけ審査も厳しくなっているのです。
今までに企業としての実績も融資された実績のない新規事業については、ほとんどの場合で審査が通らないです。とくに一定額以上の融資になると慎重度も増しますし、融資をあてにしている企業からすれば不安要素になります。
他にもベンチャーキャピタルと呼ばれる出資してくれる会社もありますが、起業直後であるスタートアップ企業に対する投資は少し厳しいです(銀行などの融資に比べると通りやすい)。
しかし、資金調達に苦しみがちなスタートアップ企業などを助ける存在としてエンジェル投資家がいるのです。
個人でも投資という強みを活かし、柔軟に幅広く支援することができます。資金だけでなく、起業が成長していくために必要な知識や経験なども伝授していくことが可能です。
エンジェル投資家の得意な業種
エンジェル投資家の多くが好むのは『ハイリスク・ハイリターン』のビジネスです。そもそもエンジェル投資自体がハイリスク・ハイリターンの投資だと言われています。
理由としては、やはり返済義務がないという部分でしょう。エンジェル投資は返済義務のある融資ではなく返済義務のない『出資』と分類されます。そのため、投資した企業が事業に失敗してしまった場合、投資した分は返ってこないということです。
その一方で、投資した企業が事業に成功して株式を持つようになれば、その株を優先的に付与されます。
そうなれば大きな利益が返ってくるということです。元からハイリスク・ハイリターンであるエンジェル投資の中でも、好まれているのが『インターネット関係や創薬・医療機器・ヘルスケアなどの医療関係』でのビジネスになります。
これらの業種は、軌道に乗って形になるまでに時間が必要になりますが、一度経営が軌道に乗ってしまえば大きく化ける可能性を秘めているのです。
日本はIT大国ですし、医療関係や創薬に関しても世界で高い評価を受けています。長期間サポートすることになりますが、大きく化けた際に株式売却などで大きな利益を得ることができるのです。
以上のような業種で起業を考えている経営者は積極的にエンジェル投資家に頼ってみましょう。
エンジェル投資家とベンチャー・キャピタルの違い①概要
経営者が資金援助の方法として『ベンチャー・キャピタル(VC)』というものが存在するので覚えておきましょう。
ベンチャー企業やスタートアップ企業に対して投資するという点では、ベンチャーキャピタルもエンジェル投資家も同じですが、エンジェル投資家は個人投資家なのに対して、ベンチャーキャピタルは投資事業を行う会社になります。
そのため、ベンチャーキャピタルはハイリスク・ハイリターンの利益を得ることを目的にしているのです。
ベンチャーキャピタルの母体となっているのは金融機関や企業だけでなく大学などもあり、独自に資金調達して活動しています。
ベンチャーキャピタルは起業当初のステージに投資するだけでなく、大きく成長を始めてIPO(上場)やM&Aなどに向かっていくステージの企業を投資対象とするものも多いです。
そのため、1件あたりの投資金額はエンジェル投資家より大規模なものになりやすい特徴があります。
エンジェル投資家にと比較してもベンチャーキャピタルの情報は多く公開されており、それだけ安心して取引することも可能です。
メンバーも各部門にプロフェッショナルを配置していることが多く、サポート面も充実しています。ただし審査は多少厳しく、株のIPOやM&Aなどを目指さないなど大きな利益が見込めない事業は投資対象になりにくいので注意しなくてはいけません。
投資してくれる可能性が高いのはエンジェル投資家ですね。
エンジェル投資家とベンチャー・キャピタルの違い②個人か法人か
エンジェル投資家は個人として投資を行いますが、ベンチャーキャピタルは法人またはファンド(投資事業組合)という形で投資を行います。
これがもっとも大きな違いでしょう。中には『個人か法人かでそんなに変わるものなのか?』と思われるかもしれませんが、大きな違いがあるんです。まずは、そこを理解しましょう。
個人で投資を行うエンジェル投資家の場合、個人資金を投入するということになります。
そういったこともあってか、投資家と経営者の距離が近くなりがちです。
これは悪いことではなく、人脈や適切なアドバイスの提供を得られるというメリットがあります。
ただし、経営の仕方などへの口出しも多くなるケースがあり、経営者によっては負担になってしまうこともあるでしょう。イメージとしては、出資者と一緒に会社を作り上げていくと考えれば問題ありません。
その一方で、ベンチャーキャピタルは投資家の資金を集めてファンドという形で投資してくれます。
