勉強が頭に入らないのには理由があった。〜認知処理スタイルと対策〜
なぜこの子は、伝えたことが頭に入らないんだろう…。
なぜこの子は、順序立てて話せないんだろう…。
なぜこんな単純なことができないんだ!
その問題は、あなたとあなたのお子さんの認知処理スタイルの違いから発生しているのかもしれません。人にはそれぞれ「わかり方」に得意、不得意があります。
さて、ここで一つ質問です。
あなたは、デジタル時計とアナログ時計、どちらが分かりやすいですか?
これには、個人差があり、どちらが良い、悪いはありません。認知処理スタイルによって、どちらが理解しやすいタイプの人かに分かれます。これらのタイプにより、理解がしやすい勉強方法も変わります。逆に、不得意なスタイルの勉強方法をとっていると、理解に時間がかかり、自分は勉強ができない人間だと自信を無くしてしまうことにも繋がります。
今日は、この認知処理スタイルと、その対応策についてみていきましょう。
(専門家の監修を受けていないので、ご参考程度に)
参考文献はこちらです。ご興味がある方は是非、お手にとってみてください。
1 知らないと怖い「わかる」方法の個人差
人間の認知の仕方には2パターンが存在します。
継次処理スタイル:情報を1つずつ順番に処理していくタイプ
同時処理スタイル:複数の情報を関連づけて同時に処理していくタイプ
人間は、この2つのタイプを状況によって使い分け・または組み合わせて情報を処理しています。これらのパターンは、個人で強い・弱いがあっても、年齢を重ねるごとにバランスよく発達していきます。しかし、2つの情報処理スタイルのアンバランスが大きく、得意と不得意がはっきりしている子もいます。その子の場合、不得意な処理スタイルで指示をされると、学習に極端に時間がかかったり、許容量を超えて学習継続ができない状態になってしまうことがあるので、認知スタイルに合った学習が必要です。
1.1 あなたの認知処理スタイルは?
あなたの認知処理スタイルをチェックしてみましょう。以下の例では、あなたはどちらの方が使いやすいですか?
1. 時計:デジタル or アナログ
2. ナビ:文字&音声案内 or 地図
3. 家事:順を追って1つずつ&同時に複数
4. 情報の受け取り方:1ソースから深く & 同時に複数リソースから幅広く
5. 分かりやすい指示:細かい取説が得意 & ざっくりが得意
継次処理が優位:左側が多かった人
同時処理が優位:右側が多かった人
どちらかといえば、こっちに得意なものが多い、という方が多いのではないでしょうか?私たちには(指導する先生方にも)、強い認知処理(得意)・弱い認知処理(不得意)があります。
親と子どもの認知処理スタイルが違う場合、子どもにとって理解がしにくい方法で指示を出してしまい、結果的に子どもが理解できない状況が生まれ、親がイライラする、という構図が生まれます。認知処理の偏りが大きい場合、子どもに勉強を教えていて、なぜこんなことも理解できないのかという状況になる可能性も高くなります。
1.2 継次処理とは (Sequential Processing)
継次処理は、脳が一度に一つの情報やタスクに焦点を当て、時間的な順序で処理していく様式です。継次処理の人は、タスクを順番に進め、一つのことを深く理解しようとします。彼らは通常、注意を分散させずに一つのことに取り組むため、細部に注意を払うことができます。これは、詳細な分析や専門的な知識を必要とするタスクに向いているとも言われています。
1.3 同時処理とは (Parallel Processing)
同時処理は、脳が同時に複数の情報やタスクを処理しようとする認知特性です。同時処理を得意とする人は、複数のことの間に関連性を見つけ、同時に処理し、情報を統合することが得意です。これにより、異なる情報源からの情報を結びつけて全体的な理解を高めることができます。同時処理の人は、多くの情報を同時に受け入れ、多くのことを同時にこなすことができるため、複雑な問題に対処するのに適しているとも言われています。ただし、一度に多くの情報を処理しようとすると、情報の過負荷や混乱が生じる可能性があり注意が必要です。
同時処理と継次処理は、どちらの方法も長所と短所があり、状況や課題に応じて使い分けることが大切です。自分の得意な方法を理解し、それを活かすことで、効率的な仕事や学習をすることができます。
2 効率的に「わかる」方法ってあるの?
