
キャパとバーグマン
私の部屋には、キャパの写真がかざられてある。
キャパの写真展が美術館で行われたとき、美術館のショップで購入したものだ。
戦争報道の写真を多く撮影したキャパだが、珍しく女優を撮影したものがある。
イングリット・バーグマンだ。
そのバーグマンのはがきサイズの写真を、私は買った。
撮影されたバーグマンは、映画のワンシーンのように、憂いに満ちた横顔を見せている。背景にはバイオリンをひく人物が写っている。
モノクロなので、いっそう哀愁をかきたてるような写真だ。
最初、美術館で見たとき、報道写真家のキャパがなぜ、こういう写真を撮ったのだろうかと思った。
あとで、調べてみてわかった。キャパとバーグマンは不倫関係だった。
このバーグマンの表情は、撮影用につくったものではなく、たぶん、愛する男に見せた自然な表情だったのだろうと、ロマンチックに想像してしまう。
二人が逢瀬を重ねたのは、第2次大戦中のヨーロッパだ。
キャパは戦争を撮るためにヨーロッパに。バーグマンは軍の慰問のためにヨーロッパに来ていた。
二人には共通点がある。キャパはハンガリー出身のユダヤ人。バーグマンはスウェーデン出身の女優だが、母がユダヤ人の血をひき、父は写真家だった。
そんな二人が魅かれあった。
だが、すでにバーグマンには家庭があった。同じスウェーデン人の医師の夫がいた。
二人の恋が一瞬の火花のように消えることを予想して、この写真は撮られたのだろうか。
キャパを有名にしたトロツキーの写真があるが、それはまさしく、その当時の時代の空気を感じさせるものだ。時代を変革させようとする革命の熱気が伝わる写真だ。
それにくらべると、こんな写真をキャパがとるのかと思わせるのが、バーグマンの写真だ。
結局、二人の恋は終わる。
そのあと、キャパは戦争報道の写真を撮り続ける。バーグマンは映画監督のロッセリーニと恋に落ちる。
バーグマンは知的な美しいさを持つ女優だが、情熱的に生きた人だと思う。
二人のメモリアルな写真は、よく見る有名女優の写真ではなく、特別な意味を私に感じさせる。
その彼女の表情は、今も美しい。
*左がそのキャパの写真、右は関係ないけれど、私が撮影したパリ
ロバート・キャパ 写真家 1913~1954年
イングリット・バーグマン 女優 1915~1982年
作品掲載 「小説家になろう」
華やかなる追跡者
風の誘惑 他
「エブリスタ」
相続人
ガラスの靴をさがして ビルの片隅で