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初めて宝塚を観た 宝塚歌劇・雪組『蒼穹の昴』宝塚大劇場

一度宝塚を生で観てみたいと思っていたので、関西での文楽単発公演へ行くついでに、兵庫・宝塚大劇場での公演を観た。
直前に突然思いついたので、チケットは公式リセールのチケトレで調達した。以前、知り合いの方から、正規販売が完売していても公式リセールならわりと買えると教えていただいたのがついに役に立った。

宝塚駅前



いま上演しているのは、浅田次郎原作の『蒼穹の昴』。清朝末期の中国、激動する時代を背景に、低い身分の出身ながら、皇帝直属の官僚や西太后の側近といった帝国の中央へと仕えることになった青年たちの流転が描かれている。

とにかく娯楽として徹底しているというのが一番の感想。
いかに多くの人に楽しんでもらえるかを深く研究し、そのためにベストを尽くしていることに驚いた。舞台関係の方はよく「お客さまに楽しんでいただけるよう……」という言葉を口にするが、お為ごかしで言っているのとは次元が違う。
そもそも一般の人には馴染みの薄い時代背景や題材を扱うにあたっての脚本・演出面での工夫が非常によく感じられ、勉強になった。

原作は未読だが、脚本化するうえでは、内容をかなり整理し、不要な重厚さを徹底排除しているのではないか。良い意味で、後に残らない。そもそもの作りとして、感動の大傑作、超大作映画的なものではなく、コンパクトな青春映画的にわかりやすくまとめるテクニックを感じた。
類型表現で処理するところ、近代舞台の時代物らしさを出すところ、オリジナリティ(宝塚らしさ)を出すところのメリハリ処理は非常に秀逸。特に類型表現で流すところの思い切り。組織の思惑と個人の感情の軋轢をカットしているのはすごいと思った。主人公が官僚なら、普通はやりたくなっちゃうのでは。ドラマとしてかっこいいし、劇評ウケもよいだろうし。浅田次郎の原作にないのかもしれないけど、そういうところに溺れないのはすごい。
青臭さは結構びっくりした。宝塚のお客さんって、ここまでの青さを求めてるのか!?という衝撃があった。これが映画やドラマなら、一般的には、幼稚と思われるのではないだろうか。みなさん普通に観ているのは、演劇の力か、スターの力か、それとも、演出家の個性と受け止めているのか。
全般的にはかなりのハイスピード展開で、映画の『覇王別姫』とか、中国・台湾映画の近代舞台のやつで、時代の流れを描くタイプのやつみたいな感じ(大味表現)。最初は主人公たちのキャラクターが立っているんだけど、途中から「時代」が主役になってしまって、主人公たちの個性やドラマが弱まっていくのは、いいのか悪いのか。

特に言葉に対する注意の払い方は本当にすごくて、耳でさっと聞いて即座に伝わる言葉だけが使われている。「おなご」とか、文楽以外でも言うんだ。この調子だと、「日の出の勢い」とかも使われてる? 登場人物の名前の読みも、中国語読み・日本語読みのうち有名なほうを採用して意図的に混ぜて使い、わかりやすく処理されているのも良かった。
もちろん、いくらわかりやすく書かれているといっても、実際には、何の話をしているか、いまどういうことになっているのかわからない部分も結構ある。しかし、演技や台詞の口調でだいたいのノリは掴めるので、「細かいことはわからなくてもいいや」と流せるつくりだった。観客の離脱を防ぐ手法として、大道具の転換や着替え回数が非常に多く、飽きさせないのも大きい。だんだんどうでもよくなってくる前にシーンが切り替わるのはありがたい。大幅に興味が逸れることはなかった。

