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地域包括の保健師とは〜実際の仕事内容、得られるスキル、キャリア〜

こんにちは!ふじはる(@_fujiharu_)です。
東京都内の委託型地域包括支援センターの保健師を3年勤め、先日卒業しました。

マシュマロで地域包括の保健師についての質問を募集したところ、字数制限的にマシュマロでの回答が難しい質問があったため、noteでお答えします。

今回はこちらの質問です。ドン!
(質問ありがとうございます)

1.はじめに(地域包括の業務内容とは)

地域包括支援センターのミッションは、
地域包括ケアの中核機関として地域の65歳以上の高齢者とその家族の方を対象にさまざまな相談に乗ります。メインで扱うのは介護保険制度、根拠法は高齢者虐待防止法が多いです。

具体的には以下の4大役割・業務があります。

①総合相談支援
・高齢者とその家族のなんでも総合相談。
個人的要因と環境的要因から見たアセスメントに基づく制度横断的な支援の実施。
・必要な制度や事業、社会資源の案内、多機関と連携したケースワークの実施
(電話相談、窓口来所、訪問)
・サービス利用には至らないが継続したフォローが必要な人の個別支援(救急対応が必要と予測されるケースへの緊急訪問なども)

②介護予防ケアマネジメント業務
・身体的/精神的/社会的状況と環境的要因から見たアセスメントに基づき現在状況の把握、課題の分析。
・その人に合った介護保険サービスや自治体の総合事業の利用の提案と新規導入サポート、介護予防ケアプランの作成、継続的ケアマネジメント。
・介護保険請求業務
・家族介護者教室の企画・実施

③権利擁護業務
・高齢者虐待対応
・成年後見制度、地域福祉権利擁護事業の活用サポート。

④包括的・継続的ケアマネジメント支援
・ケアマネへの支援(支援困難事例ケースへの直接的助言・指導、「地域ケア会議」等を通じた地域のネットワーク構築、地域課題の把握、自立型ケアマネジメントへの支援)
・在宅で暮らすための退院調整(医療機関やサービス事業所との調整)
※自治体や運営法人によって実際の仕事や職種役割の違いがあります。

<そのほかの業務>
⚪︎在宅医療・介護連携促進事業の企画、実施。
⚪︎認知症支援
(認知症サポート医との連携、チームオレンジの立ち上げ)
⚪︎生活支援体制整備
(地域の資源開発、関係者間や住民同士のネットワーク構築、第二層協議体の立ち上げや運営)

※聞き慣れない言葉が多く分かりにくいと思いますが、こちらの厚労省の資料を添えておきます
⇨「総合事業・生活支援体制整備事業の取組のポイント」
https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/tohoku/gyomu/bu_ka/tiikihoukatsu/documents/documents/300315sinkoukasiryo.pdf

職種ごとに仕事内容を分け運営している包括もあるようですが、
私がいた包括は「自分一人しかいない時にどんな方が来ても対応できるように」という方針でしたので、職種の幅を超えて行っていました。
介護予防と認知症事業は特に保健師に任せられていました。

入職時から「地域での活動がしたい」との思いが強かったので、生活支援体制整備などの地域づくりにも積極的に関わっていました。
(ケアプラン担当数や個別ケースでの関わりも、そこそこの件数を持ちながら)

2.地域包括で働くと得られるスキルや経験、次に活かせる強みは何か?

※あくまで個人的な経験に基づく個人的見解です。

①対人支援職/相談支援員としてのスキル

高齢者は、そもそも自分が何に困っているかが分からず相談に来ることも多く、
まずは「主訴をつかむ」が相談支援員としてのはじめの一歩なスキルだった気がします。
そこから、何が事実で本質的な課題なのかを見極めるために身体・精神・社会参加・経済面からアセスメントしていきます。
複合的な課題を抱えていることが多いので、
対話をし、複雑に絡んだ紐を解きながら優先順位と緊急性に応じて個別支援計画を立てPDCA実行していきます。

