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旧司法試験 刑法 平成19年度 第1問


問題

甲、乙及び丙は、事故死を装ってXを殺害しようと考え、丙がXを人けのない港に呼び出し、3名でXに薬剤をかがせて昏睡させ、昏睡したXを海中に投棄して殺害することを話し合って決めた。そこで、丙は、Xに電話をかけ、港に来るよう告げたところ、Xはこれを了承した。その後、丙は、このまま計画に関与し続けることが怖くなったので、甲に対し、電話で「待ち合わせ場所には行きません。」と言ったところ、甲は、「何を言っているんだ。すぐこい。」と答えた。しかし、丙が待ち合わせ場所である港に現れなかったので、甲及び乙は、もう丙はこないものと思い、待ち合わせ場所に現れたXに薬剤をかがせ昏睡させた。乙は、動かなくなったXを見て、かわいそうになり、甲にX殺害を思いとどまるよう懇請した。これを聞いて激怒した甲は、乙を殴ったところ、乙は転倒し、頭を打って気絶した。その後、甲は、Xをでき死させようと岸壁から海中に投棄した。なお、後日判明したところによれば、Xは、乙が懇請した時には、薬剤の作用により既に死亡していた。
甲、乙及び丙の罪責を論ぜよ(ただし、特別法違反の点は除く。)。

関連条文

刑法
38条(第1編 総則 第7章 犯罪の不成立及び刑の減免):故意
43条(第1編 総則 第8章 未遂罪):未遂減免(中止犯)
60条(第1編 総則 第11章 共犯):共同正犯
199条(第2編 罪 第26章 殺人の罪):殺人
204条(第2編 罪 第27章 傷害の罪):傷害
205条(第2編 罪 第27章 傷害の罪):傷害致死

問題文の着眼点

丙がXに電話をかけたこと、薬剤の作用によりXは投棄以前に死んでいたこと

一言で何の問題か

2つの行為がある場合の実行の着手時期、相当因果関係、共犯からの離脱と因果性

答案の筋

Xに薬剤をかがせた(第1⾏為)後、海中に投棄して殺害する(第2⾏為)という計画であったところ、第一行為と第二行為が密接であり、第一行為の開始時点で結果発生の現実的危険性が認められる場合には、両者は一体として、第一行為の時点で実行の着手が認められるので甲には殺人罪が成立する。ここで、⼄が懇請した時点で、既に上記殺人という既遂結果が生じているため、中止や離脱が問題となる余地は無く、⼄には殺⼈罪が成⽴し、甲との間では共同正犯の関係に⽴つ。さらに、丙の呼び出しによりXが港に現れて甲らの犯⾏によってX殺害という結果が生じており、両者の間に物理的な因果性がある以上、離脱は認められないため、丙にも殺⼈罪が成⽴し、甲⼄丙は共同正犯の関係に⽴つ。

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