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まだ曲のない歌詞とエッセイ。

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最近の記事

洗浄

排水溝から愛情を拾って 拾って あげたでしょって突き付ける裁判 清い心で歩みましょう 拙い自意識は捨てましょう 飛んできた矢をスレスレで 掴んでまた元の位置まで 振り被るわたしの右手に ハーブティーでも持たせてくれ 使い回しの愛情を磨いて 磨いて 新品みたいにバケツリレーする 忍耐強く育ちましょう いらない自意識は捨てましょう 時間かけて沸いた熱湯 今まさに頭上1cmから 持ち上げるわたしの右手に 花のベールを持たせてくれ なにがそんなに大切なの そんなに小さな幸

    • らしきもの

      10年住んでないくらいじゃ そんなに懐かしくない景色 片付けが終わらなくて どれもこれも味が薄いかも ごめんね ごめんね だめだねこれじゃ 晩ご飯は食べてきたよって やっぱり栄養が足りないの 使ったことない合鍵 自分の家だっけ本当に 悪いね だけどね 仕方なかったの わたしはしあわせだよ もうだいじょうぶだよ 何もいらないんだよ 何もしなくたっていいんだよ あなたが言ったんだよ でもだいじょうぶだよ 全部書き換えといたよ 新しい言葉をちゃんと信じるよ 幸せを託した 不

      • 風邪の日の夢

        声に乗せてかたちをあげたら ものすごく怒っていた 扉叩いて溢れたゴミ袋 預かってきた人生で腐ってる さがしものがまだ見つからなくて 鞄の中 行き止まり 醒めてもまた見る風邪の日の夢 鬼の顔掴んで叩きつけるの 空を飛ぶ 地面を右脚で蹴って 思ったよりも 上空は寒くない 摩天楼の先 左半身で巻き付く 地表にいれば もっと楽なのに 電波に乗らない肉声が大事 でも生身でぶつかると避けられるの ジャブなしで鳩尾のあたり そっちは迷いなく打つくせにね 鈍感な演技 当たってないふ

        • chair

          息を吸って、 吐いていた 届く視線が痛くないな 心を遣っていられる夜だ 遣った心が 受け止められる夜だ 話していいこと 話さなくていいこと 耳を塞ぎたいいろんなこと ぜんぶを諦めて泳ぐのをやめた ドアを開けた先 君がいてゆるやかに宇宙に飛び込む 息を吸って、 吐いていい場所だ 弱虫って都合がいいな あのこを傷つけて生きているんだ 浸かった湯船に ネガティブを滲み出している 気づいていたこと 気づかなくていいこと 目を背けたいいろんなこと ひとつひとつ手放して捨てた

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        • 39本
        • エッセイ
          14本
        • 美しい一節
          1本

        記事

          essay #14 幸運

          映画「any day now」(邦題:チョコレートドーナツ)を観た。 人間にしかない、他の動物では起こり得ない、社会構造のなかにしか見いだせない苦しい出来事を描いた、観るべき映画のひとつだった。 友人は嗚咽するほど泣いたと言っていたし、映画が描いていた衝撃はとても大きなものだったけれど、感傷に浸るというよりは、社会に対する重たい鉛のような懐疑心が心臓に残る気持ちで、表情筋をなかなか、動かせない自分がいた。 普段からこの世界は、なるべくしてこうなったのだろうと思っている。

          essay #14 幸運

          essay #13 忘却

          忘れたくない、と思うことがある。 変わりたい、前に進みたい、と思うことも多々あるけれど、同じくらい、刻んでおきたい、無かったことにしたくない、と思うことの多い人生だ。 昔はひとからもらった愛を、忘れたくないと思っていたようだ。 思い出ボックスと呼ぶにふさわしい箱を持っていて、小学校の頃に友人からもらった手紙やプレゼントに入っていたカードなんかをぽんぽんと保管していたその箱は、今でも自室のクローゼットにしまってある。 誰かからもらえたありがとうやおめでとうを詰め込んである、ま

          essay #13 忘却

          ながいまえがみ

          眠りすぎたなきょうは 目を逸らしたい色んなことが 身体に巻き付いて いたずらっぽく顔を覗き込む どこかの国の先住民は わざと髪を切らないって それは歩みや歴史や考えを 失わないためだって 長い前髪で前が見えないや これで太陽から隠れられた いつかはカーテンを開けて空の下 歩き出さなきゃいけないよなあ 動かなきゃ 重たい腕で布団を押して 笑わなきゃ 嫌いにならないように 動かなきゃ 逃げる場所はないから でなきゃきっと泣いてしまう なんの価値も生み出してないな 休むどこ

          ながいまえがみ

          Pretending

          恩師じゃないあの人 わたしの笑顔を褒めた 「みんなを幸せにします」 少し信じてて ほとんど疑ってる 親友じゃないその子 わたしの笑顔を信じた 「楽しそうで良かった」 もちろん信じて そうしてほしかった 関係ない気にしない なんてことない平凡な日 痛くもないつらくもない 要らなくないけど必須じゃない ほらね平気だよ今日だって ご飯も美味しい 家族じゃないその人 わたしの幸せを案じた 「あなたは良くてもさ」 何を知ってて どうしてそう言える 長いことぐるぐると 同じ道を