必要があれば、家族システムをアセスメントしてキーパーソンにアプローチ、関係機関とのつなぎ、期待値調整なども行います。

電話や来所相談だけでは実際の状況がアセスメントできないことも多いので、訪問も1日1〜5件くらい行っていました。

数年単位の長期的視点と、その日ごとの短期的な視点を持ち、
スケジューリングしていく能力なんかも自然と身についたように思います。

②関係機関、さまざまなステークホルダーとの連携調整スキル

地域包括支援センターは、かなり多くの方々と連携し、チームで支援していくことが多いです。
具体的には、介護保険サービス事業所、自治体の保健センターや高齢部門・障害部門・福祉事務所、病院、施設、自立支援利用中の訪問看護ステーション、警察、救急隊、消防、民生員、そのほかいろんな機関や人と連携していきます。

それも、毎回対象者によって緊急性とその人に合ったスピード感を見極めて、アプローチの仕方を変えたり、伝え方の工夫が必要になります。

(このスキルを評価していただいて、転職活動では同じ地域で働いていた医師から、まさかの有難いオファーを頂いたりもしました。介護・福祉業界のスタートアップ企業からお声がけを頂いたりもしました。
高齢者支援に関することはほぼ何でも知っていること、連携や調整をどんな相手でもできるコミュニケーション能力、これが意外と貴重なスキルなようです)

また、まちづくりにおいて必要な『こんなケースはどこに繋げば良いのか』
『こんなことやりたいけど、どこと連携すれば良いのか』も分かるようになる
ので、
兼業の銭湯ぐらし(小杉湯健康ラボ)でも、存分にその知見を生かしていました。

ちなみに、最近は部署を超えた複合的な課題を持つ世帯への支援が増えているので、
中には高齢部門・障害部門・成年後見・在宅医療チーム大集合!というようなケースもあります。
そのようなケースは大変な部分もありましたが、同時に解けそうで解けない問題に向かっているような、アドレナリンが出る瞬間は嫌いではなかったです。緊張したけど楽しかった。

③本人や介護者、地域の方々を含むメンタル対応や病識のない方への知識を付与し、行動変容へとつなげるスキル、多職種へ医療知識の翻訳。

地域には想像以上に精神疾患を持ち暮らしている方が多いです。
それも、色んな背景をお持ちで、正しく医療に繋がらないまま高齢期になった方も多いです。そんなとき、本人は困っていなくても家族や地域の周りの方が困っている・・・

本人の周りから相談が寄せられ、その人が安全に暮らせるように、さまざまな手段を検討して生活を整えていく。一筋縄ではいかず、時間もかかることが多いです。そんな時には地域ケア会議の開催等を通して、立場の異なる意見が出る中
「本人にとって何が良いのか」をブレずに考え、
一つ一つ課題をクリアしていきました。

本人や介護者のメンタルケアをはじめとし、
多くはありませんが、希死念慮や自殺念慮のある方の相談対応、23条通報などの場面もあります。
そのため、包括で働き出してから精神疾患に関してよく勉強するようになりました。

本人だけじゃなく家族や地域の方々のケアもする、そんな力が身につくと思います。(必須)

バックグラウンドの異なる職種と働くので、
医療的な知識をもとに積極的に緊急性の判断をし、わかりやすい言葉に翻訳して伝えていくことも大事な役割です。

④ポピュレーションアプローチでPDCAを回し事業を進める

ケアマネと変わらないのでは?と思う時に足りないのは公衆衛生看護としての仕事ができていない時でした
正直、包括はなんでもやる!からこそ、専門性を見失いがちになる可能性もあると思っていて。

保健師は、公衆衛生看護の視点があります。地域診断を行い、地域特性と課題を見つけ、地域全体の健康の底上げをしていく。
個別ケースに追われて思うように時間を割けないジレンマなどもありましたが、認知症事業でのチームオレンジの立ち上げは「誰をメンバーにするか」「何を目指すか」など先輩保健師と考えて、最高のメンバー様(住民)と、地域をどう支えるかを考えられて、教えてもらうことも多くて、無事やり切れて楽しかった〜(先輩のおかげが大きい)
ミクロとマクロの視点を持って活動できている時が一番楽しい!

