ショートストーリー 待ち合わせ
いつものことだけど、すいぶん待たされる。
いつもの待ち合わせのカフェ。ガラス窓には、小さな雨粒が流れている。
残り少ないカプチーノ。
紙コップを握りしめながら、スマホで時間をつぶす。
彼と付き合い始めて3年だけれど、ほぼ友達関係と言えるだろう。
彼は私に気をつかうことなど、ほとんどない人。だから、こうして時間に遅れてくる。
きっと素敵な美人がお相手のときは、遅れてくるなんてことないだろう。
お世辞にも、目立つような華やかさがあるとはいえない私。
彼は見栄っ張りだから、私のこと、友達にしておきたいのだろう。
やっと彼が、店のガラスの自動ドアを開けて、入って来た。
「遅れてごめん」彼は私の隣のスツールに座った。
少しも悪びれない。
「30分の遅れよ」
「ごめん、ごめん、仕事の関係なんだ」
私は意を決して言った。
「もう、これきりにしょう。お別れを言いにきたの」
彼の顔が青くなった。
「どうして‥‥ ?」
「もう、待ちくたびれるのが嫌になったの」私の気持ちなんてわからないでしょ。
言うべきことを言うと、ささやかな満足感を覚え、私は立ち上がった。
彼を無視するかのように、私は店を出ると、傘をさして歩き始めた。
心の中では、バカヤローと叫んでいる。
彼は追いかけるように店を出ると、すぐに私に追いついた。
彼は、傘もささずに濡れている。
「待てよ。君はわかってない」
「なにが、私を大事にする気持ちなんて、少しもないじゃない」
「違うよ」
「このうそつき」もうだまされない。
「君を大事に思うから、一歩すすめなかった。こんな俺でいいのかと」
「口から出まかせで言わないで、信じない」
雨に濡れながら彼は言った。
「それなら、君にわかってもらうまで、俺は待ち続けるよ。ずっと‥‥‥」
私は、思わず傘を落とした。
了
作品掲載 「小説家になろう」
華やかなる追跡者
風の誘惑 他
「エブリスタ」
相続人
ガラスの靴をさがして ビルの片隅で