旧司法試験 商法 平成20年度 第1問
問 題
X株式会社は、公開会社でない取締役会設置会社であり、その保有する建物及び⽤地(以下「本件不動産」という)において「リストランテL」の名称でレストランを営んでいる。X社の貸借対照表の資産の部に計上されている⾦額は、そのほとんどすべてが本件不動産の帳簿価格で占められている。なお、X社の代表取締役はAであり、また、X社においては特別取締役制度は採⽤されていない。
これらを前提として、次のそれぞれの場合について、問いに答えよ。
1 Aは、Y株式会社に対し、本件不動産を5000万円で譲渡し、その所有権移転登記⼿続を了した。Y社は、取得した本件不動産の建物を改装して、電化製品の販売 店を営むことを予定している。Aは、この取引に先⽴ち、X社の取締役会の承認も 株主総会の承認も得ていない。その後、Aに替わってX社の代表取締役に就任した BはY社に対して本件不動産の所有権移転、登記の抹消を求めることができるか。
2 Aは、Y社に対し、本件不動産を厨房設備とともに7000万円で譲渡した。Aは、 この取引に先⽴ち、X社の株主総会の承認を得ている。Y社は、「リストランテ L」の名称を引き続き利⽤し、X社が⾏っていた従来のレストラン事業を営んでい る。この取引の結果、X社は事実上すべての活動を停⽌したが、Aが売却代⾦ 7000万円を持ち逃げして⾏⽅不明となってしまったため、X社にはみるべき資産 がなくなった。X社に対してレストランの運転資⾦を融資していたCは、Y社に対 してその返済を求めることができるか。
関連条文
会社法
21条(第1編 総則 第4章 事業の譲渡をした場合の競業の禁止等):
譲渡会社の競業の禁止
22条1項(第1編 総則 第4章 事業の譲渡をした場合の競業の禁止等):
譲渡会社の商号を使用した譲受会社の責任等
309条2項11号(第2編 株式会社 第4章 機関 第1節 株主総会及び種類株主総会等):株主総会の決議
349条4項(第2編 株式会社 第4章 機関 第4節 取締役):株式会社の代表
362条4項1号(第2編 株式会社 第4章 機関 第5節 取締役会):
取締役会の権限等
467条1項2号(第2編 株式会社 第7章 事業の譲渡等):事業譲渡等の承認等
民法
93条(第1編 総則 第5章 法律行為 第2節 意思表示):心裡留保
107条(第1編 総則 第5章 法律行為 第2節 意思表示):代理権の濫用
109条1項(第1編 総則 第5章 法律行為 第2節 意思表示):
代理権授与の表示による表見代理等
一言で何の問題か
事業譲渡にまつわる株主総会、取締役会の要否、請求対象とその可否
つまづき、見落としポイント
そもそも事業譲渡にあたるか
答案の筋
1 事業譲渡にあたらないため、株主総会(特別決議)は不要である。一方、重要な財産の処分にあたり、取締役会決議が必要となる。しかし、これを経ていないため、代表権の濫用として当該事実につき相手方であるY社が悪意又は有過失である場合は無権代理行為となり、所有権移転登記、登記の抹消を求めることができる。
2 名称の続⽤がある場合においても、自己の債務が引き継がれたと考える債権者の信頼を保護する必要がある。このため、名称は商号ではなく22条1項を直接適用できないが、類推適用できるため、「リストランテL」という名称がX社の事業主体を表示するものとして⽤いられている場合には、CはY社に対して融資資⾦の返済を求めることができる。
ここから先は
¥ 500
この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?