ゲンゴロウブナの刺身は絶品
川魚の刺身って、コイとイワナとアユぐらいしか食べたことがなかった。ましてやフナなんて、鮒寿司以外に口にできるとも思っていなかった。
2月上旬「コイを食べられるかも」ときいて、一升瓶をかかえて木津川流域に拠点をおく川魚マイスターのKさん宅におじゃました。
「きのうは潜ったんだけど、水がにごっていてコイはとれませんでした。とりあえず投網でためします」
木津川べりのよどんだ場所にたどりつくと、
「あ、鯉がいますねぇ」
水面がわずかに波打っている。
足音をしのばせて、川にちかづく。
「だめですねぇ。はなれちゃいました。とりあえずやってみますか」
投網をパーッと投げて、ゆっくりひきあげる。Kさんは首をふる。かかっていないらしい。
3回、4回、5回。あちこちで網をなげる。
20分後、丸々太った40㎝ちかい魚を手にぶらさげてもどってきた。
「ゲンゴロウブナです。コイはとれなかったけど、これもうまいですよぉ」
Kさん宅の庭の水道で金属のようにかたい鱗をとり、きれいに研がれた出刃包丁であっというまに三枚におろす。
黄色い卵がたっぷり。
腸がすさまじく長い。人間でも男より女のほうが腸は長い。肉食動物よりも消化の悪いものを食べる草食動物のほうが長い。フナは草食系なのだろう。
腹の骨の周囲は厚めに切る。
「これは塩焼きにします」
小骨があるから、鯉も鮒も刺身は薄切りだ。
「夏は生臭くて食べないけど、今は脂がのって最高です」
こりこりした歯ざわりはヒラメのエンガワに似ている。しかもヒラメよりはるかに脂がのっていている。ノドグロとくらべても遜色ない。
塩をふって七輪で焼いたハラミは脂がジュージュー落ちるほど。淡水魚がこんなにうまいとは思わなかった。
一升瓶1本と、四合瓶1本、缶ビール4缶を3人であけたら、へべれけになった。