中程度のストレスを抱える人に対する乳酸菌の効果 気分・睡眠の質・認知機能が改善
脳機能に対する乳酸菌の働きに注目
学術顧問の望月です。今回の記事では、プロバイオティクスの研究情報をご紹介します。2023年に『Nutrients』に掲載された「Intake of Lactiplantibacillus plantarum HEAL9 Improves Cognition in Moderately Stressed Subjects: A Randomized Controlled Study」では、ストレスに対するLPHEAL9の影響が検証されています。LPHEAL9は、不二バイオファームで製造している「発芽そば発酵エキス」にも含まれているLactiplantibacillus plantarumの一種です。
プロバイオティクスには、腸内環境や免疫機能をはじめ、不安や不眠、認知機能などを改善させる働きがあります。これらが腸脳軸を介して得られる効果であることは、過去の記事でもご紹介してきたとおりです。近年では、プロバイオティクスのうち、脳機能に対する効果を狙ったサイコバイオティクスにも注目が集まっています。
アイルランドで行われた試験では、LPHEAL9を摂取する65人とプラセボを摂取する64人の2群に分けた計129人(21歳〜52歳)のストレス状態、覚醒コルチゾール、気分、睡眠の質、認知機能、血液中の各種バイオマーカーを評価。それぞれの食品を12週間摂取してもらい、ベースラインと12週めに認知機能のテストを行い、ベースライン、4週め、8週め、12週めに、ほかの項目を測定しました。なお、試験には中等度のストレスを抱える人が参加しています。
LPHEAL9の12週間の摂取でストレスが軽減
結果を簡単にご紹介していきましょう。ストレス状態は、過去1ヵ月間の感情や考えに関する10の質問で構成され、ふだんの生活で感じているストレスのレベルを測定する「PSS」という尺度で評価されました。その結果、ストレスレベルは両群ともに試験期間で大幅に減少し、中程度のストレスを抱えた被験者では大きなプラセボ効果が見られました。具体的には、中程度のストレスを抱えていたLPHEAL9群の50.8%が、プラセボ群の48.4%が、試験終了後には低ストレス状態になっています。
緊張ー不安、抑うつー落胆、怒りー敵意、活力ー活動、疲労ー無気力、混乱ー当惑、および親しみやすさに基づいて、一時的で明確な気分状態を評価する心理的評価尺度「POMS」というアンケートで評価された気分は、両群ともに時間の経過に伴う大幅な改善が認められました。プラセボ群よりもLPHEAL9群で大きな減少が確認されたのが、「混乱ー当惑」「怒りー敵意」「抑うつー落胆」の項目です。
10の質問で構成され、その回答から睡眠時間、睡眠障害、入眠時間、日中の覚醒困難、習慣的な睡眠効率、全体的な睡眠の質といったサブスコアが得られ、総合スコアが高いほど睡眠の質が悪いとされる「ピッツバーグ睡眠質問票(PSQI)」で評価した睡眠の質も、両群で時間の経過に伴う改善が見られました。PSQIの下位尺度については、LPHEAL9群でのみ全体的な睡眠の質の有意な改善が認められています。さらに、LPHEAL9 群では日中の活動状態が有意に活発になりました。
認知機能は、6つの認知機能テストによって評価されました。迅速情報処理テスト、数値作業記憶テスト、学習と視空間記憶による一対の関連学習、単語想起の4つのテストで有意な改善が認められたのは、LPHEAL9群です。反応時間、作業記憶という2つのテストについては、両群のベースラインのスコアがもともと高かったため、試験前後での変化はありませんでした。
覚醒直後コルチゾールレベルの顕著な低下・炎症状態の改善も確認
プロバイオティクスは、ストレスホルモンのコルチゾールおよび循環炎症性サイトカインを軽減することが報告されています(Kim, N. et al. J. Microbiol. 2018, 56, 172–182.)。本研究においても、被験者が起床した後に採取された覚醒直後の唾液中コルチゾールレベル(Cmax)が、12 週めにベースライン(17.78 mmol/L)と比較してLPHEAL9群(14.97 mmol/L)でのみ有意に低下していることがわかりました。
また、炎症誘発性マーカーであるフラクタルカインがプラセボ群で増加していたのに対し、LPHEAL9 群ではわずかな減少が観察されました。抗炎症マーカーであるTGF-βはプラセボ群で有意に減少したのに対し、LPHEAL9群では変化は認められませんでした。
著者らは、「学習および作業記憶の大幅な改善には、LPHEAL9による気分や睡眠の質の改善が関わっている可能性がある。また、覚醒直後コルチゾールレベルの顕著な低下や炎症性バイオマーカーの安定化との関連もありそうだ」としており、気分(「混乱ー当惑」「怒りー敵意」「抑うつー落胆」)、睡眠の質・日中の活動の改善、コルチゾール濃度の低下に伴う認知力の改善を、今回の研究のポイントとして挙げています。
一方で、健康な若い人を対象とした今回の研究では、知覚ストレスの両群における改善など、いくつかの項目でプラセボ効果が確認されています。先行研究では、被験者のストレスの程度、試験時のストレスの負荷などの条件によって異なる結果が得られています。また、今回の試験では腸内細菌叢の分析なども行われませんでした。LPHEAL9による認知機能改善のメカニズムなど、詳細なメカニズムが今後明らかになることが期待されます。
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