秋の空時計〜お墨付き〜
「あっちを探せ!」
スーツ姿の複数人の男の足音が遠ざかる。
肩の力を抜いた青年は物陰に身を潜めて空を仰いだ。
重い雲に覆われている。数百年前から晴れたことがないそうだ。
胸ポケットから懐中時計を出して開いた彼は、文字盤を見て目元を和ませた。
「道理で涼しいわけだ」
文字のない文字盤は、おとぎ話を元に作った想像の秋の空が映し出されている。
自信作だ。
どこから噂を聞きつけたのか、この時計が欲しいと政府関係者が訪ねてきた。
正確には、空を人工的に作る技術が欲しいそうだ。
手の中で季節を感じられるようにと、おとぎ話の空を見てみたいと思って作った。
まさか追われることになるとは。
ため息をついた彼は、影が落ちたことで顔を上げた。
「あ……」
抵抗虚しく男たちに捕まった。
半月後、街の広場の時計台に空が出現した。
政府に技術提携した青年は、一生暮らすのに困らない謝礼金を受け取った。
それを元手に作った空の時計を街に寄贈したのだ。
政府お墨付きの空として。
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