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だんじり「目から鱗」

泉州に生まれ育った人間としては「地車(だんじり)」は、有って当然の物であり、祭り=だんじりです。多分頷く人も居ると思います。
同じ祭りといっても、京都の祇園祭を見ても「何をチンタラやっとんねん」と思ったり。東京の三社祭などのお神輿の映像を見ても「あんなん重たいだけやん。同じ場所でギュウギュウやってオモロいか?」とか。。。ましてや「○○祭り」と言いながら神事だけだったり境内での飾り事だけだと「祭りちゃうやん」とか暴論を吐きがち(苦笑)。似たような豪快さがある博多祇園山笠でさえ「曳き綱無いから子供ら可哀想やん」とかね。
兎に角、祭り=地車なのです。
血なのです。

ただ、ひと言「だんじり」と言っても千差万別。同じ泉州でも、所謂「岸和田型」が多いとはいえ、泉大津は「かちあい」が有ったり、鳳は形も鳴物も昔は違ったり、河内方面に行けば地車を揺らしたり。そういう事は「だんじりキチ●イ」諸氏も知識としては理解しています。尊重しています。が、結局は「我がの祭りがイチバン!」と、心の中で思っているのです(笑)。しゃーないんです。
血なのです。

そういう訳なので、他所の祭りについては特段考える事はまず有りません。いや、祭りのノリとか地車(ハードとしての)の形とかをYouTubeで見たりはしますし、同じ岸和田型のエリートとしての、所謂「旧市」のトレンドをチェックするのもマメです。
しかし「そもそも地車とは」と学術的に考える人は、相当少ないと思います。
勿論、研究対象として捉え、歴史や変遷、分類などを掘り下げる人はいらっしゃいます。でも、大抵は、さっき触れた「ハード」の方。造形としての地車や彫り物を対象にするのが殆どです。

ハード、ソフト両面から、それも、泉州はもとより、大阪どころか日本全体を視野に入れて論じた凄い本が出版されました。

著者の森田さんは、お会いした事は無いですが、かつてより「だんじり」というものを細かく研究されています。

「岸和田祭音風景」の方は
CD3枚(!)とブックレットというには詳しすぎる「解説書」がボックスに入ったセット。岸和田の地車囃子=鳴り物を詳しく解説しています。いや、近年乱れてきた鳴物文化を憂いて「本来あるべき」鳴物への愛が響く作品です。

もう一方の「地車名所独案内」は森田さんの著書では有りませんが、岸和田「旧市」地区に特化した、今までになく詳しいガイドブックで、森田さんが解説部分の文章を担当されています。

その掘り下げの細かさ、ソースの掘り出しの幅広さ、大量のデータ、推察の的確さは脱帽モノです。

で、今回の著書「日本だんじり文化論」
「日本」と付けられたので、第一印象は「ついに来たか!」でした。

泉州の人間としては「他所には無い独特の祭り」として捉えていた「だんじり」を、全国的視野から研究した点で、先ず前代未聞です。
今まで目にした歴史的研究は専ら「岸和田」視点でしたから。要は「岡部の殿様が〜」から始まるアレです。泉大津から購入した北町の地車が今の地車の始まり…というところからしか知りませんでした。

個人的には気になっていた部分を存分に論じてくれた初めての研究書でした。

子供の頃から「日本の祭り」的な本が好きでした。地車と似てる唐津くんちの山車、静の祭りの代表格である京都・祇園祭の山鉾、荒々しさで共通する博多祇園山笠、豪華絢爛な秩父夜祭の山車。一方で、東京(江戸)スタイルの神輿文化が有り、近畿でも姫路・灘のけんかまつりや、地元・貝塚や堺・百舌鳥八幡の太鼓台。何故、こんなに多彩なのか?と思っていました。
そして、大阪を離れ14年過ごした新潟県にも、新発田の台輪、村上の「おしゃぎり」という山車の祭りが有ります。

現代、自分たちが楽しむ「地車」と、これらの「他所」の祭りはどう違うのか?ルーツはどうなのか?
気にはしていても、検索しても、今まで出て来ませんでした。
それが本書では事細かに紹介され、解説され、恐らく間違いないという推察が繰り広げられている訳です。

第一章は「地車の誕生」。
第二章は「地車の隆盛」。
第三章は「地車の展開」。
そして終章は「神賑の民俗学」。

大きく4ブロックで構成されています。
面白い事に、第一章から第三章の掛かりまで、その大半で触れられているのは、所謂「大阪天神祭」=大阪市内中心部の地車についてです。

毎年天神祭に訪れる人なら意外だと思います。
だって、天神祭で地車といえば、大阪天満宮境内に据えられ、地車囃子と龍踊りが披露される「あの」1台しか目にしませんからね。
しかし江戸時代、最盛期の天神祭には、最多で71台の地車が宮入りしたという事が本書でも紹介されています。

しかも。。。そのルーツは「船」だというのです!目から鱗にも程がある!
誰が、あの高速で「やり回し」をして駆け抜ける岸和田の地車から「船」を連想しますか?(笑)
しかし、一読すれば納得。
神輿文化、山鉾文化と全く違う「だんじり」文化の西日本全域を巻き込んだ展開が紹介されています。

大多数の「岸和田の地車」しか知らない人たちには物足りなさが有るかも知れません。そこに触れているのは僅かな頁ですから。しかし本書は、だんじり文化全体を総合して研究したものなので、その大きな流れの中で生まれた「岸和田の地車」の姿にも納得出来るのではないでしょうか?
其れは「自分の血」=ソウル、DNAに触れる壮大な旅物語だからです。
そして、自分のように「昔の祭りは良かったよなぁ」と思う古い昭和の人間にも、常に変わり続ける「だんじり祭り」の姿、今の祭りの姿が有るのは、江戸時代から続く「オモロい」事が好きな大阪人の魂でも有る事を確証すると思います。

取り敢えず数頁読むと、大学時代に無理矢理教授に買わされて講義のたびにウンザリした教科書のようなテイストを思い出すと思います。しかしそこは「大好きな」だんじり=祭りがテーマですから、ワクワクしながら読み進められると思います。おっちゃんには、活字の小ささが難儀しましたが(苦笑)、其れも知的好奇心が勝って、一気に読み進められました。

季節も間もなく7月。天神祭です。
夏祭りから秋祭り、今年は無事行われるか?分かりませんが、この本で祭り気分を高めて下さい。

だんじりに全く無縁の地方の方も、この本が、我が町のお祭りへの興味の発端になるかも知れませんよ。

先ずは上のリンクから森田さんのnoteに飛んで、本書の「まえがき」をお読み下さい。そそられますから。

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