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essay #5 涙腺

一番泣きたい時に泣けないほうだ。

今すごく悲しいなとか、今すごく嬉しいな、と思った時ほど、出てきてほしい涙が出てこなくて、ただ心臓に来る重みみたいなものを、噛み締めている。

泣けば許されると思うなと言われて育ってきたからかもしれない。
リーダーが人前で泣くのは無しだよと先輩に言われたことがあるからかもしれない。
相手に気を遣わせる行為だから、技として使っていると思われたくないというのもあるかもしれない。

泣けないというよりは、泣くという行為が多分下手だ。
最近は映画や音楽で"普通に"感動して泣くことも増えたけれど、たまに誰かと大笑いしていて楽しかったはずが、突然泣いていて驚かれることがある。
破顔って笑ってる時の表現だけど、それくらい筋肉を動かさないと出てきてくれないから、まさに堰を切ったように、顔の表面が破れて涙が溢れ出てきているみたいだな、なんて思う。

しかも、あまりポジティブな内容で泣けたことがない。いつも止められない涙が出てくるのは、悔しくて苦しくて、こんなはずじゃなかったとか、なんでこうなるんだろうと1人で思い悩んでいる時だ。

大学に入って始めた横浜の山のほうにある一人暮らしのアパートで、小さなベランダから暗い道を眺めながら、Fxxkin Perfectを聴いては泣いていた。
いつも、ほんとうに苦しい時はひとりだな、と思いながら。

P!nkだけが、あなたは私にとってパーフェクトだよ、と語りかけてくれているような気がした。

今思うと、お母さんに怒られる時、泣くとさらに怒られるから、黙って、反省していることを表現する表情を考えて、一生「はい」って返事をしていた。
それもあって普段から眉間に皺が寄りやすいし、顔の筋肉を動かさない限りは涙が出ない。

ああ泣きそうだと思った時にずっと涙が出てきてくれたらいいのに。

表現したい感情に、待ったをかけてしまう涙腺が憎らしい。

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