大人のためのSR600攻略ヒント
【SR600とは】
ブルベという超ロングライドというイベントで、距離は600km、獲得標高(道中で上った総高さ)が10,000m以上を、睡眠や食事、休憩を含めて60時間以内の完走を目指すカテゴリー。詳しくは、検索しましょう。
SR600の魅力は、主催している団体のHPを見れば書いてあるので割愛です。
僕は今まで5つのSR600を走り、そのうち3つは無事時間内完走したけど、2つはリタイア(DNF)。そこから学んだことをまとめた。
【一番最初に大事なこと】
SR600は最大60時間を走る。日にちで言えば2日半。単に時間が長いということではなく、重要なのは屋外で2日半ということは、天気や気温とかの環境の対応を考えねばならない。加えて獲得標高10,000m以上ということは、コースにもよるが2,000m級の山を何個か越えたりもする。そこで必要な能力は、長距離を走る力、坂道を上る脚力はもちろん、天候や気温への適応力、昼間以外に走る技術etc.など数えればきりがない。
しかし逆にいえば、節度を持った大人であれば、それらの能力はSR600に興味を持った時点である程度備わっていると思われる。僕もまた自転車競技をしていたわけでもなく、3年前に軽い気持ちでロードバイクを始めたのがきっかけ。お金をかけないでいい景色を眺められて、旅気分を味わえるから続けている平凡な人間。ただ、本当に危ないことがあれば、途中で辞めて自力で引き返すことができる自信があるだけ(とはいっても、今まで幸運だっただけということもあり得るが)。
SR600ではとくにそれが大事。それを乗り越えている人は、SR600の最初の難関である、まず「エントリーする」というハードルは越えているので、興味があるならエントリーしよう。
【ポイント① 自己分析】
さて具体的なコースの対策を考える前に、自分自身を正確に把握することが第一。自分は一日どのくらいの時間乗り続けられるのか?坂を上るときはペースはどのくらいになるのか?いわゆる『脚力』は一番最初に思いつく。SR600では、『脚力』はその高さが重要ではなく、正確に把握しているかが重要。遅ければ遅いなりのプランを作ればいいだけなのだ。僕はその点がとても気に入ってる(遅いから)。
把握するのは『脚力』だけではない。むしろ大事なのは、普段あまり気にしないことだったりする。たとえば、雨や風への耐性(身体的・精神的にも)だったり、明け方・夜中の走行、山道や林道の対応力、寒さ・暑さへの対策等、今までの自分が培ってきた経験や知識をしっかり分析し把握する必要がある。細かく言えば、長い距離を走っても食事がしっかりできるかだったり、どんな場所でなら寝れるかとか、自分自身の特徴を分かっておく必要がある。
【ポイント② プランニング】
自己分析ができていて初めて、コースを踏まえたプランニングがSR600の命運を分ける。600kmという距離はさすがに普通どこかで睡眠をとる必要がある。600kmで60時間の制限なので、寝ないで走り続ければ単純に10km/hペースで完走できる。それはさすがに(僕には)無理なので、グロスで14km/hペースであれば、およそ43時間でゴールできるので3日間のうち17時間の余裕がある計算。十分とは言えないけど、どこかで2泊できる。普通のBRM600kmより良心的とも考えられるのだ。
もちろん野宿や公園で仮眠とか、いろいろな方法があるので、自己分析して自分に合った方法をとるべきだ。余談だけど、僕は宿のチェックイン時間に間に合わず泊まれなかった経験がある。結果として止まらず夜通し走って完走した。夜通し走ることもできるもんだと自分の新しい発見があった一方で、やっぱりその日は眠くて意識が飛んで事故をしそうになったこともあったので、宿泊を基本ベースに考えるようにしている。
