カメレオンハンター、はじめました。
そう、はじまりは突然だった。
それは、”いつも”のなかに、静かにまぎれこんだ”知らない”ものだった。
最初はそれが何か分からなかった。
だって、普通は考えもしないだろう。
道端に”カメレオンの死骸”が転がっているなんて。
人生で初めてカメレオンの死骸を目撃した数日後、僕は同僚に
と、この時の体験を自慢気に告白した。
すると、同僚は
と言ってきた。
そこら中に…いる…?
どうやら聞く所によると、ルワンダには野生のカメレオンが、たらふくいるらしい。
そう思い、後日同期隊員と共に、我が家の周りを散策することにした。
散策当日、村人に「Ndashaka uruvu(カメレオン欲しいんやけど)」と言いながら、スマホでカメレオンの画像を見せると
「あーコレね、よく見るよ」
「多分この木にいると思う」
「じゃあ俺向こうの木見てくるわ」
というような流れで、あれよあれよと村人を巻き込んだ「カメレオン捜索部隊」が編成された。
野次馬精神もあるだろうが、こういう時のルワンダ人の機動力はすごい。
それまで農作業をしていたおっちゃんも、さっきまでその辺で遊んでいた子どもたちも、一時は目に映るすべての人がカメレオン探しをしていた。
そんな、カメレオンハンティング開始から数十分が経った頃、少し離れた所から奇声が聞こえてきた。
「獲ったどおおおぉぉぉ!!!!」
なんと部隊の一人、それまで農作業をしていたおっちゃんが早くも1匹目のカメレオンを捕獲。
木の枝にカメレオンを乗せて、満面の笑みを浮かべながらこちらに持ってきた。
おっちゃんが持ってきたカメレオンは僕が思っていたよりも小さく、全長は僕の人差し指くらいの大きさだった。
すげぇ…
本当にこんな簡単に見つかるんだ…
そう思ったのも束の間、その後は次々とカメレオンが見つかり、正味1時間程度のハンティングで、この日は計4匹のカメレオンを捕獲することができた。
「1時間探して1匹でも見つかったら十分かな」くらいに思っていたが、予想以上に見つかったので、これは大収穫と言えるだろう。
ちなみに、カメレオンを見つけてくれた村人には、報酬としてアメをあげた。
この報酬の効果もあってか、村の子どもたちはちょっとしたイベント感覚で一生懸命カメレオン探しをしてくれた。
大人も最初は「アメじゃなくて、金をくれ。」と言っていたが、僕らが「金はやらん。アメならやる。」と言い続けていたら、最終的には嬉しそうにアメを受け取っていた。
さて、別に最初から家でカメレオンを飼う予定があったわけではないが、せっかく捕獲したので、とりあえず4匹とも家に持って帰ることにした。
家に帰る途中、道端で出会う村人たちは眉間にシワを寄せ、不思議そうな顔でこちらを見ていた。
まぁそりゃそうだ。
そもそも僕以外の外国人がこの村でウロウロしていること自体今までなかったのに、外国人2人が「何か」を乗せた木の枝を持って、精鋭ハンター達をぞろぞろ引き連れながら歩いているのだ。
ただ、ほとんどの村人たちはその「何か」がカメレオンだと気付くと、「ィイヤウェーイッ!!!!」と悲鳴を上げて、僕たちから離れていく。
どうやらルワンダの人々は、ハンティングに協力はしてくれるものの、カメレオンが大嫌いらしい。
カメレオンを間近で見ようと恐る恐る近付いてきても、なかなか自ら触ろうとする強者はいない。
よくよく聞くと、彼らは「カメレオンには毒がある」とか「カメレオンは噛み付く」と思っているらしい。
いやいや、大丈夫。
噛みつかん、て。
そもそも「歯」ないんだから。
「Nta kibazo(大丈夫だよ)」と言いながら、何度かカメレオンを指に乗せて差し出してみたが、彼らは終始ビビり倒していた。
結局、この日捕獲した4匹のうち3匹は、首都で活動している動物好きの隊員にあげることとなり、今回一緒にカメレオン捜索をした同期隊員に託し、彼のもとまで届けてもらった。
もう1匹は我が家に残し、僕がペットとして飼うことにした。
この日を堺に、隊員間では「カメレオンを簡単に捕獲できる場所がある」という噂が広がり、我が村は”カメレオンの聖地”と呼ばれるようになったのであった。
その後、頼んでもいないのにわざわざ僕の家までカメレオンを不定期配送してくる「カメレオンデリバリー」が村でちょっとした流行になったのは、また別のお話。
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