GABA強化発酵コンブが筋肉の成長をサポート サルコペニアに対する有効性を実証
発酵によってコンブ中のGABAを強化
学術顧問の望月です。前回に続いて、今回の記事でも筋肉に対するGABAの効果をご紹介します。ピックアップしたのは、『Algae』に2016年に掲載された「Effects of γ-aminobutyric acid-enriched fermented sea tangle (Laminaria japonica) on brain derived neurotrophic factor-related muscle growth and lipolysis in middle aged women」です。サルコペニア肥満の高リスク群における脳由来神経栄養因子(BDNF)関連の筋肉成⻑と脂肪分解に対するGABAの効果が評価されています。
サルコペニアとは、加齢に伴い骨格筋量と筋力が少しずつ低下していく老化現象の一つです。骨格筋量と筋力に低下によって、転倒や寝たきりのリスクが高くなることが知られています。また、体内の脂肪の割合が増える「サルコペニア肥満」も問題視されています。サルコペニア肥満になると、酸化ストレス、炎症、インスリン抵抗性などによって動脈硬化が進展する危険性もあるのです。
今回の研究でGABAの供給源として選ばれたのは、コンブです。コンブに含まれるグルタミン酸は体内でGABAに変換されます。これまでの記事でも解説してきたとおり、GABAは中枢神経系において抑制性神経伝達物質として機能するほか、降圧効果や利尿効果を発揮します。本試験では、発酵によってGABAの量を増やしたGABA強化発酵コンブ(1000mg中のGABA含有量は40〜60mg、平均54.5mg)の効果が検証されました。
試験に参加したのは、21人の女性(53〜63歳)です。高血圧、関節炎などの慢性変性疾患、糖尿病、肥満、心血管疾患を患っている人は対象から除外されています。参加者は、GABA強化発酵コンブ群10人と、プラセボ食品群11人の2群に分けられ、それぞれの食品を1日1000mgずつ摂取してもらいました。試験期間中の運動は控えてもらい、試験前と試験8週間後には空腹時の血液を採取。筋肉の状態のほか、さまざまな検査項目を分析しました。
GABAが筋肉の維持に必要な成長因子を増やす
試験後、GABA強化発酵コンブ群には等速性筋力などの大幅な改善が認められました。どのようなメカニズムが考えられるのか、研究結果の概要をご紹介していきましょう。
試験では、総体脂肪と除脂肪筋肉の状態が改善する可能性が示唆されています。顕著だったのは、GABA強化発酵コンブによる成⻑因子の増加です。各種成長因子のうち、BDNFの増加が認められたのはポイントの一つといえるでしょう。BDNF は神経筋障害やサルコペニアとの関連が注目されており、筋肉のたんぱく質の合成に適した環境を作り出すのに必要であることが明らかになっているのです。
さらに、GABA強化発酵コンブによるヒト成長ホルモン(HGH)の増加も認められています。HGHは骨格筋の維持と成⻑に重要な役割を果たしており、ほぼすべての体組織の脂質、炭水化物、たんぱく質の代謝に影響を与えています。HGHは30歳を過ぎると年に約1%ずつ減少しいていくのですが、先行研究では、GABAによって健康な男性のHGHレベルが大幅に改善するという結果が得られています。今回の研究では、女性に対するGABAの有効性が明らかになったというわけです。
HGHには、インスリン様成⻑因子-1(IGF-1)を誘導する働きもあります。試験では、実際にIGF-1の増加が認められています。GABA強化発酵コンブ群では、LDLの減少とHDL濃度の増加、中性脂肪の減少などが確認されていることから、HGHによって誘導されたIGF-1がインスリン感受性に影響を与え、さらに下流で脂質代謝を調節していると分析されています。今後、GABAが視床下部反応を直接刺激している可能性も明らかになっていくでしょう。
試験では、GABA強化発酵コンブによるアンジオテンシン変換酵素(ACE)の減少も認められました。血圧・体液・ナトリウムのバランスを調節しているACEは、アンジオテンシンIをアンジオテンシンIIに変換する役割を持っています。アンジオテンシンIIが増えると、循環IGF-1は減少します。今回、ACE阻害がIGF-1の増加にどの程度寄与していたかは不明ですが、サルコペニア治療におけるACE 阻害剤の有効性についても検証が進んでいくものと思われます。
前回の記事でも筋肉に対するGABAの効果をご紹介しました。GABAが含まれる身近な食品が、転倒や寝たきりの予防食となるかもしれません。
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