雲の中のマンゴー|#22 こども店長派遣
第22話 「第4章~その2~」
8月末になり、なんとかマンゴー原体の販売を終えた。結果、昨年末に農園を譲り受けた際に計画した見込みの「4分の1の販売実績」であった。正直、経営的には非常に厳しい結果だ。しかしながら、ワンシーズンを通して経験したからこそ浮き彫りになった、問題課題が登の来シーズンへの動機づけにもなりえた。
黒岩もひと回り半の経験を身に着け、良いも悪いも合わせて文書化に取り組んできた。あとは追熟に販売が追いつかないマンゴーをカットして冷凍保存したものや、一部コンフィチュール等に加工した商品をどうするかである。まぁ、なんにせよひと段落ではある。
「あなた、お茶淹れたわよ。」
「ありがとう。」
リビングのソファーに掛け、物思いにふけっていると、美恵がとなりに腰掛けてきてお茶の入ったブルーの琉球グラスを差し出した。
「緑茶にレモンを入れてみたの。レモンティーは紅茶より緑茶のほうが私は好きだな、あなたどう?」
「おっ、緑茶にレモンはこんなに合うんだ!美味しいねえ。」
「そう、良かった。ところで、ネットニュースでみたのだけど、9月に清水のホーププラザでスイーツイベントをやるそうよ。マンゴーのスイーツってどうなんだろうね?」
「んん、どうなんだろうねって?」
「え!だから、マンゴースイーツを販売したらどうなんだろうってことよ。そのぐらい、ピンとくるでしょ。」
「あ、そうか… そうだな。」
「ねぇ、あなた。わたし、そろそろ仕事始めようかなと思って。ミユは小学2年生だし、海斗も幼稚園に通うようになったから、昼の時間に少しでも仕事復帰できないかなと思っているの。昔のように食品会社の商品開発やメニュー開発を正社員としてやることはできないけど、時間拘束されないものや単発の仕事から復帰しようと考えているの。」
「そうなのか。あてはあるの?」
「まずはリハビリね。マンゴースイーツを販売するわ!」
「えッ!?」
「このスイーツイベントは、9月10日まで出店者募集しているようだし、タイアップ先探しや商品開発イメージを考えながら準備するわ。あなた、成功報酬でどう?」
「ど、どうっておまえ。。すげえなぁ。」
登は美恵からの申し出を受け入れ、翌日に(株)静岡ヒューマンサービスの渡辺親彦に連絡をした。彼が所属しているアイディアバンク事業で清水のホーププラザの仕事をやっていることを聞いたことがあったからだ。
数日後に渡辺親彦がマンゴーハウスに訪れた。
「やあ、親彦くん焼けたね。どこか行ってきたの?」
「いやいや、盆明けに少し有休を使って親父の農園の収穫の手伝いをしたんですよ。オクラにゴーヤ、モロヘイヤにツルムラサキなど、夏の野菜の収穫に追われちゃって大変で。」
「そうか大変だったね。で、そちらの方はどなた?」
「彼女は(株)静岡ヒューマンサービスの同僚です。アイディアバンクの発案者でもあり、ホーププラザの他のイベントの担当もしているんですよ。」
「杉本緑です。よろしくお願いします。親彦くん、いや渡辺から沢村社長のことやマンゴーハウスのことは伺っています。また、アイディアバンクにスマート農業絡みで課題投稿もいただきありがとうございます。今日はホーププラザのイベントのことで同行させていただきました。」
杉本緑は、ホーププラザで実施されるスイーツイベントについて、同施設の催事企画運営担当の長谷川哲夫に事前に連絡をしてあり、沢村美恵が考えているマンゴースイーツの出店についての了承を得ていた。また、同施設内で静岡ヒューマンサービス社が定期開催している「こども派遣事業」において、今回のスイーツイベントと絡めた「”フルーツパーラーのぞみ”こども店長派遣事業」の企画内容を解説してくれた。
「なるほど、杉本さんありがとうございます。すぐに嫁に報告しておきます、喜びますよ!それと”こども店長派遣”はうちのチビ達に参加させます。嫁もOKしてくれると思いますので。」
「沢村社長、ありがとうございます。でも、こども派遣は小学生が対象なんですよ。。だから参加できるのはお姉ちゃんだけなんです、すみません。」
「あっ、先走ってスミマセン。了解了解、じゃあ海斗とお袋とでミユの応援をします。あと嫁の応援もしないと…笑」
「ただいま。美恵、どうなった?」
「あなた、LINEありがとね。あのあと、すぐにフルーツサンドやタルト、バームクーヘンなどのスイーツづくりのタイアップ先に連絡したの。もちろんOKいただいたわよ、すぐに進めるわ!」
「さすが早いねぇ~!それと”こども店長派遣”で君が心配していた件だけど、静岡ヒューマンサービス社の登録専門家2名が現場運営をして子供たちを見てくれるらしい、もう20回ほどやっているから安心できそうだよ。」
「そうなの。わかったわ、安心ね。実はミユに少し話してみたら“店長やりたい”って寝るまで大騒ぎしてたの…笑」
「だろうなぁ。海斗も現場に行ったらやりたいって言いそうだけど、俺たちは頑張って応援するよ。」
「なに言ってんのよ!あなたも海斗もマンゴースイーツの手伝いをするんじゃないの。ミユの分もきっちり働いてもらうわよ。」
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そして、2020年9月20日。
ホーププラザのイベントスペースでは、イベント店舗である“フルーツパーラーのぞみ”の小さな店員たちが声を張り上げていた。人一倍、可愛く聞こえるのは、我が子ミユ店長の声だ。
美恵が切り盛りするマンゴースイーツショップは、マンゴースムージーが大人気で斉藤明子と望月美佐子が助っ人に入っていた。登は備品担当で、今は落ち着いているので海斗と一緒にミユの様子を見に来ていた。
そこに、なぜが見学に来ていた黒岩玄が、手にフルーツを沢山抱え催事企画運営担当の長谷川哲夫と親しそうに懇談している。長谷川はレジ係を担当していて器用にエアレジを動かしながら何やら黒岩に語り掛けている。黒岩の視線は長谷川のさばくエアレジにあった。
「玄さん、エアレジ気になっていたんだ..w 笑える~、意地っ張りだからなあ、あの人…笑」
マンゴースイーツショップでは、美恵がタイアップ先と企画開発したスイーツが人気を博した。なかでも以下の3品が大人気となった。
イベント終了後
「長谷川店長、そして雨草さん、鈴鹿さん、今日はミユが大変お世話になりました。また、マンゴースイーツもたくさんの方にご紹介いただきありがとうございました!」
マンゴースイーツショップの片づけを終えた沢村美恵が、こども派遣イベント会場に顔を出した。
「いやいや、ミユちゃんは張り切ってましたね!パパもちょこちょこ応援にきてましたし。そして、お母さんのマンゴースイーツのお店への誘導も忘れてなかったですね。」
「あれは私が言い聞かせました…笑。しかし今日はホントに楽しかったです!また機会があったらぜひ呼んでください♪」
「沢村さん、ぜひぜひ。いろいろなタイアップスイーツは美味しくて面白かったし、お母さんのつくるスムージーがシンプルで一番人気でしたね。またぜひとも参加してください、ありがとうございました。」
▼クロスストーリー「別のストーリーから見たスイーツイベント」
#23に続く。