旧司法試験 商法 平成16年度 第1問
問題
公開会社であるP株式会社の代表取締役Aは、第三者割当ての方法で、取引先Q株式会社に対し、払込金額50円で大量に募集株式を発行した。P社株式株価は、過去1年間1000円前後で推移していたが、この募集株式の発行により、大幅に下落するにいたった。ところで、この募集株式の発行は、取締役会の決議を経て、株主に対する公示が行われていたが、株主総会の決議を経ないままされたものであった。P社の株主Bは、会社法上どのような手段をとることができるか。募集事項の公示がされていなかった場合はどうか。
関連条文
会社法
199条3/2項(第2編 株式会社 第2章 株式 第8節 募集株式の発行等):
募集事項の決定
201条1/3/4項(第2編 株式会社 第2章 株式 第8節 募集株式の発行等):
公開会社における募集事項の決定の特則
210条(第2編 株式会社 第2章 株式 第8節 募集株式の発行等):
募集株式の発行等をやめることの請求
309条2項(第2編 株式会社 第4章 機関 第1節 株主総会及び種類株主総会等):
株主総会の決議(特別決議)
355条(第2編 株式会社 第4章 機関 第4節 取締役):忠実義務
423条1項(第2編 株式会社 第4章 機関 第11節 役員等の損害賠償責任 ):
役員等の株式会社に対する損害賠償責任
429条1項(第2編 株式会社 第4章 機関 第11節 役員等の損害賠償責任 ):
役員等の第三者に対する損害賠償責任
828条1項(第7編 雑則 第2章 訴訟 第1節 会社の組織に関する訴え):
会社の組織に関する行為の無効の訴え
847条(第7編 雑則 第2章 訴訟 第1節 会社の組織に関する訴え):
株主による責任追及等の訴え
一言で何の問題か
1 募集株式発行無効の訴え、有利発行の法令違反程度、株主代表訴訟の種類
2 募集株式発行の差止請求(差止原因と無効原因)
つまづき、見落としポイント
答案の筋
1 募集株式発行無効の訴えの無効事由は、重大な法令・定款違反の場合に限られるというべきである。有利発行において株主総会の特別決議を経ていないことは、無効事由に該当するとも思えるも、株主には事前に差止めの機会が与えられており保護の必要性は低く、代表訴訟により取締役に責任追及する途も存在することから、重要な法令違反にはあたらず、無効原因を構成しないというべきで、訴えは認められない。また、株主代表訴訟により、Aに対する損害賠償請求、責任追及ができる(後者はA-Qに通謀がある場合)。
2 有利発行であるにもかかわらず、株主総会決議を経ておらず、法令に違反するという差止原因が存在し、また、募集事項の公示がなされておらず既存株主の保護が図れなくなるという無効原因も構成するため、Bによる募集株式発行無効の訴えは認められる。
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