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安定による危機感が芽生えた2024年。
大晦日くらいパソコンを開かずに過ごしたいと思いつつ、滑り込むように1年の振り返りを書くのが慣例になってしまった。
今年も実家の机で、これを書いている。
紅白歌合戦が始まるまでには書き終えたい。
仕事をしながら、子育てをする生活のなかで、私的にやれるプロジェクトは年に1つくらいだなと思うようになった。
2021年はUターン、2022年はnoqa hair designのオープン、2023年は雑誌『生活圏』の制作。
2024年は、家を買って、自分たちでリノベーションをすることだった。
住宅ローンの審査から、家族でのDIY、税金関係の勉強など、初めてのことだらけで大変だったけど、身をもって社会の仕組みを体験できるいい機会になった。
庭の木を切ったり、壁にペンキを塗ったり、暖炉で火を起こしたりと、生活のなかにフィジカルを伴うアクションが増え、時代に左右されにくい生きる力が育まれている実感がある。
自分の興味が移り変わっていき、知らない世界に触れることで視界が広がっていくのが楽しい1年だった。
【1月】車椅子テニスの世界王者・小田凱人選手にインタビュー
立ち上げの頃からお世話になっているIKEUCHI ORGANICのオウンドメディア『イケウチな人たち。』で、史上最年少で世界ランキング1位になった車椅子テニスの小田凱人選手にインタビュー。練習場にお邪魔して、プレーの様子も見学させてもらった。競技を始めた頃から「世界一の選手」を目指していた小田選手が実践した「夢の叶え方」や、地方から世界の頂点への挑戦、競技の未来を見据える視線など、聞いていて背筋が伸びるお話ばかりだった。「あの日、病室でラケットを握ってから、世界一の選手になる自分を疑わなかった」というタイトルは、今年書いた記事のなかで一番気に入っている。
番組ナビゲーターを務めさせていただいている函館のケーブルテレビ局・NCVの『ミライハコ(現在お休み中)』では、20年前に桔梗中学校の校庭に埋められたタイムカプセルの開封に密着。『Yahoo! JAPAN SDGs』の取材で、中標津町でワイルドミルクを生産する養老牛山本牧場さんを訪ねたり、富士吉田市で『かえる舎』を運営するカズマ君を訪ねたり、いろんな土地で人に会えた月だった。
【2月】ジモコロで初めての夫婦記事
ライターとして何度も記事を書かせてもらってきたジモコロで、初めて取材を受けた。しかも夫婦で。個人事業主同士の仕事や子育ての話を通じて、「ライオン夫婦」というキャッチコピーをつけてもらった。この記事のお陰で、夫婦でどこかに遊びにいくと「ライオン夫婦じゃん!」と言ってもらえたり、今まで話したことがなかった幼稚園のママから「阿部さんって、ライターさんなんですね」と話しかけてもらったりすることが増え、改めてインタビュー記事というのは名刺代わりになるんだなと感じた。ありがたい。これからも遠くへ狩りに行くライオンとして頑張ります!
アーティストインレジデンスで函館に来てくれたミュージシャンのDogeatingdogsと、ペインターのToshikiが、DJとライブペイントという形で作品を発表してくれた。ずっと楽しみにしていたオードリーのオールナイトニッポンin東京ドームにも遊びに行くことができた。鞆の浦、今治、三豊、瀬戸田、児島と、瀬戸内海の周辺を巡るツアーも素晴らしい経験の連続だった。
【3月】新潟で『生活圏』のトークイベント
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函館と同じ開港5都市のひとつである新潟市で「まちを視るひと」というテーマのトークイベントをさせてもらった。地元・新潟にUターンして『古町100選』という本を作った編集者の金澤李花子さんと、自分がUターンして作った『生活圏』を題材に、それぞれの街の個性や、共通するローカルの面白さなどを話す会。あちこちローカルスポットに連れていってもらったり、函館では会えないような伝統工芸の職人さんたちと仲良くなれたり、得るものばかりの出張だった。機会を作ってくれたのは、函館旧市街で『HakoBa』を運営するリビタチーム。今度は新潟のみんなに函館を案内したい!
