鳥獣戯画ノリ~物語に興じる~


寺山の言うことをきくように。

父の遺言だった。

「こちらでございます」

急勾配の山道を涼しい顔で進む寺山の後ろから肩で息をしながらついて行く。
頂上には崩れかけた木造建ての寺院。

そこには先祖代々書き記した水墨画があった。

「坊ちゃんには続きを描いていただきます」
「坊ちゃんって言うな。もう四十も半分過ぎてる」
「では、失礼いたします」

寺山は詳しい説明もせず、下山した。

食料備蓄は味気ないものばかりだった。
定期的に様子を見に来る寺山が食べ物は持ってきてくれた。
娯楽もない。スマホも圏外。
下山を試みたこともあるが、気づくと寺院に戻っていた。

暇を持て余し、水墨画を見つめるようになった。

先祖が何を思ってどんな意図で描いたのか。
見つめてもわからない。
だが、水墨画に惹かれた。

兎や蛙、鹿や猿までいる。
水遊びをしたり追いかけっこをしていたり。
人間は双六に興じている。

自然と笑みが溢れた。

筆を取って紙に描いていく。
描き終えると夢へと落ちた。


目を覚ますと白黒の世界が広がっていた。


(426文字)


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