過敏性腸症候群に対する乳酸菌の効果 8割以上が症状の改善を実感
プロバイオティクスの有効性を検証
学術顧問の望月です。今回の記事では、『Nutrients』に2022年に掲載された「Effect of Oral Intake of Lactiplantibacillus plantarum APsulloc 331261 (GTB1TM) on Diarrhea-Predominant Irritable Bowel Syndrome: A Randomized, Double-Blind, Placebo-Controlled Study」という論文をご紹介します。Lactiplantibacillus plantarumは、不二バイオファームで製造している発芽そば発酵エキスにも含まれている乳酸菌です。
この研究では、緑茶の葉から分離された「GTB1TM」という乳酸菌の過敏性腸症候群に対する有効性を検証しています。過敏性腸症候群とは、腸に炎症や潰瘍など明確な原因がないにも関わらず、慢性的な腹痛や腹部膨満感、下痢や便秘といった便通異常が起こる症候群のことです。過敏性腸症候群は、「下痢を伴うタイプ(IBS-D)」「便秘を伴うタイプ(IBS-C)」「下痢と便秘をくり返すタイプ(IBS-M)」「未分類」という4つのタイプに分類されています。
過敏性腸症候群の原因については、腸内細菌叢のバランスの乱れ、腸のバリア機能の障害、腸の免疫機能の障害などが関与しているといわれています。これらには、「セロトニン」という神経伝達物質の代謝が関わっていることも明らかになりつつあります。腸と脳の相互作用、いわゆる“腸脳相関”です。いずれにしても、過敏性腸症候群の背景には複雑な病態生理学的メカニズムが隠れています。
抗炎症作用があるGTB1の有効性を検証する今回の試験は、IBS-Dに該当する19歳以上の男女27人を対象として実施されました。27人はGTB1群18人とプラセボ群9人の2群に分けられ、それぞれの食品を1日1回ずつ、4週間継続して摂取しました。試験期間中、ほかのプロバイオティクスや抗生物質の使用は控えるよう事前に指導されています。
GTB1群の8割以上が改善効果を実感
試験では、腸の不快症状、排便習慣の満足度、生活の質、腸内細菌叢の変化が評価されました。腸の不快症状で有意差が認められたのは、腹痛、腹部膨満感、残便感といった項目です。さらにGTB1群は下痢の頻度と排便回数が大幅に減少し、排便習慣の満足度が向上していることもわかりました。IBS-Dの改善は、Global Improvement Scale (GIS)という指標を用いた評価でも確認されています。生活の質も同様で、GTB1群でスコアが有意に高いことがわかりました。
糞便の分析では、プラセボ群と比較してGTB1群ではLactobacillusとFirmicutesの量が大幅に増加して、BacteroidesとBacteroidetes の量が減少していたことが明らかになっています。これらは腸内環境の改善を示す結果です。GTB1群へのヒアリングでは、「症状が中程度よくなった」「症状がかなりよくなった」という回答が82.4%となりました。
今回の結果について著者らは、症状の緩和には腸内環境の改善が関与していると考察しています。一例を挙げると、腸内細菌叢の代謝産物である酢酸、プロピオン酸、酪酸といった「短鎖脂肪酸」の増加や腸管バリア機能の回復は下痢の改善につながります。また、セロトニン代謝がよくなって腸の運動障害が改善たことも考えられるそうです。いずれにしても、GTB1はIBS-Dに伴う腸の不快症状、異常な排便習慣、低下した生活の質の改善に役立つといえそうです。
一方で、課題も残ります。過敏性腸症候群は再発の頻度が高いことで知られています。今回の研究は、4週間という短い試験期間でした。GTB1群の長期摂取の効果を検証していく必要があるかもしれません。また、規模のより大きなが試験が実施されれば、さらに有益なデータが得られるものと考えられます。
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