民博「日本の仮面――芸能と祭りの世界」
民博の「日本の仮面――芸能と祭りの世界」を見に行った。
能や狂言など、さまざまな面がある。それらをただ年代別やカテゴリーで分類してならべるだけでなく、「仮面」の意味をさぐる。民博の展示のおもしろさはそんな「意味」の抽出にある。
縄文時代や弥生時代から能面のような不気味な「仮面」は存在した。
島根の神楽は豪華で華々しくて楽しい。出雲では、江戸時代は神職がになっていたが、明治になって、氏子が上演するようになり、それを神楽道具の貸元がささえた。そんな変化がなければ、出雲や石見の神楽の隆盛はなかったのだろう。
輪島の名舟大祭(御陣乗太鼓)の面もならんでいる。一般に「上杉軍に対抗するためにかぶった仮面」とされるが、「敵をおどすため」とあえて「上杉」とは書いていない。郷土史家によると、舳倉島などの漁業権の争いがもとになっており、「上杉に対抗」というのは作り話だ。民博の研究者はそれを知っていてあえてぼかしたのだろう。
秋田のナマハゲ、岩手のナモミ、山形県遊佐町のアマハゲ、能登のアマメハギはどれも似ている。東北から北陸、さらに南九州にまで広がり、折口信夫のいう「マレビト」的な神霊を表現しているという。
浄土真宗の蓮如が拠点をおいた吉崎(福井県)・願慶寺の「嫁威肉付きの面」の不気味な伝説も紹介している。
最後は、月光仮面(昭和33年)やタイガーマスク、仮面ライダーといった仮面のヒーロー。このへんの広がりが民博らしい。
吉田憲司館長の講演は聴きとりにくかったが、内容はおもしろい。
世界につたわる仮面は、動物や宇宙人をモチーフにしたものが多い。鬼も鞍馬天狗もウルトラマンも「異界」からやってくる。神霊や異界を可視化してその力をコントロールしようという意志が仮面にこめられている。
一方、人間は自分の「カオ」をみることができない。仮面は「他者と私のあいだの新たな境界」という。
子どもが仮面ライダーの仮面をつけることで、強くなったような気になる。オトナの仮面にも似たような作用がある。超能力のようなものを身にまとうことができると感じたから縄文時代から今にいたるまで「仮面」がつくられつづけてきたのではないか……