キリンの取材で長野県上田市を訪れ、生産者さんや行政職員の方が協力してワインの生産に取り組むお話を聞く。新千歳空港で道南のお菓子を販売するプロジェクトに参加させてもらった『バターのいとこ』でお馴染みGOOD NEWSさんの本拠地である那須を訪れ、黒磯の街を案内してもらう。藤城清治美術館や、奈良美智さんのN's YARDにも初めて行くことができた。
【4月】函館市が発行する移住ガイドブックを制作
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初めて函館市のプロポーザルに参加して勝ち取った移住ガイドブックの仕事。大泉潤市長をはじめ、函館に移住した方々の体験談を伺って1冊の本にまとめた。街のいいころだけでなく、想定外だったことも含め、なるべく現実とのギャップがない内容を目指しまして制作。移住やUターンを経験した函館在住のライター、デザイナー、カメラマンという布陣で作れて、ローカルで闘っていく上での自信になった!函館に戻ってきて3年。市の仕事を任せてもらえてるの、しみじみと嬉しい。
母校・函館東高校の関東同窓会が創立40周年を迎えた記念会報誌に文章を寄稿させてもらったり、今年で4年目となるeachがスタートを切ったり、ゴールデンウィークに入って花見やキャンプをしたりと、4月は函館で過ごす時間が多かった。
【5月】知床で野生のシャチに出会う
息子がシャチにハマってて、毎日のように見たいと叫んでいます。調べたところ日本でシャチがいる水族館は千葉と愛知の2箇所のみ。気軽には行けないと思っていたのですが、なんと知床では野性のシャチに出会えるとのこと!すごいぞ、北海道!
— 阿部光平|IN&OUT (@Fu_HEY) May 3, 2024
ということで、函館から10時間走ってシャチを見てきました。 pic.twitter.com/lSaL5sAdKT
息子がシャチにハマっていて、本物を見るために知床まで行ってきた。函館から車で10時間!北海道の端から端までcoast to coastの旅。めっちゃ疲れたけど、野生のシャチに出会えた感動はひとしおだった。道東は今まで何度も取材で訪れていて、その度に「今度は家族も連れて来たい」と思っていたのだけど、それを実現する旅になった。一緒に行きたかった場所や会いたかった人を巡り、個人的だった体験と関係性が家族のものに広がり、共通の話題になっていく。人生を変える旅というのは、案外こういうものなのかもしれない。函館から羅臼、ウトロ、弟子屈、阿寒、津別、滝上、紋別、上川、旭川、滝川を回って函館に戻ってくるルート。移動距離と時間を調べたら、だいたい1700kmで24時間34分だった。
函館西高校の先生にお声がけいただいて学校で探究懇話会に登壇、peepsの取材では函館地方気象台の取材。道南サミットのフィールドワークで鹿部町を訪れ、町長を交えて旧庁舎の利活用を考えるワークショップを行ったりもした。
【6月】大好きな放送作家のサトミツさんに取材
『オードリーのオールナイトニッポン』や『DayDay.』などで放送作家を務めるサトミツさんにお話を伺うという、リトルトゥースとしてはありがたすぎる機会をもらった。一つひとつの質問に丁寧に答えてくださって、その誠実な人柄に改めて大好きになった。「苦手なことを諦めたからこそ別の可能性が見えてきた」や「1つの成長曲線が下降するタイミングで、別の成長曲線の上昇が始まってたりする」など、一見ネガティブな状況の中に光を見出す視点に勇気をもらう取材になった。東京ドームの話ができたのも、嬉しかったなぁ。
