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星作りと跳ねうさぎ亭⑤

 真夜中過ぎ、チムニーは夜の町を駆け抜けました。町外れの丘の上では星作りと出会ったときと同じように、かすかな光が照り輝いています。つい数日前も、家からこんな景色が見えて、その不思議な明滅に魅せられたように外へ飛び出したのでした。チムニーは胸を高鳴らせて白い息を吐きながら丘の上へと急ぎました。
 息を切らして丘を登りきると、そこには不思議な光景が広がっていました。
 雪の上一面にチムニーのこぶし大ほどの石が並べられていました。そのうちのひとつから急に白い光がほとばしったと思うと、いつの間にかその光はおさまり、次には別の石から青白い光が吹き出します。淡い色の光もあれば、冴え冴えと目を刺すような明るい光もありました。
「こんばんは。チムニー」
 暗がりから突然星作りが現れました。
 チムニーは思わず悲鳴を飲み込んで、慌てて挨拶を返しました。
「こんばんは。星作りさん」
「雪の上だからことさら眩しいだろう」
 ちかちかと瞬く石たちを指して、星作りは言いました。
「暗闇の中でないとやりにくいんだ。光の具合が見えにくいからね。悪いけど明かりは点けないでくれ」
 チムニーは星作りと並んで、一面の石を見渡しました。それはどれも澄み渡った清浄な輝きでした。チムニーはわけもなく胸がひんやりしていくのを感じました。
「これが星作りさんの言っていた石なんだね」
「うん。どれも半端ものの星たちだ」
「不思議な石だね」
「本来はなんでもない、ただの石ころだよ。中には宝石や鉱物もあるけれど。いろいろなものを試しているんだ。どんな石だってこっちが合わせてやれば形になる。あとはこちらの腕と知識によるな」
 チムニーは感嘆の声を上げて、ひとりでに輝く石たちに見入りました。
 少しすると、チムニーはうずうずと、でも遠慮がちに星作りを見上げました。
「あのう、どうすればこうなるんですか?作るところを見せてくれませんか?」
 星作りは石をざっと見渡すと、チムニーに言いました。
「上から二列目、右から三番目の石を、下に敷いてある布きれごと持ってきてくれないか」
「いいんですか?」
「うん。お願いするよ」
 チムニーは嬉しくなって、急いで駆けていきました。それは淡い橙色に光る石でした。チムニーは宝物を持つようにそれを慎重に持ち上げ、手を触れないように布で包んで星作りのほうに戻ってきました。
 星作りは石たちに背を向け、暗がりの方を向いて丘の斜面に腰を下ろしたところでした。
 チムニーは腕を伸ばして捧げ物をするように軽い石を星作りに手渡しました。すぐに星作りの隣に座り込んで、じっと彼の動作に目を凝らしました。
 星作りはゆっくりと包みを開きました。彼はそれに目を注ぎながら小さく呟きました。
「堆積岩。砕せつ岩の、礫岩。丸いね。川辺で拾ったものだ」
 星作りはそれを取り上げると、両手でそっと包み込みました。
「何をするの?」
 チムニーは囁きました。
「息を、吹き込むんだ」
 星作りは冬の夜の冷たい空気を取り込みはじめました。周りの空気がすべて彼の内に吸い込まれてしまったようで、チムニーは息苦しさを覚えました。彼の細い体がふいごのように膨らんで、急に大きくなったように思えました。それから星作りは石を包んだ両手の隙間に口を寄せると、細く長く、息を吹き込みはじめました。するとその両手の隙間から光が燃え出しました。星作りは頬を膨らませ、口元の角度を変えながら、光が強くもなく弱くもならないように一定の力加減で息を吹き込み続けました。その淡い光は蛍のように星作りの顔を照らし出しました。彼の顔には今、微笑みの気配さえありません。こわいくらいに真剣な顔でした。
 チムニーははじめて、星作りに何か得体の知れないおそろしさを感じました。彼は体の芯から石に命を吹き込んでいるように見えました。彼は星を作るために、自分の命を削っているのでした。
 長い長いひと息が終わっても、星作りは休まず次のひと息のためにまた深く息を吸い込みました。何度も何度も石に息を吹き込むその様子を、チムニーは片時も目を離すことなく見守り続けました。
 やがて遠くの山の端の色がかすかに変わりはじめるころ、星作りはようやく両手を下ろしました。そしてそのまま力なく仰向けに雪の上に倒れ込んでしまいました。彼の姿はひと晩のうちにしぼんでしまったように見えました。
 チムニーが心配そうに覗き込むと、細く目を開いて深く息を吐き言いました。
「チムニー。手を」
 チムニーがおそるおそる手を差し出すと、その上に星作りの息が吹き込まれた石がのせられました。石の眩い光はその内側におさまり、ほのかに発光するばかりとなりました。石は先ほどよりもさらに軽く、星作りの手の温度のせいか光のせいなのかわかりませんが、熱を帯びているように感じられます。
「ひと晩でなんて、さすがに無理をした。チムニー、すまない。少し休む」
 星作りは小さな声で告げると、冷たい雪の上でそのまま寝入ってしまいました。彼の胸が静かに上下するのを見て、チムニーもほっと息を吐きました。そして手の中で淡く光る石をじっと見下ろしました。


つづく

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