昨年までの風景(8)
冬の花たち
「街に真っ赤なポインセチアの花が よく似合う季節となりました」
私は12月になると、この書き出しから始まる便りをよく書いていた。 灰色がかった街角で 真っ赤なポインセチアの花を見つけると、なんだか うれしくなってくる。花と見紛う真っ赤な葉と緑に出会うと クリスマスを思い出し、流れてもいないジングルベルを耳にし、まさかの雪景色まで想像してしまう近頃、めったにジングルベルの曲は流れて来なくなった。 商店街にも この真っ赤なアクセサリーは 季節が変わったことを気づかせてくれる。晩秋から真冬に変えてくれるトビッキリのアクセサリー。 しかして、街は色めき クリスマスの賑わいを迎え、そして 正月の準備に勤しむ。 そのころには葉牡丹や松、南天が金銀の水引を添えて飾られるのだが、私は 鶴首のような花瓶に 水仙を一本だけ、両側に緑の細長い葉を右に真直ぐ 左の葉は半分折れるように 活けるのが好きだ。 それは あたかも、鶴に見立てた水仙の花が 空高く首をのばして羽ばたこうとしているような姿。一輪の水仙ながら、深淵をたたえるいかなる場所にも 清楚で気品たかく存在するように 思えるから・・
その頃から花屋の店先に 色々なシクラメンが並べられる。圧巻な花として店を彩るシクラメンだが、一つ一つ身をかがめてみると やはりシクラメンは可憐に控えめに並んでいる。暦の上で春になっても 近年なかなか本当の春は遠い。この春を待ち続けているような姿が たまらなく愛しい。
そういえば、長年インテリアでお世話になっている店長さんが、車いっぱいシクラメンを積んで 暮れの挨拶に来られるようになったのは、ここ2~3年のこと。シルバーに光るプリウスの後車台を開けて「さ、お好きなものを!!」と、手を差し伸べられる。 赤やピンク赤紫に及ぶグラデーションのシクラメン。その中から、私の好きな色のシクラメンを? 「え?選んでいいのですか?」「え、お好きなものを!」なんと女心をくすぐるダンディーなお方。 ではお姫様気分で・・・「じゃ~、これを!」私は赤みがかったピンクにほんのり紫が 見え隠れするシクラメンを指さして「本当にいいんですか?うれしい!」 こんな あつかいを受けるのは何年ぶり?いえ、何十年ぶりだろう。 化石化してしまっていた乙女心を呼び覚ましてくれるような出来事に、一瞬白雪姫のような眼覚めを感じた。 あれから、3カ月、いまでもあのシクラメンは 本当の春を待っているように 控えめにそれでも可憐に咲いています。
yucaさん、ともきちさん、はじめまして!私も「#お花とエッセイ」に参加させてくださいな♡ 「note」を始めた頃に書いたエッセイですがよろしいでしょうか?よろしくお願いいたします。