ジモコロではドット道東のタクローに取材。車の移動中に話を聞くという、彼らの日常に触れるような取材だった。「危機感で手を繋ぐ」って話は、道南で活動していく上でもめちゃくちゃ参考になった。小学校のPTAで夏祭りの実行委員になり、焼き鳥の出店をすることに。やる気のある保護者ばかりで、いろんな意見やアイデアが出て、学祭のような高揚感があった。
【7月】家のリノベがスタート
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函館旧市街に家を買った。庭から海が見渡せて、薪の暖炉があって、地下ガレージにロフト付きの子ども部屋まである夢のような家。しばらく使われていなかったため、壊れている箇所もあり、リノベーションを始める。水回りなど、専門技術が必要な部分は大工さんにお願いしつつ、壁塗りや床の修理、庭の整備などはDIYで進めた。同時進行で引っ越しの準備を進めるため、この月は新聞連載などのレギュラー仕事以外はストップし、時間とリソースを家作りに注いだ。ずっとパソコンで仕事をしている人間にとって、体を動かし続ける日々はとても新鮮で、自分で巣を作る動物のような気持ちだった。
唯一の出張は、毎年恒例のフジロック。今年もエリアレポートを中心に、苗場での25年を振り返る記事や、Luv(sic)シリーズが披露されたSHING02のシークレットライブのレポートなどを書いた。
【8月】北海道の短い夏を彩るお祭りの数々
毎年楽しみにしている『はこだて国際民俗芸術祭』の季節。イベントの主催者であり、地元のバンドであり、学童の運営もする異色の集団「ひのき屋」とは何者なのか?メンバーである曾我直人さんのインタビューを雑誌『生活圏』から、Yahoo!個人に転載。本が売り切れて以降、読みたいと言ってくれる人に読んでもらえない歯痒さを感じていたので、ひとつの実験としてWEBで公開するというのを試す。結果的に、多くの方から感想をもらえた。
函館港まつりをはじめ、短い北海道の夏を楽しむイベントが続く季節。北海道最古の神社として知られる姥神大神宮のお祭りに参加したり、近所の函館八幡宮のお神輿を初めて担いだりした。函館で音楽を制作するnaruka nakamuraさんが楽曲を担当した『ルックバック』をシネマアイリスで鑑賞。
【9月】函館の内側と外側を繋ぐイベント『HOME & AWAY』
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人と物が行き来して、地域の文化と混ざり合い、独自の発展を遂げる。開港都市・函館のオリジナリティは、そうして育まれてきたのだと思う。人の交流が増えることで新たな取り組みが生まれたり、内側と外側の距離が近づく未来を目指したい。そんな想いから『HOME and AWAY』というイベントをスタート!岡山県児島市でデニムの製造販売や宿泊業を営むITONAMIの二人をゲストに迎え、デニムの販売やトークイベントを開催した。企画・運営をStaple函館、箱バル不動産、DAIKIRI creation、IN&OUTという函館の仲間で進めるという試み。函館内外の行き来や繋がりを増やしていくイベントとして、今後も続けていきたい。
「習慣」をテーマにしたLIONさんのメディアで、極地建築家の村上祐資さんに取材。「過酷な環境での生活経験がある方は、ストレス軽減やメンタルヘルス維持に役立つ習慣を持っているのではないだろうか?」。そんな仮説からスタートしたが、気づけば習慣が持つ二面性を問い直すようなインタビューになった。オズマガジンの連載企画『民藝ちゃんの暮らす町』のコーナーでは、「函館の手仕事」をテーマにしたコラムを執筆。開港の歴史を振り返りながら、函館旧市街で活動する陶芸家のAKOさんを紹介した。見積もりを公開して、それを焚き火で燃やす『編集の編集の編集!!!!』というイベントも最高だった!
