仙骨と私 その13
自分が何をしたいのかさっぱり分からなかった私は、やりたいことを100個書き出すワークをしてみた。
大きいことから小さいことまで書き出してみて、まずは気軽にトライできる小さいことから、片っ端からやってみたんだけど、これが何をやっても全然楽しくなかった。
ひとっつも、本当に、楽しくなかったのだ。あんなに頑張って100個書いたのに。
全部嘘っぱちだった。どれもこれも、頭が考えた「こうしてみたら楽しいんじゃない?」「こうしてみたらもっと素敵な自分になれるんじゃない?」であって、私のほんとうの願いではなかった。
もう私は心底腹が立ってしまって、ふざけんな!!もうこうなったら何もしねぇ!腹の底から、魂震えるような本当の「したい」が湧き上がるまでテコでも動かん!と決めた。
家事も放棄して、ひたすら座って、自分の中に「○○したい」が浮かぶ度、それって本当?としつこく自分に問いかけた。もう絶対に騙されたくなかったから。
慎重に問いかけていくと、ほとんどのことは嘘だった。頭は退屈が嫌いだから、すぐに「○○したい」と言いだす。今まで当たり前に信じてきた食欲や睡眠欲さえ、大部分が退屈凌ぎのフェイクであることが分かってきた。
ほんの最低限の食事とトイレと睡眠だけで、あとはもう本当にただただ座って何日かが過ぎた。
相変わらず浮かぶものはどれもこれもフェイクで、本当にしたいことなんて何も出てこないのだけど、徐々にそのフェイクの願いも出てこなくなってきた。
頭と私の戦い、根比べだった。
何日かすると異変が起きた。ただ座って呼吸しているだけで、それが至福になってしまったのだ。ひと呼吸、ひと呼吸が甘くきらきらしている。
ついに頭が黙った。そして私は気付いた。
どうやら最初からそこには至福があって、私の存在は元々が至福だった。
ただ「このままでは何かが足りない」と考える頭が、あれをしませんか?これをしませんか?と絶え間なく囁き続けて、その至福を覆い隠してしまっただけだったわけだ。
なーーーーーんだ、アホらし。わっはっはっはっ。
私はもう「やりたいこと」なんてどうでも良くなってしまった。何もしなくてもこんなに幸せだったじゃん。わっはっはっはっはっ。
それからも私はただ座ってすーはーすーはー、呼吸だけをしていた。もう何も探していなかった。
そこから2日ぐらいだったか、相変わらず至福のままで座っていると、初めて頭の囁きとは毛色の違う、何やら「ほんとう」な感触のある願いが、腹の底、仙骨からボコンと出てきた。
「歌いたい」だった。
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