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GABAが腸・脳の情報伝達を調節 腸内環境と脳機能の関連が明らかに

GABA(γ-アミノ酪酸)は、中枢神経系における抑制性の神経伝達物質として知られています。腸内細菌のバランスや腸内環境にも影響を与えているGABAのレベルや働きの低下は、アルツハイマー病やパーキンソン病といった神経変性疾患、不安・不眠、うつ病などの精神障害を引き起こします。近年の研究で、メディエーターとしてのGABAの役割が明らかになりつつあります。

腸内環境の悪化でGABAが減少

学術顧問の望月です。前回に続いて、今回の記事でもGABAの機能性に関するレビューをご紹介します。ピックアップしたのは、『npj Science of Food』に2024年に掲載された「Gamma-aminobutyric acid as a potential postbiotic mediator in the gut–brain axis」です。

腸内細菌には、脳の機能を調節する働きがあります。腸と脳は自律神経系をはじめ、ホルモンやサイトカインを介して緊密に連携しているのです。近年、神経変性疾患や精神障害の予防・改善を目的としたプロバイオティクス、プレバイオティクのほか、ポストバイオティクスの研究が進められています。ポストバイオティクスは、腸内細菌によって作り出された代謝産物のうち、人体に有益な影響を与える物質のことです。

ポストバイオティクスで注目されている一つが、神経伝達物質のGABAです。GABAは、私たちの腸内でも合成されています。材料として使用されているのがグルタミン酸です。近年の研究で、乳酸菌やビフィズス菌などのプロバイオティクスを摂取すると、腸と脳の両方で GABAが増えることが明らかになってきました。これは、腸脳相関におけるポストバイオティックのメディエーターがGABAである可能性を示しています。

実際に、GABAは神経変性疾患の発症に関わっていることがわかっています。アルツハイマー病、パーキンソン病、統合失調症といった神経変性疾患では、グルタミン酸からGABAを作るために必要となる腸内細菌が少ないことが確認されているのです。また、GABAレベルの上昇がアルツハイマー病発症のリスク低下に関連していること、GABAレベルが姿勢不安定歩行困難や振戦といったパーキンソン病の症状に関係していることなども報告されています。

GABAの働きは、不安・不眠、うつ病といった精神障害にも関連しています。マウスを使った実験では、プロバイオティクスの投与によって海馬におけるGABAを増やした結果、ストレス誘発性の不安およびうつ病様行動が改善したことが報告されています。

さらに、バクテロイデス・エゲルティという腸内細菌の減少は、不安やストレスを抱える人におけるGABAの合成の減少と関連していることが明らかになっています。そのほか、プロバイオティクスを補給して腸内細菌叢を調節すると、GABAの合成を強化するビフィドバクテリウム・アドレセンティスとビフィドバクテリウム・ロンガムという腸内細菌が増えて、ストレスや不安の症状が軽減することが報告されているのです。

近年は、自閉症スペクトラム障害、注意欠陥多動性障害とGABAの関連についても研究が進められています。自閉症スペクトラム障害や注意欠陥多動性障害の患者さんの腸内は、善玉菌よりも悪玉菌のほうが多い状態になっています。GABAの生産に不可欠である乳酸菌やビフィズス菌の減少が、これらの疾患の病状に関わっている可能性があるのです。

脳におけるGABA含有ペプチドの働きにも注目

レビューでは、脳機能の調節におけるGABAの下流のメディエーターについても触れられています。具体的には、主要な脳ペプチドであるホモカルノシンの代謝が脳機能の調節に関わっていることが明らかになりつつあります。

ホモカルノシンは、主に脳に存在するGABA含有ジペプチドです。ホモカルノシン濃度は、乳児よりも成人のほうが3〜6倍高く、ホモカルノシンは中枢神経系の領域、特に嗅球、脊髄、延髄、視床、小脳、白質、前頭皮質に多く含まれています。ホモカルノシンが最も多いのは、脳脊髄液の中です。

簡単にいうと、ホモカルノシンは脳の保護剤として機能しています。ホモカルノシンには抗炎症作用があり、アミロイドペプチド誘発毒性や脳虚血性損傷から脳を守っています。さらに、カルノシンやアンセリンと組み合わせると、脂質の過酸化を抑制するとともに脳内の抗酸化物質を増加させ、脳における酸化損傷を軽減することがわかっているのです。

GABAを含有しているホモカルノシンの恒常性は、GABAレベルの変化と関わっているかもしれません。過去の研究では、人間の脳脊髄液におけるGABAの約40%はホモカルノシンであることが確認されています。GABA濃度とホモカルノシン濃度の間には強い相関関係があり、ホモカルノシンが GABAの貯蔵庫の役割を果たしていると考えられているのです。

ホモカルノシンは、グルタミン酸からGABAを生産するプロセスにも関与していることが明らかになっています。GABAが少なくなっているアルツハイマー病や自閉症スペクトラム障害、統合失調症などでは、食事やサプリメントなどによってホモカルノシンを増やして病状をコントロールできるようになるかもしれません。

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