パンと女の子
(昔、ネット上で見つけたエピソード。少し脚色して紹介してみる)
その子はあたしと同じバスを待っていました。
初めはやたら細い子だな、としか思っていなくて。
でも、よく見たらホントにガリガリで、
風が吹いてしまったら、倒れそうなくらい。
骨と皮しかない腕には、買ったばかりみたいなパンを持っていました。
そこに、おばちゃんが来て、ベンチに座りました。
そしたら、その子がおもむろに話しかけた。
「このパン、もらっていただけませんか」
おばちゃんはビックリして、
パンとガリガリに痩せこけた女の子を見比べながら、
「あなた、大丈夫なの? どうして食べないの?」
女の子は困ったようにうつむいて、
「あんまり美味しそうだったから、つい買ってしまったんですけど、
私、食べられなくて。
家に持って帰っても誰も食べないし、
せっかくなのに、食べてあげないとパンもかわいそうだから」
頭をさげて、消え入りそうな声で、
「だから、お願いします」
って言ったの。
そしたら、おばちゃんも、
「あぁ、そうなの。それじゃ、いただくわ」
と、パンを受け取りました。
「すみません、ありがとうございます」
やっと笑った女の子は、すごく嬉しそうだった。
それから数週間くらいたった頃。
その女の子のことはもう、頭にありませんでした。
でも、友達が家に遊びに来て、とりとめのない話をするうち、
「あのさ、最近、うちの近所で人が死んだんだよね」
なんか、イヤだなと思いながら、
「どんな人?」
って聞くと、
「拒食症の、ガリガリの女の子」
って。
あぁ、あの子だ、と思ったの。
それで、
「あたし、その子のこと、たぶん知ってる。
同じバスに乗った」
って言うと、
「なんか、お父さんが原因らしいよ」
友達もそれ以上は知らないみたいだったけど、
あぁ、あの子、死んじゃったんだ、って。
名前も知らないし、顔だってうろ覚えなのに、
あぁ、死んじゃったんだ、って。
自分が食べられないパンのこと、
かわいそうだって言ってたのに。