fuji255

毎週ショートショートへ投稿中。 (マイペースに投稿してます)

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最近の記事

【14】隠された子どもの行方は

12.「雛乃、そっち行った」  白い息を吐きながら斜面を登る。山の中に死霊が入り込んでしまった。隠力を混ぜた声を斎が発する。雛乃が受け取ってくれるはずだ。実戦では初めて使う。何度も訓練したので雛乃に届いていると思いたい。十メートルほど先で細い竜巻が起こった。余波が届く。  斎は体勢を崩し近くの木にしがみついた。空気には雛乃の隠力が濃く混ざっていた。  風が止んで雛乃の場所まで走る。と言っても斜面なので走っているうちに入らなかった。気持ちだけは急いだ。 「斎、完了だよ」 「声届

    • 【13】隠された子どもの行方は

      11.「メリークリスマス! かんぱーい!」  シャンメリを入れたグラスが四つ合わさり軽やかな音を出した。 「すっげー美味そう」  誠は目の前に並んだ料理に涎を拭く仕草をする。  目を輝かせる誠の隣で斎は生唾を飲みこんだ。 「祖母と一緒に作ったの」 「え? 立水さんが?」 「ええ。口に合うかわからないけど」  清香は照れながら取り皿を渡した。チキン、ローストビーフ、サンドイッチ、サーモンのマリネ、野菜ダラダ、クッキー、ケーキなどアメリカ映画に出てくる料理のようだ。 「すごいね、

      • 【12】隠された子どもの行方は

        10-2. 通路の奥、本棚の影に白く光る生霊がいる。 青輝は立ち上がろうとして足が引っ張られてつんのめる。足に繋がれた白い鎖は青輝と地面を繋げていた。どんなに引っ張っても抜けない。青輝はまた涙目になる。 「青輝、すぐ取ってやるから、待ってなさい」 「うん」  安心させるように斎が笑顔を見せると青輝は涙を拭った。  斎は背後の生霊に顔を向ける。 「立水、さん……?」  残っていた片方の目玉が落ちかけている。目玉のない眼窩の闇が斎を見据える。  すっと伸ばされた指が斎の後ろを示す

        • 【11】隠された子どもの行方は

          10-1. 校門近くの広場に準備されたキャンプファイヤーに火が点けられた。後夜祭が始まる。西にはまだ夕方の気配が残っている時間だ。  窓の割れたゼミ部屋の前に集まった斎と雛乃とナギは、汗だくになっていた。焦りの色を誰も隠そうとしない。  青輝がいなくなった。 「手を繋いでたのに、切り離すように人が――」  ナギはぐっと拳を握りしめた。 「生霊がさせたのか」 「わからない。だが、狙いは青ちゃんだった」  隠力が開花して日が浅い十にも満たない子どもだ。狙いやすいのはわかるが、気づ

          【10】隠された子どもの行方は

          9. 学園祭二日目はナギと青輝が大学へ来た。本来であれば、ゆっくり楽しんでもらいたい。しかし、状況が状況なだけにそうも言っていられない。斎はナギに昨日のことを説明した。 「俺は青ちゃんと学園祭を楽しみながら探す。何かあればすぐに連絡をくれ」 「了解」  斎と雛乃はナギと青輝と別れた。学園祭を楽しむふりをしつつ生霊を探す。昨日も散々歩き回った。今日もどこに現れるかわからないので歩き回るしかない。 「ねえ、おにいちゃんとおねえちゃんといっしょじゃだめなの?」 「んー、そうだな。彼

          【10】隠された子どもの行方は

          【9】隠された子どもの行方は

          8. 週末の大学は人で溢れていた。学園祭が始まったのだ。 斎は雛乃と一緒に校内を回る。 「学校にいるとは限らないんじゃない?」 「学校でしか目撃情報がないんだよ。学校に何かしら強い想いを抱いてると考えるのが自然だと思う」 「そうかな。これだけ探しても見つからないし」  人を避けて生霊を探す。来場者が入れない場所にも足をのばした。講義室もひとつひとつ見て回る。隅々まで調べていたら三時間もかかってしまった。どこを探しても生霊は見つからない。まるでかくれんぼをしている気分だ。 「学

          【9】隠された子どもの行方は

          【8】隠された子どもの行方は

          7. 幸い雛乃の意識はすぐに戻った。検査の結果は異常なし。念のため二、三日入院した。 退院後、話を聞くが、雛乃は落ちた時のことを覚えていなかった。生霊を見つけて非常階段を急いで上ったが、生霊の姿は消えていたという。柵に近づいて校内を見渡した途端、息苦しくなったところで記憶が途切れてるらしい。その後は救急車の中だったと記憶している。気を失うと同時に非常階段から落ちたようだ。それとも生霊に落とされたのか。 斎は雛乃が落ちた非常階段を調べた。生霊の気配が色濃く残っていた。強く重く澱

          【8】隠された子どもの行方は

          【7】隠された子どもの行方は

          6. 斎が神社庁に押し掛けるとそれがわかっていたようにナギが待っていた。斎は誠の怪我と生霊が清香らしいことから調査を担当させてほしいと願い出た。ナギはふたつ返事で快諾した。 元々大学での幽霊騒動は数日前に調査依頼が来ており、誰を調査に向かわせるかという話でナギが止めていた。ナギは斎と雛乃に調査をさせるつもりでいたのだ。成人していないので正式に依頼はできないので、担当はナギということになる。 「ナギ地区長ももう少し早く情報くれればいいのに」 「確かに。そしたら加賀見くんが怪我し

