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「健康で文化的な最低限度のココア」で締めくくる当店の1日@中東ヨルダンでの生活

中東ヨルダンにある素敵な本屋に一目惚れし、「ここで働かせてください!」と飛び込んで暮らしていたときの話。(詳しくはこちら

「日常」と書いて「ひにちじょう」と読む。当店はそういうタイプの本屋なのである。今日は「いつもの何でもない1日」を時系列に振り返ってみよう。

●[朝] 打倒!ジブリミュージック

「ジブリに出てきそうな本屋感」を後押しする、ジブリBGM

実はヨルダン滞在中、極めて症例の少ない疾患にかかってしまった。深刻な顔でヨルダン人の医師に、ジブリノイローゼだと診断された。なにせうちの店長はジブリの大ファンで、本屋の中は常にジブリの音楽がかかっている。本当に「常に」だ。

「なんなのだ!遥々日本を飛び出したのに、なんでまた日本を感じねばならんのだ」。そんな私の一身上の都合により、こっそり(?)店内BGMを、チルな洋楽ポップスに変えてみた。

よしよし、なかなかセンスのいい落ち着いた曲をセレクトしたつもりだ。スタッフたちはいつもと違う音楽に「おおお」とテンションがアゲアゲになり、掃除をしながら一緒に歌った。

いつもと違うBGMで、窓拭きもノリノリに

私は高校生の時から、趣味のひとつに「洋楽縛り一人カラオケ」があるほど洋楽を歌うのが好きだ。ヨルダンという異国の地でも、みんなと「お馴染みの曲」を歌えて本当に楽しかった。

しかし、少し遅れて店長が登場。いつもと違うBGMに気づき、「なんだこの腐ったミュージックはああああああ!?」と、またジブリに戻していた。私は少ししょんぼりした。それくらい徹底的に、店内はジブリだ。

しかし同時に、思わぬ副産物もあった。「ジブリ音楽漬け」によって私は「千と千尋の神隠し」の曲を耳コピすることに成功し、ギターで弾けるようになったのだ。

この帽子はヨルダンで買った。かわいい

本屋にお客さんが来るまでの朝、本屋でコソコソ毎日練習していたらいつの間にかスラスラ弾けるように。他のスタッフに披露すると、もうすごくびっくりしてくれて「あなた、ギターもできるの!?本当になんでもできるのね」と口々に言ってくれた。

しかし、はて、、。?「ギター"も"」「なんでも」と言ってくれたが、私って他にできることあったっけ。みんなの方が色々できてすごいと思うけれど・・。

●[昼過ぎ] ランチはフライドポテト

中東では「食」が日々の楽しみだった

さて、当店のまかないは「誰かが作りたくなったら作る」システムだが、今日は誰も「作るよ」と名乗り出なかった。そのまま14時ごろになるとお腹が空いてきて、店長に聞いてみた。「ねえ、この店ではいつも、ランチって何時ぐらいなの?」

すると店長は「?」という顔をした後、少し考え込んでこう言った。「昼ごはんの時間?そんなもの考えたこともない。食べたくなったら食べる。違うのか?」

そ、そうか!たしかに。そうだよね!

だから昨日の"ランチ"は17時だったんだね!

昨日は「あれ?なかなか昼ごはんにならないな…もう、今日はランチ無いのかもな」と思っていたら突然「ランチ」が出てきたのだ。しかしそこで「こんな暗くなってから!?」と思わず時計を確認したのは私だけだったかもしれない。

その後すぐ18時にディナーが始まった時もたまげたけど、別にルールなんてないもんね♪

そうは言っても、今日は段々お腹の空いてきたスタッフたち。一人が「じゃあ今日の昼はフライドポテトでいい?」と言うと、買ってくるね〜とどこかに行ってしまった。はて、昼ごはんがフライドポテトとはどういうことだろうか。

普段のご飯はこんな感じ。ビューティフル

ポテトの買い出しチームが帰ってくると、大きなレジ袋2つ分、パンパンに詰められたフライドポテトが。なぜこんなことになっているのかは分からないが、あの袋でドッヂボールをしたら絶対に痛いことだけは分かる。

