うちの本屋に来た困った客、たくましすぎるチェコ人との戦い
●やけに滑舌のいい客の来店
この本屋には、地元の人だけでなく観光客もよく来た。
・大きいリュックを背負った一人旅の人
・店に入った瞬間「うわあ〜!素敵!」と息を飲んでくれるカップルたち
・コンダクターに案内されて「なんじゃこの店は」とゾロゾロ入ってくるお年寄りの団体ツアー客
が特に多い。
ある日、ニカっとした笑顔が印象的な、26歳ぐらいのチェコ人が来店した。
そして驚く。な、なんて滑舌がいいんだ。。?
彼の口周辺は時空が歪み、倍速で音声が流れているのである。なんて喋るのが速すぎるんだ。
チェコの国技が「早口」なら彼は英雄である。
●試される「聞く側」の姿勢
「あーそれでね、そう、聞いてよ!前の町で出会ったヤツがさ!?」と、彼の滑舌はもう止まらない。
その時私は、同僚のラウラちゃんと一緒にいたのだが、ラウラは「へえ〜そうなの!」「それでそれで?」と、楽しそうにあいづちを打っている。
私はもう、、耐えられない!
ということで、「アハ、アハハ」などと返事をしながらそっと部屋に戻った。
ラウラ、あとはたのんだぞ。ーーー、、
1時間後、戻ってきたラウラが私達の部屋のドアをバン!と開けて、こう言った。
「フウ!?あなた、逃げたわね!?」
い、いえ。逃げたというより、託したと言いますか…。
ん…?まてよ…「にげた」??笑
あんなにニコニコ話してたのに、ラウラも早く切り上げたかったんかい!(笑)
ラウラは本当に、みんなを笑顔にするおしゃべりが上手だなあ。。
●またのご来店ありがとうございます
だいたい観光客は、一回来店したら二度と来店することはない。でもこのチェコ青年は長期でヨルダンを旅していたようで、何度か来店をした。
最近来ないなと思っていると、「砂漠行ってきたよ〜!☆」という報告をしに、また店まで来てくれた。
キッチンまでジリジリと逃げたところ、喋りながら一緒に入ってきた。
最後の切り札として「ごめん、キッチンは一応、スタッフオンリーのエリアなんだよね」と言ってみたが「あっごめんごめん!そんでさ、」と全く効果なし。
そりゃそうか。砂漠に1人で行って無事に帰ってこれる強固なメンタルの持ち主に、「立ち入り禁止」という可愛い概念など歯が立つはずもない。
当店のルールは砂漠に落ちる一滴の水のごとく瞬時に蒸発し、完全に消え去った。
●優しいラウラが怒った訳
別の日、彼がまた来たらしい(ご来店ありがとうございます)。
その時私は居合わせなかったけど、ラウラが一日中怒っていた。
聞くと、「あのチェコガイ、『ヨルダンは物価が安いから、僕みたいな物価の高い国の人間は、余裕で旅ができる(笑)』って言い出したの!
確かにそれは本当かもしれないわ、でも、ヨルダン人もいる場でヘラヘラ話すなんて、私ほんっとに信じられない!!!なんて男なの!?」とのことだった。
ラウラはヨルダン人ではないどころか、きっと”物価の高い国で生きてる側”となるイタリア人だけど、本当に怒っていた。心の優しい子である。
私は、怒れるというよりただただ、呆れた。「彼はデリカシーの欠如を、滑舌で補うタイプか。。」
●伝説の「英語事件」
この本屋には、女子だけでなく男子の外国人スタッフもいて(私もラウラも外国人だが)、チェコの彼と一緒に喋っていた。
すると、チェコの青年はその男子スタッフに、こう言ったのだ。
「待って!?君、英語ひどすぎ!?もっと勉強したほうがいいよ(笑)!?一体…どこから来たの?ww」
私とラウラは、凍りついた。
●本屋スタッフのターン
その男子スタッフは、大変失礼な滑舌に打ちのめされることなく「フッ 」と笑ったあと、こう応戦した。
「んー。僕はその考えに”賛成”できないかな。
ちなみに、イギリス人だよ」
●ウオオオオオオ(盛り上がるスタッフの心)
そう、イギリス人、つまり英語ネイティブの彼は、もはやこの町で一番英語がペラペラな男である。しかも、なんだ?「賛成できないかな」とは?この皮肉っぽさは?
たしかにこのスタッフの英語はイギリス訛り?がかなり強く、実際のところ、私も何を言ってるのか聞き取れないことがよくあった。(ブリティッシュアクセントというらしい)
しかしチェコガイよ、その言い方はないでしょ!人には人の発音。リスペクトが足りないぞ!!!
チェコ青年は「!?!?」と驚愕。「まさかネイティブだったとは、、」という顔で、弾丸トークが史上初めて「一時停止」をした。
よく分からないけど…シメシメと思った。
青年すまん。
本当に、いろんな国からいろんなお客さんが来て、本屋での生活は毎日おもしろいなあ。
「へ〜。はるばるチェコから旅人か…」と思ったが、冷静に日本の方が遠かった。
【つづく】「ヨルダンの本屋に住んでみた」
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