今回は中国ものということで、何回か京劇のシーンが入っていた。サービスシーン的な扱いで、宝塚アレンジがなされているというか、洋舞がベースの人がやる京劇イメージという感じの違和感があり、面白かった。コスプレ的なおもしろみ、本物とは違うがゆえの良さがある。
当然、出演者の技術としては、普通の洋舞のほうが上手い。無名の紳士淑女が洋館で舞踏会を繰り広げる場面があるのだが、無名の紳士淑女なのに、もうあきらかにレベルが爆上がりして、プロの仕事。そうそう、唐突に洋舞のシーンが入ってくることは、スゲエッ、と思った。でもやっぱり、こっちが「本職」なんだなと思った。

2幕とも『蒼穹の昴』で、芝居とレビューが分離していないタイプの公演だったため、最後にレビュー的なものが少しだけついていた。中国テイストをまぶしてあり、超豪華なカーテンコール的なノリだった。そこに、宝塚へ期待しているものがちゃんと詰め込まれていたのが、良かった。初心者の私でも、「期待通り」と思った。なんとも親しみやすい塩梅が、良い。ちょっと古くて、どこかダサい。私は昭和30〜40年代の日本映画、そのうちショービズものが大好きなので、こういう、懐かしの豪華レビュウ的なものに憧れがある。みんなきっとそうで、常にトレンド最前線ではなく、泥臭い部分を良い意味で残し続けてるからこその人気なのかなと感じた。

カーテンコール(本物の)がないのは良かった。お客さんもみんな速攻帰ろうとしていた。


しかし、宝塚で一番すごいのは、やっぱり、出演者の人的な部分。
センターを勤めるスターの心意気は、本当にすごいと思った。宝塚といえばキラキラな男役スターというイメージだけど、本当にキラキラしていて、あまりにもキラキラしすぎていて、笑いそうになった。
まじでキラキラしてるッ!!!!! 細かい! 星が!! いっぱい出てる!!! そして、ボンタンくらいのでっかい星が、ピョコ! ピョコ! ピョココココココココォォォォッッッと降り注いでるッ!!!!!!!
宝塚のスターはメイクや衣装がキラキラしているのではない。振る舞いがキラキラしているのだ。
声の出し方、視線の向き、手足の位置、背筋の伸ばし方、衣装の扱い、一挙一動細かいところまで、「お客さんからどう見えるか」という視点で徹底している。本当によく気をつけた振る舞い。この会場の2500人のお客さん全員が満足する舞台にしなくてはならないという目的意識を叩き込まれているんだなと思った。

あと、個人的には、キラキライケメンな男役スターの振る舞いからは、玉志サンが異様にキラキラして見えるのはこういうワケかと教えられる部分があり、文楽の人形の見方の勉強になったのが、良かった。

娘役がどういう声を出すべきか、いかなる身のこなしをすべきかについては、かなり興味深かった。若い女性のみで構成される劇団で、ファンの大半は男役スターについている状況、その環境において、「女性」をどう表現するのかに、どきついお約束、束縛があるなと感じた。これは相当大変だわ。宝塚のファンの方からすると、伝統芸能の一種(だからセーフ)的な認識なのだろうか。
ただ、今回の『蒼穹の昴』は、娘役はいなくても一切差し支えなしの脚本になっていた。それはどうなんだと思ったが、もっと娘役が目立つ芝居ではどうなるのかも見てみたい。

総体としては、特定の出演者が素敵というより、徹底したプロ意識のある若い人たちの演技を楽しませていただいたという気分。宝塚はスター商売で、だからこそ集客力・興行力があるのだと思うが、普段自分がウゾウゾしている舞台界隈(=伝統芸能)からすると、演劇集団としてのプロ意識が高いと思った。

