
砂漠まで「綺麗な星空」を見に行ったら、「もっと美しいもの」を見つけてしまった
あらすじ:中東ヨルダンの本屋に住んでいる私とラウラは、「綺麗な星空を見てみたい!」ということで、本屋の休みにヒッチハイクをして、砂漠にたどり着いた。
●地球のストレージ容量を思い知る

私たちは砂漠に着くとすぐに、砂の上に毛布を広げて寝転んだ。「星ってほんとにキラキラしてるんだ」「また流れ星だ…」と、美しい星空を堪能したのだが、だんだん体も冷えてきて、窓も無い小さな宿に戻ることにした。
砂漠の宿に帰ると、名残惜しくも扉を閉めた。つまり、星空が一旦見えなくなったのだ。
そして眠りにつくと、しばらくして朝に。数時間ぶりに宿の扉を開けると…、もう、私はあまりに驚いた。何ということだろう?
私は本気で、本当に、本当〜にびっくりしてしまったのだ。


星空が…、、! 無い!?!?!?(目ゴシゴシ)
そう、昨日まで、宿のこの "扉" は、紛れもなく「星空と室内をつなげる扉」だった。なのに今は、「開けたら青空」になっている。なんだか「扉を開けたら違う世界!」という大掛かりなドッキリに合っている気分だ。
「えええ!?さっきまであった星空、どこいった!?!?」
あんな巨大で、視界というか地球を包み込んでいたものが、一体どこに行ってしまったのか。
というかこの世にはまだ、あの星空を収納できるスペースがあったのか。
これには流石に、あの断捨離のプロ・こんまり氏もびっくりである。こんまりさんに伝えなくては…どなたか彼女のLINEをご存知でないですか?
とにかく私は星空の喪失に理解が追いつかず、「星空はどこいった??」とずっと混乱していた。まったく地球の自転など、知ったことではない。
●砂漠をエンジョイ

「星空喪失事件」がオンゴーイングで起きているこの空にまだ慣れぬうちに、私とラウラは宿の管理人に「砂漠を案内してくれる人はいないかしら?」と相談した。
すると「車でぐるっと回ってくれる案内おじさん」を連れてきてくれて、彼に砂漠ツアーをお願いすることに。
案内おじさんに「後部座席と荷台、どっちに乗りたい?」と聞かれて迷わず「荷台!!」と答えた私たちは、普通のものよりも高さのある車によじ登った。荷台の上には向かい合う形の簡易ベンチが備え付けられていて、腰掛けると車が進み始めた。
「ああああああああああ」

シャッターを押したものの、本当に撮れているのかよく分からなかった
ほんとうにもう、なんじゃこりゃ!走っても走っても見渡す限り砂と空だけで、景色が変わらない。風が気持ちいい。空がでかすぎる。何もない。これが、開放的ってやつなのか。
後日談だがこの翌日、私の左腕は筋肉痛になっていた。この砂漠を上下に揺れながら爆走する車に乗せられて、シートベルトなどあるはずもない座席で、無意識に必死に車にしがみついていたからだろう。
そんな、ガッタガタ揺れるこの車で、私とラウラはいろんなところを案内してもらった。


●見つけてしまった、星空より「もっと美しい」もの
ところで今回の滞在はもちろん快適だったり感動だったりといい部分だけでなく、私たちはたくさんの「苦労」をした。
というのも、宿の皆さんがあまり英語を話せず、「それは何時からですか?」「あれも頂けますか?」など質問をしても「その通〜り!全然大丈夫だぞ!」といった、全然大丈夫ではない答えが返ってきてしまうのだ。
私たちは砂漠で過ごしている時、もちろん楽しいっちゃ楽しいんだけれど、「肝心なことが全然伝わらない。これはどうしたものか…」と頭を抱えていた。

砂漠を満喫した私たちは、「そろそろ街に帰るので、砂漠から出る手配をお願いできますか」と伝えると、「全然大丈夫だからね〜。砂漠へようこそ!」と、相変わらず砂漠的な返事が返ってくる。一体どうしたらいいんだ…。この状況で私たち、どうやって砂漠から出るのだろうか。
私のストレスはこの時点でかなり大きくなっており、「なんだかな〜、こういう外国人向けの商売をするんだったら…せめてもう少し英語を話せてくれたら助かるんだけどなあ..」と、悶々とし始めてしまった。
そんな私をよそに、心優しいラウラは「私たち〜!今〜!帰る〜!プリ〜〜ズ!」と優しく語りかけている。なお、それでも全然伝わっていない。一体彼らは、今までどうやってこの事業で生計を立ててきたのかと疑問で仕方なかった。
私はポツリと「英語…あんまり伝わらないね」と漏らした。これは限りなく、疲弊した人間の愚痴に近かった。なので「ね、困っちゃうね(笑)」と返してくれたら私はそれでよかった。しかし、ラウラが口にしたのは全く想像と異なる返事だった。
「うん、伝わらないね..。こんなに素敵な環境が揃っているのに、言葉のせいでこれだけ不便だと、ちょっと勿体無いよね。せめて私が、本屋の次にはここに住み込みして、何か言語の援助ができたらいいよなあ、なんて….」
・・・・・
???????
はあ???あ、あなた今、なんて…?
なんということだろう。「あー、なんか、不便だな〜〜」と、自分の便宜のみを考えていた私の隣で、彼女は「もったいないなあ、私に何か手伝えないかな」という、全くの逆の視点を持って過ごしていたとは。
ずっと彼女の真横にいながら、その考えは自分には微塵もなかった…
もう、私は言葉を失った。絶句した(杜甫)。

というか、よく考えればここはヨルダンなんだから、アラビア語を話せない自分に原因があるのであって、「ちょっと英語がなあ」などあたかも "評価" の視点をもつのは、あまりにおこがましい。誠に遺憾とはこのことである。
私はラウラの発言、視点、いや、その視座とでも言うべきなのか、その心に触れて、あまりに愕然した。絶句した。空いた口が、塞がらない。
同じ状況にありながら、考えることがこうも、こうも異なるなんて…。
一体あなたは、なんというなんという、美しい心の持ち主なのか。

そのようにして私は砂漠にて、昨晩あまりに感動したきらめく星空よりも、もっともっと綺麗で美しいものを、自分の真横に見つけてしまったのであった。
後日談はこちら↓
「ヨルダンの本屋に住んでみた」の女子旅シリーズ一覧。どこからでも読めます。
1・旅行の準備
2・遺跡 (探検編)
3・ヒッチハイク (苦戦編)
4・ヒッチハイク (成功編)
5・砂漠 (星空編)
6・砂漠 (青空編)←今ここ
7・帰宅と後日談
●「ヨルダンの本屋に住んでみた」他の話
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