          たられば

          大雨の公園で20:30 君が来てくれてたら 訃報を聞いたの18:30 君に電話ができてれば 真っ赤なお風呂場 14:10 君が あの時 見つけてくれたら わたしたちまだ若いけど 10年はそんなに短くないです もしかしてを繰り返して もしかしなかった10年です 待てないことは待てないです 無口でシャイで臆病だから もしかしない君を許すけど わたしはそんな甘くないです スマホを置いたら洪水20:00 君に電話をかけてたら ひとりの夜 煙と一緒の23:00 君がここにいてく

          essay #12 美醜

          友人が日本で行われたミス・コンテストに出場し、「美」についてSNSで発信をしていた時期がある。 見た目の美しさだけを求めて比べる大会だと思っていたが、そうではなく、社会貢献を最終目標とする素晴らしい機会なのだと彼女は言っていた。 彼女が出場したのはミス・ワールド・ジャパンだったので、そのスローガンは「Beauty with a purpose」つまり「目的のある『美』」。 美しくあることが最大の目的ではなく、別の目的があるからこそ美しくあるのだ、という考えのもとに、女性たち

          essay #12 美醜

          木漏れ陽

          見たまま映せるらしい 話題のカメラで撮ったって この揺らぎは この煌めきは 残せやしないから この瞳がレンズで 瞼がシャッターならって その横顔や その指先を 何度も捉えて目を伏せた 陽の当たる縁側がすきだった ざらついた木目をなぞって 別に可愛がってなかった 猫の背中、撫でたりして 夏の間、蝉の音 秋はオレンジの金木犀 冬はストーブの香り 春になれば紋白蝶 本当にシャッターを切ってたから 今も眺められる 記憶の色 思ったより時間が経ってさ 目の前はもっと鮮やかだよ

          木漏れ陽

          フライト

          約束はきらい 階段のてっぺんから 緩やかに地下へゆく 赤色のスイッチ 押したくないの 一緒に行こうと言った国 これでもう叶わないね いつにしようかあたしが聞いて きみがほら濁したんだよ 真っ暗な要塞にひとり 蝋燭に 照らされて 包むのはあたしの荷物だけ もう行くの、新しい空へ 指切りはしない 買えなくて縫った靴底 じんわりと雨滲む 青色の信号 見えてもないの まっ黒な前髪の裏で 白の砂浜 夢見た? 諦めたらだめだったのにね 悲しいの、あたしの方だよ 長く待ちすぎて

          フライト

          Invisible.

          言葉にしなかったこと 言葉になったこと どちらかでしか 褒めてあげられない 言葉にできなかったこと 言葉にできたこと どちらかでしか 何も伝えられない 誰かの心に響くなにかを 伝えられたことなんて ほんとにあっただろうか ひとつひとつを数えては あまりにも思い出せなくて その人に心 使えたか 今となってはわからない そっと 噛み締めて もしかして 読み返して 言葉にしなかったこと 言葉になったこと どちらも拾って 宝箱にしまう 言葉にできなかったこと 見せて欲しいけ

          essay#0 一節

          いずれ死ぬのであれば、死後、美しい生き様だったと言われるような人でありたいと思ってきた。 立派でも、かっこいいでも、可愛いでも、綺麗でもなく、美しい、美しかった、と言われる人生がいい。 実際のところ、27年間の私の人生は美しく進んできたのかと聞かれたらうまく答えられない。 多分、もっと幼く、拙く、がむしゃらなようで実はゆるっとしていて、だらしないものな気がする。 そもそも美しいという価値観が、なにかしら美しくない他のモノとの差分によってしか認識できないのであれば、私は今

          essay#0 一節

          essay #11 渡欧

          初めてのヨーロッパ旅行で、シェフをしているいとこの兄に再会した。 まだ私が幼かった当時、祖母が生きていた頃は、実家には親族の行き来がそれなりにあった。 親族の中で一番歳下だった私の記憶は曖昧だけれど、毎年夏休みになると10歳ほど上のいとこの兄が2人で、あるいは叔父と一緒に遊びに来ていた。 既に叔母である母の姉と叔父とは離婚していたけれど、新たに叔母となった後妻も良くしてくれたし、子どもだった私たち姉妹は、よく兄たちに肩車をしてもらったり、手を繋いで飲食店まで歩いてもらった

          essay #11 渡欧

          MINE

          誰かのいちばんに なりたいんだって そろそろどうだい 誰かに夢中になれたかい 誰のいちばんにも なれないから閉じた 氷の心 また みんなを好きなふり ばかだね こっちを向いてみ ほら ぼくのものだよ 全部置いて笑ってみ ほら ひとりじゃないよ 誰かのありがとう 浴びるほどほしいって そろそろどうだい あの子はそっちを向いたかい 誰のありがとうを 届けても満たないみたい 底無しのポスト また 封を開けたのに 捨てるの? こっちへおいでよ ほら ぼくのきみだよ 不貞