          【7】隠された子どもの行方は

          【6】隠された子どもの行方は

          5. 食堂にいると、あちこちから幽霊話が聞こえてくる。毎日のように目撃されている。噂とは伝言ゲームのようなものでどこで事実が変わっているかわからない。原型をとどめていない可能性もある。 容易に耳を傾けるものではないが、斎は気になって仕方がない。近くの席に座っている人たちの会話に耳を傾ける。しかし、幽霊話ではなかった。彼らは幽霊に遭遇していないのだろうか。安心したような残念なような。会話を盗み聞きしたことが申し訳なくなった。 「どうしたの、その怪我⁉」  雛乃の声で斎は顔をあげ

          【6】隠された子どもの行方は

          【5】隠された子どもの行方は

          4.「よ、久しぶりだな」  斎と雛乃が一緒に講義棟へ向かっているとシルバーフレームの眼鏡をかけた加賀見誠が声をかけてきた。相変わらず絵の具のついたシャツを着ている。 「久しぶり、加賀見くん」 「夏休み全然遊ばなかったね。作業は順調?」  誠は学園祭で展示する巨大なパネル絵の作成をしている。他にも校門に飾る柱の絵や野外ステージの後ろに掲げる絵などの作成を手伝っているのだ。 「順調、ではないかな。大変だよ。夏休み使っても終わらなかった」  うな垂れる誠は大きなため息に泣きそうな顔

          【5】隠された子どもの行方は

          【4】隠された子どもの行方は

          3.「これとこれと。あ、これも似合うんじゃない?」 「そんなにいらないだろう、雛乃。それに青輝が疲れてる」  斎の手を握っている青輝の瞼は今にも開かなくなりそうに重い。着せ替え人形になっていた青輝の疲れはピークに達している。  いつ夢に飛び込むかわからない青輝を斎は軽々と抱きかかえた。細い腕をしている斎だが、それなりに鍛えているので六歳の男の子一人抱えても苦にはならない。  なんとか起きていようとする青輝を見て斎は、ナギと生活を始めた時のことを思い出す。今の青輝と同じように連

          【4】隠された子どもの行方は

          【3】隠された子どもの行方は

          2. 初めて自分が連れて来られた日のことを思い出した。見える景色が、世界が急に変わったのを鮮明に覚えている。不安と恐怖、好奇心。複雑な感情に喜ぶことも悲しむこともできなかった。今思えばただただ現状を受け入れるしかなかったのかもしれないと斎は思っている。 「ナギさん、その子もしかして――――」 「紹介するよ、いっちゃん。青輝くんだ」  夕方に帰宅した同居人に驚きながらも、斎は一緒に連れてきた子を見て合点がいった。 「よろしく、青輝。斎だ」  斎は膝を折って目線を合わせた。 「よ

          【3】隠された子どもの行方は

          【2】隠された子どもの行方は

          1-2.「おい。ここにあった俺のジュース知らないか?」 「私がとっておいたお肉もない」 「あれ? 俺のフルーツは?」  小さな騒ぎ声で微睡んでいた斎の意識が浮上した。 「どうしたんですか?」  川で遊んでいた雛乃が騒がしさに気づいて戻ってきた。 「なんか食い物がなくなってて……」 「捨てた、なんてことないよな?」  少しずつ片付けていた清香が間違って捨てたのではないかと疑いの目を向けられる。 「ここはまだ片付けていません。置かれていた食べ物や飲み物には触れていませんよ」  泣

          【2】隠された子どもの行方は

          【1】隠された子どもの行方は

          あらすじ 大学二年生の三和斎は、夏休みに同級生の柊雛乃が所属するオカルト同好会主催のバーベキューに参加した。最中、神隠しに遭った子供と遭遇する。斎と子供は同じ境遇ということもあり、一緒に生活することとなる。青輝と名付けられた子供と雛乃と一緒に出かけたところ、同級生の加賀見誠に目撃されてしまう。夏休み明け、青輝について話しているのを聞いてしまった立水清香は斎に隠し子がいると思い込み、ショックで生霊となってしまう。彼女は斎に好意を寄せており、同じ大学に入学するほどだ。  学園祭

          【1】隠された子どもの行方は

          三日月ファストパス〜コンシェルジュ付き〜

          起床すると長い耳を立てた小動物が二足歩行していた。 「おはようございます、ご主人様」 鼻をひくひくと動かす。 「私、三日月ファストパスのコンシェルジュをしております、ユキ・ミニレッキスと申します」 丁寧に頭を下げるユキにベッドに入ったまま会釈した。 「どうも――って、何なんだお前⁉」 「ですから、三日月ファストパスの――」 「その、三日月ファストパスってなんだ?」 「あれです」 ユキはタンスの上にある遺影を示した。 「かあさんが、どうかしたのか?」 「違います。

          三日月ファストパス〜コンシェルジュ付き〜

          お返し断捨離〜黒スーツの男の話〜

          新年度の時期は書類が大量に届く。 役場が送った断捨離のアンケートの返信があるのだ。 三回にわけて行われるもので、今日はその一回目の処理だ。 内容はパソコンに入力して、断捨離の要不要を選択する。 黒スーツに身を包んだ男たちだけのむさくるしい職場だ。 積み上げられた書類の一枚に目を通す。 得も言われぬ苛立ちが膨れ上がった。 首を振り感情を消す。 この仕事を始める前の記憶は一切ない。 だから、昔の知人がいたとしても感情的になることはないはずなのだが。 この送り主は断捨離が

          お返し断捨離〜黒スーツの男の話〜