イザベル・カーロへのオマージュ
イザベル・カーロが亡くなっていたらしい。
28歳で、死因は急性呼吸疾患。亡くなったのが11月17日というから「ザ・ベストハウス123」が放送され、その人となりや魅力に初めて触れたときには、すでにこの世の人ではなかったことになる(あるいは、日本への長旅が負担になったのだろうか)。
昨日「本田美奈子の遺言」という記事を書いたけど、病名を含めた立場に違いはあるものの、あの番組で彼女が発したメッセージ、まさに「遺言」になってしまった。そして、彼女を有名にしたあの写真も。
その記事を書いたときには、芥川龍之介が遺書に記し、川端康成が称賛した「末期の眼」という感覚が、心をよぎり、死を想うことで初めて見えてくる風景を、美奈子は見ていたのだろうと、考えたのだけど、イザベルもそうだったのかもしれない。
彼女は母の歪んだ愛によって「成長=悪」という概念を刷り込まれ、拒食症を発症。自分の時間を止めようとして、自分の生をも止めてしまった。
ここ数年、ようやく時間を前に進める気になったということなのか、あの番組では日本の回転寿司を初体験して、ふた皿の寿司を頑張って食べていた姿が、目に焼きついている。
死後にもし魂が残るなら、自分の早すぎる死が、何より雄弁に拒食症の怖さを世に知らしめる、ということで、彼女は多少なりとも満足しているのだろうか……。
(初出「痩せ姫の光と影」2010年12月)
この訃報、痩せ姫の歴史においても重要な出来事だったといえる。母娘関係、成長問題が深く影響しているという意味で、彼女は生粋の痩せ姫だったわけだし。SNSでの自己表現が広く普及する前の時代、こういう存在はまだ珍しかった。驚いた人も共感した人も、さまざまな反応があるなかで、ひとつの象徴とも化していった特殊な運命。短くも濃密な生涯だった。