継次処理が得意(継次処理の力が高く、同時処理能力が低い)な子は、連続的&段階的&順番に学習や作業を進めると、効率的です。
同時処理が得意(同時処理の力が高く、継次処理能力が低い)な子は、全体を把握してから、細部へと進めていくと効率的です。
多くの子どもは認知スタイルのバランスが取れているので、取り組む対象が認知レベルに合っていれば、どちらの方法でも問題ありません。
2.1 効率的な学習方法とは
学習面において、継次処理が得意な子と、同時処理が得意な子で使い分けているテキストと宿題の例をご紹介しましょう。(弊社、価値ビンの場合。ご参考まで。)
継次処理の強い子ども達には、いくつかのステップに分け、難易度などの順序を踏まえて上から下へ、学習を進めます。(部分から全体へ)聞かせる、読ませる、言わせる(聴覚的・言語的手がかり)で言語化を重視します。
同時処理の強い子ども達には、全体の狙いをしっかり理解してもらいます。全体のストーリーを把握し、何を問われているのかを認識してから、文章から手がかりを探し、解答を導きます。(全体から部分へ)画像や映像を見せること(視覚的)を重視し、複数の情報の関連性があるものを提示します。
一般的に、集団で学ぶ(座学)学校で良いとされている指導方法は、一つ一つ、丁寧に順序立てて段階的に教える継次処理型指導です。同時処理型指導は、子ども達の学習過程や学習進度が見えにくいこともあり、実施が難しい面もあるようです。
2.2 認知スタイルの違いが家族の亀裂をうむ
家族メンバーであっても、認知処理スタイルに違いがある場合があります。
このご家庭では、お母さんが息子さんにカレーを作るお手伝いをしてもらうために指示を出しています。
お母さんの、順を追って細かく説明している内容に、息子さんは嫌そうな顔をして、手を止めています。実は、お母さんの指示がよく理解できないのです。その隣で、お父さんが言いました。
息子さんは、このざっくりとしたお願いにも関わらず、さっさと番組を変えてくれました。息子さんにとって、父親からの指示は分かりやすかったのです。お母さんはその様子を見てイラっとしています。笑
このご家庭の例では、認知処理スタイルで考えると、息子と父親は同時処理が得意、母親は継次処理が得意なタイプなのですね。人間には2つの認知スタイルがあることを知らなければ、「自分のスタイルが当然至極のもの」と思い込んでしまい、その認知スタイルが苦手な相手に対して、どうして理解できないのだろう、気遣いが足りないなどと思ってしまうことがあります。
3. 家族へのイライラは減らせる!?
異なる認知処理スタイルを持つ家族のメンバーとのコミュニケーションは、誤解を防ぐために不可欠です。認知スタイルを理解し、互いの強みと弱みを認識し合いましょう。
3.1 認知スタイルの尊重
最も重要なのは、家族のメンバーの認知スタイルを尊重することです。同時処理の人が同時に多くのことをこなすことが得意であるとしても、継次処理の人が一つのことに集中したいときにはそのニーズを尊重しましょう。逆もまた然りです。
3.2 家族の会話の改善
同時処理の人が会話中に複数のトピックを同時に持ち出すことがある一方、継次処理の人は一つのトピックに集中したい場合があります。同時処理優位の人は、継次処理の人が話しているときに待つことや、トピックが変わるのを指摘されることに理解を示すことが大切です。逆に、継次処理優位の人は、同時処理優位の人が話す際に注意深く聴くことが重要です。
3.3 タスクの分担と調整
家事やプロジェクトなどのタスクを分担する際、認知処理スタイルに応じて役割分担や進行方法を調整しましょう。
4 家での近道学習のコツを教えて
4.1 学習環境の最適化
子どもが同時処理優位のタイプであれば、静かな環境で複数の教科を同時に勉強できるようなスペースを提供しましょう。継次処理優位のタイプであれば、一つの教科に集中できるような学習環境を整えることが有益です。
4.2 子どもの学習サポート
子どもが同時処理または継次処理のどちらのタイプであっても、彼らの学習スタイルを尊重し、サポートを提供しましょう。同時処理の子どもには複数の教材を提供し、継次処理の子どもにはタスクを段階的に進める方法を教えることが有効です。
4.3 「継次処理」タイプの勉強方法
継次処理タイプの人は、一つのタスクに集中することが得意なので、以下の方法が適しています。
