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星作りと跳ねうさぎ亭④

 酒場の主人が行ってしまうと、チムニーはテーブルを回って星作りのそばに立ちました。
「お願いだよ、星作りさん」
 真剣な口調で言いました。
「もう二度と、こんなチャンスはないかもしれないんだ。星作りを見せてください。お願いします」
 星作りは目を上げてチムニーの目をまっすぐに見つめました。
背筋がひやりとしましたが、チムニーは踏ん張ってそのまなざしを受け止め続けました。それはまさしく、初春の小川に裸で入っていくような感覚でした。ひやひやとチムニーの小さな体は流れに触れて冷たくなっていきます。
 男がふと微笑を深めました。
 チムニーはとぷんと頭まで雪解け水に沈んでしまった気がしました。
 星作りが瞬きをしてすいと目をそらします。
 チムニーはとたんにほっと息を吐きました。手を握ったり開いたりしてみました。そんなはずはないのに、じんと温かさが指先に戻ってきたように感じたのです。
「今夜」
 星作りがぽつりと言いました。
「私たちの出会った町外れの丘の上に、もう一度、来られたらおいで」
 ぱっとチムニーの頬が紅潮しました。急に全身に血が巡ってきたようでした。
「行くよ!ありがとう!星作りさん」
 チムニーがにこにことしていると、ノックとほぼ同時に部屋のドアが開きました。とっさにそちらを見た星作りと、戻ってきた酒場の主人の目がぴったりと合ってしまいました。
「マグカップを下げるのを忘れたと思ったんだが」
 たじたじとしながらもすぐには目をそらせずに、主人はなんとかそう言いました。
「ありがとう、ご主人」
 星作りは申し訳なさそうに目を背けてマグカップを持ち上げました。
「ああ、それにしても、どうにかならんかね!あんたと目が合うと、まるで氷の手で心臓を鷲掴みにされたようにぞくっとするんだよ」
「どうもすみません」
 たまらなそうに言う主人に謝りながら、星作りはちらとチムニーのほうを見ました。
 チムニーはなんだか不思議そうに二人を見比べていました。


つづく

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