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3.自分で納得してここで働きたいと思う場所を探す良い方法

・好きな街を見つける(この街で自転車を漕いだり自動車で訪問している自分がイメージできるか)

・バイブス一緒だ!と感じる人たちを見つける(Twitterで発信してたら私は出会いました)
 元はと言えば、訪問看護ステーションの同行訪問がこの街との出会いで、
 転職前に地域に対する思いを発信していたら仲良くなったお兄さんお姉さんがこの街で働いていて。そんな人たちと一緒に働けたの本当幸せだった!

https://nc-iori.com/%E3%81%94%E8%BF%91%E6%89%80%E3%81%AE%E4%BF%9D%E5%81%A5%E5%B8%AB%E3%81%95%E3%82%93/

自分の思いを伝えるって大事です。

看護師を辞めた時から自分の部屋の壁に貼ってた。笑
もう叶ったね!

地域包括は保健師が1人な職場も多いですが、
わたしの場合は人としても保健師としても尊敬できる先輩がいて、一緒に働けたのはありがたい奇跡でした。

地域包括に同期はいなかったけど、
むしろ20代もいなかったけど、
同じ地域で働く在宅医療の皆様に支えられました。センター内だけでなく、同じ地域のケアマネさんやサービス事業所の皆さんに教わることも多かったです。
これは本当に偶然の奇跡だったのですが、
近隣の訪問看護ステーションに同い年の二人がいて、最強に心強かった!
これからもきっとお世話になります。たまに訪問中に自転車ですれ違うと、元気もらってた。

4.包括で働くと地域に根ざした関わりはできるか?(包括と小杉湯の活動のように)それとも、自ら居場所を見つけて、仕事とは別の場所で活動をしていくものなのか?

まず先に示しておくと、わたしの小杉湯への関わりは「コミュニティナースとしての兼業」です。
本業の担当エリアではないのですが、好きで、
自分がやりたいので、かつ、ありがたいことに
ニーズがあって、関わらせてもらっています。

※おそらく包括の仕事としての小杉湯と思ってらっしゃるのかもしれないのですが、別です。
ただ小杉湯の活動をするにあたり、小杉湯の担当地域包括との連携はさせてもらっています。
(小杉湯の担当地域包括さんにも、コミュニティナースとしての活動と本業の棲み分けにご理解をいただいたおかげで、ここまで無事にやってこれました)

質問者さんへの回答をすると「地域に根ざした関わりもできるし、自分で見つけて開拓もしていく」です。

地域に根ざした関わりをしてこその地域包括ですし、地域資源の把握(自ら場所を見つけていく)をした後に、その力を十分に発揮できるように伴走していくのが保健師です。

生活支援体制整備(地域ネットワーク形成)という役割も、地域包括は担っているのでできます。
入職したての時に「自治体広報を見るのも仕事だよ」と言われ、業務時間内に広報見ていいんだ!と歓喜した記憶があります。

本業エリアでも、銭湯にお便りを持っていき信頼関係を築き、相談し相談される関係を築いていましたし、新規にお寺周りをしたこともあるし、
商店街への挨拶も大事ですし、NPOさんなどもとても大事。(他にも街はソーシャルキャピタルの力を持つ場に溢れています)

5.おわりに(一番伝えたい、キャリアのこと)

キャリアは自分で切り拓いていくものだと思っているので、
今までにお話しした「はじめに」以外は、
あくまで、わたしの場合、です。

地域包括で働いていれば、リスペクトしている家庭医から声をかけられるわけでも、企業転職ができるわけでもありません。
スキルを得られるかは自分次第だと思います。

ありがたいことにわたしの発信を通じて、
地域包括支援センターに転職をしました!と声を聞くこともありますが、自分のキャリアに責任を持てるのは自分だけだと思っています。

コミュニティナースとして小杉湯の活動は続けますが、
春からは、新しいチャレンジをします。
地域包括での3年間よりももっと険しくて大変だろうけど、見たい世界があるので、次に行きます。

あと、転職活動をする中で感じたのは
「銭湯ぐらしがキャリアになってた」です。
正直、はじめは仕事ではなく”やりたいからやっていた”なのですが、
気づけば仲間がいて、目標があって、自分にとってのコミュニティであり、地域にとってのチームになっている。
もうわたしが想像していたよりも全然、すごいことになっている。
その経験を評価していただくことが多くて、驚きました。

春からは、健康ラボも楽しくやるし、
きっと銭湯ぐらし他チームのロジカル兄さん姉さんたちに泣きつくことがあると思うので、
引き続きよろしくお願いいたします♨️
本業が変わっても、ここがあるから大丈夫、と
思える場所があるってなんて尊いのでしょうか。

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