法人として将来有望な企業に投資をしますので、それだけ多額の投資に期待することが可能です。ただし、銀行などのようにビジネスライクな関係性になることで審査もシビアになりますし、迅速な結果も求められる傾向にあります。経営に口出ししてくることも多く、経営者の負担は比較的大きめです。
エンジェル投資家とベンチャー・キャピタルの違い③出資金額の規模
エンジェル投資家は個人での投資になります。簡単に言ってしまえば、個人資産から投資するということです。
そのため、投資規模は数百万円から数千万円程度となっています。
企業に対する投資としては比較的少なめな印象を受けます。著名なエンジェル投資家であれば、多額の投資にも期待できるかもしれませんが、それだけの実績と優位性を示す必要がありますので、スタートアップ企業などでは少額投資が現実的です。
それに対してベンチャーキャピタルは複数の投資家から資金を集めてファンドを組成して投資を行うため、エンジェル投資家と比べると多額の投資に期待することができます。
会社としての経費も大きいので、それをカバーするために投資規模も大きくなるのです。投資金額は会社の規模などによっても異なるのですが、最低でも5,000万円程度から数億円規模の出資が行われます。
ただし、ファンドには期限が設けられているというデメリットがあります。
ある程度の期間内(一般的には3~7年)に確実なリターンを出すことが求められますので、経営者側からしたら負担が大きくなってしまうのです。
それに比べてエンジェル投資家は、結果を出すことも求められますが比較的しがらみは少なく、経営者の負担もそこまで大きくならないでしょう。
エンジェル投資家とベンチャー・キャピタルの違い④審査の違い
エンジェル投資家は個人での投資を行いますので、厳密に言ってしまえば審査というものはありません。
審査というのは、これまでの信用情報を加味して投資するか考えます。
今までに投資を受けてきたのか、しっかりと返済はしているのか、未納期間などはないか、申し込んだ金融機関はどのくらいあるのか、などです。
しかし、エンジェル投資家による投資をお願いする場合は、経営者の熱い想いや事業の将来性・成長性などを重要視します。
そのため、いかに投資家の心を掴むかが重要になるのです。
一方のベンチャーキャピタルでは、投資家の資金をファンドという形で運用する必要があるため、投資額もエンジェル投資と比べると大きる傾向があります。
そういった性質上、将来性のある事業かどうか金融機関と同様の審査が行われるのです。
これまでの実績や投資の履歴なども審査対象にされることも多く、それが原因でスタートアップ企業などは審査が通りにくい傾向にあります。
この審査があるか、ないかで出資までの時間にも差が生まれます。
審査は数日で終わるものではありません。長期間のプロセスを経て投資するかどうかを決めるので、投資の決定までに時間もかかってしまいます。すぐにでも資金が欲しい起業家にとっては煩わしいですし、最終的に投資を断られれば時間の無駄になってしまうのです。
エンジェル投資家とベンチャー・キャピタルの違い⑤出資ステージの違い
エンジェル投資家とベンチャーキャピタルでは、投資先に対して求めているものが大きく異なります。そのため、出資ステージが異なるビジネスモデルとも言えるでしょう。
エンジェル投資家は、起業する前・起業したてのスタートアップ企業から資金援助を行うことが多いです。
そのため、ハイリスク・ハイリターンを目指しているビジネスモデルと言って良いでしょう。創業したての時期に成長資金が必要な経営者に向いています。
ベンチャーキャピタルでは、そういったリスクを比較的少なくすることを前提とし、投資したからには確実なリターンを求めるビジネスモデルです。
そのため、スタートアップ企業よりはベンチャー企業など、ある程度成長した企業が拡大するのに必要な資金をまとめて集める際に利用する傾向にあります。上場を目指いしている企業などは積極的に活用してみましょう。
もちろん、これらはあくまで一例であり確実なものではありません。
あくまで傾向としての話ですので、中にはスタートアップ企業に出資してくれるベンチャーキャピタルもありますし、逆にスタートアップ企業には出資しないというエンジェル投資家もいます。
しかし、こういった違いがあることを把握しておくと、どちらを選ぶかの判断基準に役立ちますので、ぜひ参考にしてみてください。
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