正面写真だとわからないのですが、男子キャラはロング三つ編み(弁髪のイメージ)です



突然真っ黒なことを言うが、今年の文楽夏休み公演の『紅葉狩』には、非常にがっかりした。
初日・2日目を観たが、人形はあの水準で舞台に出て恥ずかしくないのかと呆れてしまった。3日目は帰った。上手い下手の話ではない。そもそも舞台に立つ準備をしていない、客に芸を見せる意識を持っていないというのが、呆れの理由。そういう人たちを「スター」扱いして、「世代交代」と称して主役にすえている文楽って、なんなんだろう。と思っていたけど、今回宝塚を観て、改めて思った。
宝塚のセンター付近にいる人って、芸歴10年前後じゃないですか。若いですよ。よく観察していると、歌や台詞の技術が極端に高いわけではない。声量コントロールなどに難がある人がしばしばいる印象を受けた。しかし、舞台に立つ準備とその意識、いかに魅せるかの研究は、存分になされている。特に所作の洗練性は抜群。「舞台の真ん中でわたしは何をどうすべきか」の意識、考察と実行については、ベテランだわ。先述の声量だって、堂々と振る舞って歌っているので、致命的な傷とは思わない。あの年齢で、ようやるわ……。そしてこれは、トップスター、二番手クラスだけがそうなのではなく、おしなべてその意識が高いと感じられる。
まあ〜、こんなのが大阪のちょっと横、電車なら20分くらいで行ける場所でやってたら、そりゃ〜、こっち、行くわな〜〜〜。と思った。

でも、文楽の魅力を改めて実感する機会でもあった。あのチンマリとした健気さは、何にも代え難い。そして、浄瑠璃の戯曲としての完成度の高さも、非常によくわかった。本当にしっかりしてるわ。


大劇場の施設は、親しみやすすぎる雰囲気で、驚いた。文楽劇場の親類かと思った。イクスピアリとか、なくなったけどヴィーナスフォートとか、地方の地元企業経営のショッピングセンターやテーマパークのノリといえばいいのか。なんだそのほっこり感は?????
その場で焼いて売っている人形焼は、一体何なんだ??? いまどき炭酸せんべいって、売れてるのか??? アイスがでかいぞ、お客の娘さんたちの素直な願望が形をなしてるか??? カフェテリアのランチはなんでこの値段で出せるんだ、しかもデザートがしっかりしすぎでは???等、無限に謎が湧いてきた。
全般に、女性客が安心して楽しく過ごせる空間に振り切りまくっているのが良かった。
親しみやすさでいうと、開演時間になったら、イケメン(トップスター)の「いまからはじめます✨」アナウンスが入るのが、なにより良かった。終演時も、イケメンが、「これでおわります✨」と話しかけてくれた。イケメンは喋り方自体がイケメンなんだなと思った。

お客さんは、文楽劇場と同系統だった。ツメ人形が超超大集合してる感じ。舞台上は派手でも客に派手な人は全然おらず、国立劇場の客層ではなく文楽劇場の客層と近い。東京公演はどうなっているのだろう。宝塚も東西で客筋が違うのだろうか?
思っていたより若い人は少なく、年齢層は高かった。男性客は、イメージしていたより多かった。多少は演目要因もあるかもしれない。文楽で『仮名手本忠臣蔵』やると男性客が微増する的な。

隣の席の人のマナーがありえないほど悪く、第一幕の上演中に注意してしまった。文楽でも注意しないのに。これくらいの人、よくいるのか? 本当にたまたま相当に悪質な人が横にきてしまったのか? 席の等級が低いと変な客が混じっているのは仕方ないのか? 私は直接注意したけど、どうもまわりの席の人が幕間に係員へ申告したらしく、第二幕開演前に口頭注意があり、上演中にも係員の監視が入った。そこは劇場として対応がちゃんとしてるんだなと思った。
ちなみに、整理退場は全然言うこと聞いてない人が多数だった。文楽劇場の客のほうが行儀エエ!

twitterで宝塚の感想をつぶやいているのは、若い人が多いのかな。舞台ものは、ジャンルごとに風潮が違っていて面白い。

カフェテリアの「公演セット」1,300円。やす!!



いろいろ面白かったので、今後も大阪行きのついでに宝塚大劇場へ行きたいと思った。東京劇場公演も観てみたい。東京はチケットの手配が大変だが、チケトレ監視やカード会社の貸切狙いなどで、頑張ろうと思います。友の会入ってる方いらっしゃったら、ぜひ、誘ってください。
とりあえず、次は、みんなが言ってる、羽を背負ってるやつが観たいです。

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