何処までもやせたくて(94)母という他人
母と妹への負の感情が、くすぶったまま、その瞬間がやってきた。
母の上京。
「…………」
私を見るなり、母は唖然としている。
一瞬、なぜだかわからなかったけど、よく考えたら、最後に会ってから、半年以上もたってるんだもんね。
今の体重、そのときより15キロくらい少ないし、高校のときの最低体重も、約3キロ下回ってる。
そっか。
自分では、最近かなり太ったつもりでいたけど、今の私、この人が見てきたなかで一番やせてるのかも。
「あなた、今、何キロなの?」
玄関に立ったまま、母の口からやっと出た言葉は、やっぱり体重のこと。それだけでもう、げんなりしてしまう。
せめて最初のひとことだけでも「何度も予定遅らせて、ごめんね」とか言えないものかって。
「39キロくらいかな」
ダメもとで、7キロくらい、サバ読みしてみた。
「何言ってるの! 前に入院したときと比べても、ずっとやせてるし、30キロそこそこ、いや、30キロ切ってるんじゃない?」
実際よりも低く見られたみたいなのが、まんざらでもないけど、ここはなんとかごまかさなくちゃ。
ところが、
「まぁ、いいわ。この際、体重のことなんて。
どうせ、本当の数字は言うつもりないんでしょ。
それより、とにかくこのままじゃ心配だし、伯父さんたちにも迷惑だから、私と一緒に帰ろうね」
覚悟はしていたものの、いきなり切り出されるとは思わなかったから、言葉が出ない。
「ふたりとも、ここで立ち話もなんだから、まずは、中に入って」
と、伯父が助け舟。
我に返った母が、これまでのお礼などを伯母に言ったりしながら、全員でリビングに移動するうち、心を落ち着かせることができた。
よし、これからが勝負だ。
このあいだの月曜日、妹との電話で、母が実家の私の部屋をいろいろ調べたこと、それも、業者に机の引き出しの鍵まであけさせて、私のプライバシーに踏み込んだ、ということを知ってから、私の心は決まった。
絶対に、実家には帰らない。
もし、帰ったら、あの人に管理され、強制され、私は私でいられなくなる。
とにかく、距離をとらなきゃ。
あの人は、他人。
そう思うことにしよう。
私を産み、18年間育てただけの他人。
精神的には、もうすっかり、天と地ほどの距離ができてる。
あとは、物理的な距離だ。
あの人が、私を実家に連れ戻そうとすることに対し、どうすれば、連れ戻されずに済むか、あれから必死で考えて、たどりついたひとつの作戦。
今こそ、それを実行するときなんだ。
私から見て正面の席に、あの人が座った。
私が戦わなくてはならない、母という他人が。
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