岸田氏の政権投げ出しに思う
岸田文雄氏が8月14日突然、自民党の総裁選には出ないと表明し総理大臣を退くことになった。総裁選で勝利する目算がないのが理由だろう。この人には失望するし腹立たしくもある。いま世界は一歩間違えば第三次世界大戦が起きる危機にある。初めて原爆を落とされた広島から選出された総理大臣なのだから、世界を平和に導く大仕事をしてほしかったのだが、やはり期待するほうが無理だった。
岸田氏が総理になったとき、市民運動のなかで「安倍に比べてやりにくい」という声が出た。秘密保護法の制定、憲法9条改憲の策動、集団的自衛権の容認、モリ・カケ・サクラ疑惑など強権政治のデパートのような安倍氏に対しては「安倍やめろ」のスローガンでよかった。しかし、「聞く力」を前面に「新しい資本主義」や「異次元の少子化」とか、語り口もソフトに一緒に考えましょうと言ってくる総理大臣には対抗するスローガンが見つけにくかった。
手強かった自民党の選挙
2021年10月に岸田氏が総理になり最初の衆院選で、私たちが住む広島2区では初めての「野党共闘」候補が実現し、私たちも立憲民主の候補者で共産党も支援する大井赤亥さんを応援したが、「表紙」を変えた自民党の底力を見せつけられ、ダブルスコアに近い票差で負けてしまった。「菅総理だったら勝てたのに」という恨み節が市民運動の中からも聞こえた。政権を長年維持する自民党のすごさ、逆に付け焼刃の野党共闘のもろさを痛感した。でも、私は岸田総理には混迷する世界の中で日本をどうするという根本政策がないと、この選挙を通じて感じた。
安倍国葬の誤り
安倍氏が統一教会の「信者2世」の男に銃撃されて殺される事件が2022年7月8日に起きた。自民党と統一教会の関係が暴露された。そんなときに岸田総理は安倍氏の国葬を強行した。世論調査では6割以上が国葬に反対しているにもかかわらずだ。最大派閥の安倍派の支持を得るのが目的だった。国葬は、戦前に東郷平八郎や山本五十六らを「軍神」にたてまつって、悲惨きわまりない戦争をあおったとして、新憲法下で廃止された。安倍氏の親類である佐藤栄作氏が吉田茂氏の国葬を強行したときにも、憲法違反の声が上がり、立法化の検討もされたが、現憲法下では無理との判断で作られていない。それなのに岸田総理は、安倍国葬を「閣議決定」という安倍氏が多用した強権的手法で強行した。統一教会と自民党の関係清算についても本当にできたのか、よく分からない。相当に関係深い人たちが自民党の幹部に居座っている。安倍国葬について、私たちは国葬に出席した広島県の湯崎英彦知事と中本隆志県議会議長を相手取って使った公費を返還させる訴訟を起こしている。
防衛費倍増を国会閉会中に発表
2022年12月には岸田総理は唐突に2027年度までに防衛費を倍増してGDPの2%まで増額すると言いだした。国会が閉会した直後に表明するという民主主義の基本をわきまえない強権政治である。安倍政治となんら変わらない。米国と約束したことを忠実に実行すれば政権は維持できるという思惑もあるのだろう。私は防衛費を増額するより今は削減して、日本は戦争する意思はない、憲法9条を忠実に守ると宣言したほうが、戦争は防げると思う。一方で、攻められたらどうするのか、米国の核の傘で守ってもらうのが得策、米国の言うように防衛費を倍増して沖縄周辺で対中国の防衛線をつくろうという意見も賛成はしないが排除はしない。要は国会の場で堂々と論議し、国民にも議論してもらえばいいのだ。
広島のG7サミットで核抑止の強化を宣言