宿泊ポイントは重要なのは間違いないけれど、プランニングでは他にもたくさん考えることがある。補給ポイントも宿泊と並んで最重要。SR600はそのコースの多くが山岳コース。国道であっても店が何もない道だったり、店があっても昼間しかやっていなかったりと都市部とはその状況は全く異なる。これは本当に気を付けたい。僕も何度も経験があるが、『次のコンビニに寄ろう』が100km先なんてのは当たり前の世界。補給切れはリタイアするにも最悪のリタイア(自力離脱不可能)もありうることを忘れずに。なので、しっかり補給ポイントをgoogle mapで確認してプランに落とし込もう。
プランニングの項目はあげればきりがないけど、僕的には重要度が高いことをあと一つだけ。それは防寒対策。完走した3つのSR600のうち2つで、人生でこれほど寒さを感じたことはなく、大げさでなく生命の危機を感じた。季節的にも秋の終わりと春先の夜中という条件で、加えて峠のてっぺんで標高が高かったので単純に寒かった。でも、自分なりに対策はしていたつもりで、防寒手袋やネックウォーマー、シェル(防風のアウター)などは当然装着し、シェルの中には個人的最終兵器のエマージェンシーシートを挟んで持参装備でこれ以上はないという状態でダウンヒルしたものの、震えが止まらず本当にヤバい…ということがあった。今思うと、日中の走りで疲労がたまってた上に、補給が足りず体の中から温まることがなかったからだと分析してる。だから補給の重要性と関係するし、もっと言えば、自分の寒さや疲労耐性を見誤ったという点では自己分析とも関係する。
プランニングの重要性を個別にくどくど書いてきたけど、一番楽しいのもこのプランニングだったりする。ここで名物のうどんを食べようとか、この山を登るときはちょうど夕焼けがきれいだろうとか、まだ見ぬ道を想像しながらあれこれ考えるのは、大人の冒険の醍醐味だと思ってる。
【ポイント③ 準備】
プランニングを終えれば、そのプランを実行するための準備をする。スタート地点までの移動の手配をしたり、宿の予約をしたり、キューシートを自分に合わせて作り直したりとやることはたくさんある。旅は出発前から始まっている。これも合わせて楽しもう。そんな中で、準備でもっとも大事なことは、パッキング。プランニングに合わせた装備や道具を揃えていくが、道中の対応力を高めようと思えば、必然的に荷物は増えるし、たとえ同じ荷物でも荷造りの仕方で容量は変わる。ここも頭の使いどころであるし、走りにも直結する重要ポイント。
あらかじめ宿泊ポイントを決めているなら、2泊3日ぐらいなら、着替えを宅急便で送り、宿で使用済みのジャージや不要になったものは送り返すという戦略も立てられる。僕は、今まではそれはしたことがなく、サドルバックに着替えも入れて宿で洗濯して1日おきに使うスタイル。
あと、地味に悩みどころは充電。宿によっては電源差込口が1か所しかなかったり、差込口がベッドからすごく離れていたりする。SR600の際の装備は充電する機材が多く、ライト2つ(+予備電1つ)、ガーミン、スマホ2台(もっと言えばモバイルバッテリー1つ)。時間に余裕のあればいいのだけど、えてしてSR600は寝る時間もままならないので、充電コードはもちろん、延長コードや電源タップも持っていく場合がある。どれも、途中で充電が切れたらリタイア確定になりかねないので、背に腹は代えられない。
【最後に】
ここまで準備を進めてくれば、あとは当日スタート地点から走るだけ。楽しい自転車の時間の始まりです。途中の大雨で軒先で雨宿りしたり、夜中の山道でシカが追いかけてきたり、日差しが突き刺さる中ひたすら坂道を登ったりと大人の冒険が待ってます。
タイトルに『大人』とつけたのは、若者が体力と速さに任せ、何の情緒もなく走るのではなく、日々衰える身体能力の低下を感じつつも、知識と経験で若者を上回り、かつ大いなる自然を、豊富な大人の人生経験で味わい尽くし、若者に対して優越感をもちたいという同志に向けたからです。
終わり