【ツノがある東館】のお題で、【一行目で惹きつける】ショートショート〜助けは隣に〜
昼間なのに薄暗く、鴉の鳴き声が響く森の中をさまよっている。
どのくらい歩いただろうか。
青年と少年は蔦のはう洋館に辿り着いた。
彼らは休むことにした。
扉が音を立てて開く。
中の様子を窺いながら、足を踏み入れる。
埃っぽく薄暗い。
ぼんやりと明るさが室内を満たす。
誰もいないのに壁にある蝋燭に火が灯った。
ホール中央にある衝立には羊皮紙が貼られている。
東館には助けを呼ぶためのツノがある。
西館には移動するためのハネがある。
青年は東へ。
少年は西へ向かう。
東からは助けを求める声が響く。
西からは風が巻き起こる。
東で助けを待つ青年が目にしたのは、風の中から現れた少年だった。
西から移動した少年の瞳には落胆の色が濃く出ている。
少年は弱々しい声で助けてと呟いた。
呻きだした青年からツノとハネが生える。
宙に浮く青年は、犬歯を覗かせる悪魔と化した。
助けを求めた少年は、光のない瞳を青年に向ける。
青年は少年を抱えると飛んで山を下りた。
少年を人里へ落とす。
青年は人に見られないよう山中へと姿を消した。
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