2023年5月のG7広島サミット。できないと思いつつも期待したことがある。「広島出身で核兵器のない世界がライフワーク」と言う岸田総理なら、このサミットの場で、核兵器をすぐに廃絶し世界を核戦争の危機から救おうと表明してほしい。しかし発表された「広島ビジョン」なる文書は、米国などG7の核兵器は防衛目的であるが、ロシアなどは侵略のために核兵器を使おうとしており、G7の核抑止を強化して平和を維持しなければならないという、啞然とするものだった。広島から恥ずかしげもなく核兵器の存在価値を高らかに世界に発信してしまったのだ。想定したなかで最悪の事態だった。その議長を務めたのが岸田総理である。でも、世界の指導者と仲良く談笑する姿が報道され、内閣支持率は一時的に好転するが、今度は「政治とカネ」スキャンダルと経済政策の失敗で岸田総理は失職することになる。
河井買収事件から何も学ばず
安倍派を中心とした政治資金パーティーの裏金事件。共産党機関紙「しんぶん赤旗」の報道と上脇博之教授の告発で、政権中枢を牛耳っていた安倍派幹部が軒並み失脚することになった。しかし、岸田総理は企業・団体献金の禁止など抜本対策を講じることなく、軽い法改正だけで乗り切ろうとした。国民の怒りは大きく、各地の選挙で自民党候補が敗れた。中でも保守王国の島根では前衆院議長で、統一教会とも深い関係にあり、安倍派会長も務めた細田博之氏が立憲民主の候補に敗れたことは、自民党政治への不信と怒りが沸騰していることを如実に示した。
「政治とカネ」の問題は岸田総理には苦い経験があるはずだ。元法務大臣の河井克之、案里夫妻が大規模な選挙買収で有罪となって議員を失職したために実施された2021年4月の広島の参院補欠選挙で、自民党候補が野党共闘の候補に敗れた。河井買収事件とは、安倍氏が総理だったときに自民党本部から1億5000万円の資金が河井陣営に渡され、これ以外にも内閣官房機密費からの支出が疑われる数千万円が流れたとされる。豊富な資金を使って河井陣営は地元政治家や町内会長にまでお金をばらまいた。このときに抜本対策を岸田氏が考えて実行していれば、裏金事件は起きなかっただろう。結局、岸田氏は「政治とカネ」の震源地であり、自分の選挙区で起きた事件から何も学ばなかった。それがブーメランのように自分を直撃したのである。
付言しておくと、河井事件で一番動いた市民は「河井疑惑をただす会」の面々である。市民の告発人を募る運動で河井夫妻を告発し検察を動かした。これが発端となっての国政を揺るがす裏金事件へつながっていく。市民運動は河井事件に学んだが岸田総理は学ばなかった。あのとき「ただす会」の運動に「聞く力」で接していれば、今の哀れな岸田総理とは違ったことになったのではないか。
円安と物価高が暮らしを直撃
国民は暮らしが楽になるのなるのなら政権を支持するだろう。しかし、昨今の円高、物価高、株乱高下による生活不安では、「もうええ加減にしてくれ」と言いたくなる。私は6月にヨーロッパ旅行したが、1ユーロ170円もした。5年前の旅行では120円だったから円の価値は7割に下がっている。「円換算したら何も買えないね」と旅行者同士で話した。円安で輸出企業は儲かるのだが、今の大企業はひたすら内部留保にため込んでいる。今年は少しは賃金を上げたが、労働組合がストライキもしない日本では賃上げもわずかである。なにより、日本経済が低迷してもう30年になるのに、この間ほとんど政権を担当していた自民党から経済を立て直す妙案は打ち出されていない。岸田総理が最初に掲げた「新しい資本主義」も結局何をやろうとしたのか分からないままに終わろうとしている。
以上、岸田政権の発足から今日まで自分の市民運動もからめて振り返ってみた。痛感するのは、混迷を深める。世界の中でどんな政治リーダーを担ぐかは、私たちの生死にも関わる問題である。岸田総理は、国民の暮らしを向上させる手立ては打てず、福祉や教育よりは軍事を優先する政策を安倍氏より露骨に進めてしまった。歯止めをかけないと、本当に戦争になってしまう。その危機感を分かりやすく人々に訴え、戦争しない国を市民力で守っていくか。私たち、シニア世代は知恵を絞ろう。
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