徹底的な理解: 一つのトピックや教材に時間をかけ、徹底的に理解しましょう。英語学習の場合、一つの文法ルールや語彙を十分にマスターすることができそうです。
ノートテイキング: 詳細なノートを取ることで、学習内容を整理し、理解を深めることができます。自分の言葉でまとめたノートは後で復習する際に役立ちます。
フラッシュカード: 単語やフレーズを覚えるためにフラッシュカードを活用しましょう。継次処理タイプの人は反復学習を好むことが多く、フラッシュカードはそのために適しています。
時間管理: 一つのタスクに時間をかける可能性が高いため、時間管理が重要です。トピックごとに学習スケジュールを立て、それに従って進めることで、効率的な学習が可能です。
4.4 「同時処理」タイプの勉強方法
同時処理タイプの人は、複数の情報やタスクを同時に処理できるため、以下の方法が役立つでしょう。
マルチタスク学習: 複数の学習資料やリソースを同時に活用しましょう。例えば、英語の勉強において、リーディング、リスニング、スピーキングのスキルを同時に鍛えるため、音声教材を聞きながら同時にテキストを読むことができます。
メディア多様化: オーディオ、ビデオ、テキスト、オンラインコースなど、多種多様なメディアを活用しましょう。同時処理タイプの人は、異なるメディアを同時に組み合わせることで、情報をより効果的に吸収できます。
交流と実践: 言語学習の場合、言語を使ってコミュニケーションを取ることが理想的です。同時処理タイプは、言語を実際に使用することで効果的に学ぶことができます。言語交換パートナーとの対話や外国語環境での実践経験を積むことが役立ちます。
5 認知処理スタイルがわかる検査はコレ
知能検査の中には、継次・同時のフォーマルなアセスメントができるものがあります。代表的なものに、KABC-Ⅱ、DN-CASなどが挙げられます。(2019年7月時点)
継次・同時にこだわらないのであれば、個別式の知能検査の代表的なものに、ウェスクラー式知能検査、ビネー式知能検査、カウフマン式検査などもあります。
かつての知能検査は、集団と個人を比べたときに、その人がどこに位置するかという「個人間の差」を明らかにする検査でした。
最近の知能検査は、その「個人差」と合わせて、その人自身の得意分野・不得意分野である「個人内差」に注目する流れになっています。
知能検査の受診を検討する際は、地域の相談窓口で聞いてみるのも良いでしょう。費用は、検査の種類や病院・機関によって異なるので、事前に問い合わせすることをお勧めします。
教育相談室(センター)
発達相談室(センター)
子育て支援センター
発達障害者支援センター
医療機関
Cross-battery Assessment(XBA)アプローチというものもあるようです。とても単純にいうと、複数の認知検査、 到達テスト、神経心理学検査を組み合わせることにより、 心理アセスメントの実践家がより体系的で、 信頼性があり、理論に基づいた検査の解釈ができるようにすることを目指すアプローチのことだそうです。興味深い論文を見つけたので、貼り付けておきます。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsneh/12/0/12_11/_pdf/-char/ja
参考にさせていただいた藤田和弘氏の著書にも、大まかな認知スタイルを見分けるチェックリストがついています。(ブログ冒頭でご紹介済み)
6 最後に
自分や家族の認知処理タイプを理解し、自分たちの状態を客観的に見ることができるようになることで、新しい角度からのコミュニケーションを行う大きなヒントになります。学習のみならず、家族関係の改善にも繋がりそうですね。家族全体の調和を保つためにも、コミュニケーションと柔軟性がキーワードです。
家族メンバーの多様性を活かして協力し、お互いの強みを最大限に生かしていけると良いですね。
(株)Kachibin
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「価値ビン」が目指しているのは以下の2つです。
1) 子ども達自身が自らの成長を感じて「僕の・私の価値がビ~ンと上がった!」と感じてくれること。
2) 彼らに関わる大人達が、子ども達の変化を感じて自分の価値がビ~ンと上がった!」と感じてくれること。
このブログが、我々が子ども達の成長のサインを見つけて受け取り、彼らと共に学びの旅を歩むための、数ある冒険の書の中の一つとなってくれることを願っています。