司法試験予備試験 刑訴法 平成26年
問 題
次の【事例】を読んで、後記〔設問〕に答えなさい。
【事例】
司法警察員Kらは、A建設株式会社(以下「A社」という。)代表取締役社長である甲が、L県発注の公共工事をA社において落札するため、L県知事乙を接待しているとの情報を得て、甲及び乙に対する内偵捜査を進めるうち、平成25年12月24日、A社名義の預金口座から800万円が引き出されたものの、A社においてそれを取引に用いた形跡がない上、同月25
日、乙が、新車を購入し、その代金約800万円をその日のうちに現金で支払ったことが判明した。
Kらは、甲が乙に対し、800万円の現金を賄賂として供与したとの疑いを持ち、甲を警察署まで任意同行し、Kは、取調室において、甲に対し、供述拒否権を告知した上で、A社名義の預金口座から引き出された800万円の使途につき質問したところ、甲は「何も言いたくない。」と答えた。
そこで、Kは、甲に対し、「本当のことを話してほしい。この部屋には君と私しかいない。ここで君が話した内容は、供述調書にはしないし、他の警察官や検察官には教えない。ここだけの話として私の胸にしまっておく。」と申し向けたところ、甲はしばらく黙っていたものの、やがて「分かりました。それなら本当のことを話します。あの800万円は乙知事に差し上げました。」と話し始めた。Kが、甲に気付かれないように、所持していたICレコーダーを用いて録音を開始し、そのまま取調べを継続すると、甲は、「乙知事は、以前から、高級車を欲しがっており、その価格が約800万円だと言っていた。そこで、私は、平成25年12月24日にA社の預金口座から800万円を引き出し、その日、乙知事に対し、車両購入代としてその800万円を差し上げ、その際、乙知事に、『来月入札のあるL県庁庁舎の耐震工事をA社が落札できるよう便宜を図っていただきたい。この800万円はそのお礼です。』とお願いした。乙知事は『私に任せておきなさい。』と言ってくれた。」と供述した。Kは、甲に対し、前記供述を録音したことを告げずに取調べを終えた。
その後、甲は贈賄罪、乙は収賄罪の各被疑事実によりそれぞれ逮捕、勾留され、各罪によりそれぞれ起訴された。第1回公判期日の冒頭手続において、甲は「何も言いたくない。」と陳述し、乙は「甲から800万円を受け取ったことに間違いないが、それは私が甲から借りたものである。」と陳述し、以後、両被告事件の弁論は分離された。
〔設問〕
甲の公判において、「甲が乙に対し賄賂として現金800万円を供与したこと」を立証趣旨として、前記ICレコーダーを証拠とすることができるか。その証拠能力につき、問題となり得る点を挙げつつ論じなさい。
関連条文
刑訴法
317条(第2編 第1審/第3章 公判/第4節 証拠):証拠裁判主義
319条(同前):自白の証拠能力・証明力
320条(同前):伝聞証拠と証拠能力の制限
322条(同前):被告人の供述書・供述録取書の証拠能力
刑訴規則
189条1項(第2編 第1審/第3章 公判/第1節 公判準備及び公判手続):
証拠調の請求の方式・法289条
刑法
197条(第2編 罪/第25章 汚職の罪):収賄、受託収賄及び事前収賄
198条(同前):贈賄
憲法
31条(国民の権利及び義務):法定の手続の保障
38条(同前):自己に不利益な供述、自白の証拠能力
一言で何の問題か
誘引した自白(ICレコーダーによる秘密録音)の証拠能力
つまづき、見落としポイント
要証事実(必ずしも立証趣旨と一致しない)と乙知事「任せておきなさい」の位置付け、違法収集証拠排除法則
答案の筋
自白を誘因しているが偽計自白には至っていない。秘密録音についても強制の処分に当たらず、任意捜査として許容される。録音したICレコーダーについて、甲の供述は伝聞例外として、乙の供述は伝聞証拠にさえ当たらず、どちらも証拠能力が認められる。
引き出し方の違法性〇 ➡ 秘密録音の違法性〇 ➡ 各供述内容の証拠能力〇
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