【10月】道南サミット、No mapsに登壇
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『道南フェスティバル2024』に、ドット道東の名塚ちひろさんと登壇。東京の北海道人会で知り合い、当時からお互いにローカルメディアをやってて、今はそれぞれ地元である函館と釧路に戻り、クリエイティブの仕事をしているという多くの共通点があり、刺激と楽しさが共存する登壇だった。他のパートのセッションも、とてもエキサイティングで、道南の盛り上がりを実感。これだけ同時多発的に、いろんな分野でチャレンジングな取り組みが生まれている土地に、当事者の一人として関わることができている面白さを噛み締める機会になった。
はこだて未来大学で開催される『NoMapsはこだて2024』に、初めて登壇させてもらった。「地域メディア-ローカルな視点から生まれる新しい価値と未来」というテーマで、WEBメディア、ローカル放送局、観光案内所など、様々なスタイルで地域情報を発信する方々とのトークセッション!NOT WONKが地元・苫小牧で開催したFAHDAYに参戦。市民会館が取り壊しになることに対して、その場所に地元のお店や東京のバンドを集めてイベントをするというカウンター。 「わかる人がわかるにはもう興味がない。自分の好きなものを、好きな人達にぶつける。それはパンクバンドの仕事でしょ」ってMC痺れた。今年体験したなかで、最高のイベントだった。
【11月】喋りの天才・古舘伊知郎さんとの1対1
ダ・ヴィンチWEBで古舘伊知郎さんにインタビュー。喋りの天才と1対1で向き合うエキサイティングな時間だった。瞬発力のある発想や独自の言い回しで知られる古舘さんの実況の裏には、徹底的な準備があったことが明かされた著書『伝えるための準備学』の取材。読めば読むほど古舘さんの準備の緻密さや、プロとしての姿勢に背筋が伸び、それだけに自分が取材を行う準備もかつてないほどハイプレッシャーな取材だった。同書は田中泰延さんが代表を務める「ひろのぶと株式会社」が版元。ほぼ日の塾で糸井重里さんと泰延さんの対談を編集し、そのことを『読みたいことを、書けばいい。』で紹介してもらい、それを知っていたダ・ヴィンチWEBの金沢編集長が今回の企画に声をかけてくれるという、ありがたいお仕事だった!
ハウス食品さんからお声がけいただき、オウンドメディア『&House』で、タイでビタミン飲料のマーケティングを担当する社員さんにインタビュー。『noru journal』では愛車との生活について取材していただいた。函館どつくで巨大な貨物船の進水式を、南茅部では大漁旗がはためく漁船の進水式を初めて参加。ドミンゴで5周年を迎えたドット道東の記事を、キリンでは退職者の方に話を伺う『仕事のギフト学』の記事を執筆。昨年までのアーティストインレジデンスプロジェクトに、マルシェが追加され、『はこだてみなとまち芸術祭』が開催された。
【12月】充実した1年を締めくくる大忘年会!
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友達に声をかけ、友達が友達を連れて来てくれて、函館のいろんな領域の人が集まったごちゃ混ぜ忘年会を開催!至る所で再会や出会いが起きていて、1年の締めくくりとして最高の光景だった。ざっくりした声がけだったけど、「誰が来るの?」と聞いてくる人はいなくて、「行けば面白そう!」という気持ちでみんなが来てくれたのは幹事冥利に尽きる。コロナの影響もあって、函館に戻ってきてからは自分で声をかけて人を集めることをあまりしてこなかったが、めちゃくちゃ楽しかったし、そういう声も多かったので、もっと積極的に人を誘う機会を増やそうと思った。
函館空港1階にある観光案内所『がっつり道南』のウォールインタビューで、大沼で歯科医院や宿泊施設、飲食店を展開している鍋谷夫妻に取材。落ちたと思っていた函館歴史文化観光検定(はこだて検定)、ギリギリで合格していた!めちゃくちゃ嬉しい。これからも函館の歴史・文化を学びながら、観光のアテンドもガシガシやっていきたいと思う。誕生日には函館旧市街に誕生した『佐藤理容INN』に宿泊させてもらった。
【おわりに】
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ザザーっと振り返ってみて、今年もたくさんの人にお世話になったことを実感した。
この振り返りは、自分が書く文章のなかで数少ない自分のための文章だなと改めて思った。
家を買ったことで、これから住居のために支払っていく金額を見通すことができて気が楽になった。
Uターンから4年経ち、物理的にも精神的にも生活が安定してきたように思う。
それはとても心地のいい状態ではあるのだが、同時に、安定に浸かってしまう危機感もある。
時代はますます加速し、現状維持で守っていけるものは少なくなる一方だろう。
生活の基盤が安定してからこそ、来年は思い切ったことをやっていきたい。