ドローンの課長〜巡回は日課です〜
「早く終わらせないと来るぞ」
席の近い先輩や同期は、帰宅の準備をして終業時間がくるのを待っている。
同じ課で仕事をしているのは俺も含めて数人だ。
みな必死の形相でパソコンに向かっている。
俺の脳は停止寸前、体が勝手に動いているような状態だ。
社内に終業を知らせる音楽が流れる。
終わった。
周りが次々と席を立つ。
「お疲れ。早く帰れよ」
「ああ。お疲れ様」
同期が肩を軽く叩いて帰って行く。
その背中をすがるように見送った。
残っていた人もすぐに席を立ち出て行く。
静かな社内に機械音が響いた。
肩をびくりと震わせる。
十八時十五分過ぎ。
今日は早いな。
プロペラ音とモーター音が背中で止まる。
『NO残業。STOP残業』
野太い男性の声がスピーカーから流れた。
ぎぎぎと音が鳴りそうな首を回す。
視線と同じ高さで浮くドローンをねめつけた。
「課長、ドローン巡回は残業じゃないんですか?」
『これは、趣味だ。早く帰りなさい』
明日には回せない仕事を残したまま、社内の電気を消した。
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