三日月ファストパス〜コンシェルジュ付き〜
起床すると長い耳を立てた小動物が二足歩行していた。
「おはようございます、ご主人様」
鼻をひくひくと動かす。
「私、三日月ファストパスのコンシェルジュをしております、ユキ・ミニレッキスと申します」
丁寧に頭を下げるユキにベッドに入ったまま会釈した。
「どうも――って、何なんだお前⁉」
「ですから、三日月ファストパスの――」
「その、三日月ファストパスってなんだ?」
「あれです」
ユキはタンスの上にある遺影を示した。
「かあさんが、どうかしたのか?」
「違います。箱の中です」
十日前に亡くなった母の遺影の前には手の平サイズの箱がある。
母の遺品で、中には三日月のブローチが入っている。
「毎月、三日月の日はファストパスになります」
「どういうことだ?」
「つまり、行列に並ぶ必要がないということです」
「???」
「ところで、大学へは行かれないのですか?」
「あっ! 一限からだ!」
十分で身支度を済ませる。
「ブローチをお持ちください」
「へ?」
先導するユキについて行く。
ホームにできた行列の先頭に入り込んでも嫌な顔をされることはなかった。
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