まさかとは思ったが、今日の昼ごはんは本当に「フライドポテトオンリー」だった。

「な、なんてことだ。おいみんな、それでいいのか!?」という顔であたりを見渡すが「同じ顔」をしている者はおらず、みんな呑気に「今日はポテトDAYだね」とムシャムシャと食べ始めた。

誰も疑問を持っていない・・だと?日本人ほど「食」にこだわる民族はいないとよく耳にするが、本当のようだ。いつもは豪華なアラブ料理やパスタを食べるているのに、この落差を落差だと感じぬみんなの「動じなさ」にあまりに衝撃を受けた。

まあ1日ぐらいポテトDAYがあってもいいかな…とポテトを2本いただいたが、「やっぱり"ポテトだけ"はちょっと…」とキッチンにダッシュし、適当にトマトやオレンジを切ったりしてどうにか「ポテトだけ」を避けるムーブをかました。

文句を言うなら最初から「今日のまかない担当」に名乗り出ればいいのだが、その選択肢は私には無い。なんてったって、私は傲慢な女の子だからである。

むしろ「ゼロからイチを生み出すより、イチを10にする方がお得意なんですね」と、ベンチャー企業の社長のようにカッコよく捉えていただければ幸いである。

●[夕方] 部屋に何か落ちている

本屋の真横にある「住み込みハウス」。本屋の屋上から撮影

この本屋の隣には、スタッフが寝る用の「家」がある。本当に寝る時にしか使わない建物なのだが、この家には思い出がいっぱいだ。

例えば「破片事件」。この家にはロビーがあったのだが、時々ロビーの中央に、「白い破片」が突如出現する「ホラー現象」が起きるのだ。

いつも突然現れる白い破片

見つけるたびにホウキで掃くのだが、数日経つとまた出現する。「何だこれ?皿?誰が持ってきたんだ…」「なんで割れてるのかしら」とみんなで気味悪がっていた。

しかしとうとう、その原因が発覚した。なんとこの破片は「何者かが持ち込んで割れた皿」ではなく、ポロポロと崩れた「天井そのもの」だったのだ!

ボロリ、ボロリ…

な〜んだ。ただ、家が崩壊していただけか☆

家が壊れていくのも大問題だが、とりあえず「何者かが皿を持ち込んで割っている」というホラー現象を回避できた私たちは安堵安堵。

大丈夫か大丈夫じゃないかはさておき、今日のところは「一件落着」ということにした。

●[夜]健康で文化的な最低限度のココア

寒い店でも、みんなで集まれば温かい

この店で過ごすスタッフは「家族」として、日々の食事を無償でいただける。一方でスナック菓子などは自分のお金で買うことになっている。その判断は「生活に必要かどうか」と店長に言われていた。

私たちスタッフは普段、この寒い寒い店でご飯を食べた後、みんなで温かいココアを淹れてホッとしながら話すことが多かった。

ふとした時にココアの粉がもうすぐ無くなりそうだと気づいた私は、店長に「ココアを買ってほしい」と頼んだ。すると「ええ?ココアは食費ではないだろ、自分で買いな」と言われてしまった。

それを聞いた私は、ココアに対する「出費」をしなければならないことではなく、「ココアは我々の必需品ではない」と見なされたことがとても悲しかった。毎晩のあの「家族団らん」は、なんだったんだろうか。

その日の夜、バイトリーダーのフランス人・アリスにぼやいた。「店長に、ココアは必需品じゃないって言われちゃったわ。明日買ってくるね」

するとアリスは目を丸くし、ムッとしたような呆れ顔で「ハ!?あの人何言ってんの!?ココアはどう考えても必須でしょ。フウ、買わなくていいよ、食費だよココアは」と言ってくれた。

なんだかその言葉に、私たちの今までの「ココアナイト」がふっと救われた気がした。そうして「だよね、食費にしちゃうわ」「そうよ。どう考えても生活必需品でしょ。店長ったら何言ってるのよ」

そう話しながら2人でお皿を洗い終わると、店に残った最後のココアを一緒に温め始めたのだった。


店での日常編・fin

●次の話:本屋の定休日はどう過ごすの?

●関連する日「まかない」「アリス」

●本屋の仕事一覧
本を仕分ける業務
憧れの大工の業務
怒涛のキッチン業務
クッキーを作る業務
看板を描く業務
退勤後、夜の過ごし方

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