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アラビア語で一番使う単語「ハビービー」。だって一番使いたいから

あらすじ:魅惑の本屋がヨルダンにあったので「ここで働かせてください!」とアタックし、その本屋で暮らしていた話。(第1話はこちら

●「ハビービー」濫用事件

ヨルダンの食事は、パンにいろんなディップをつけるスタイルで、めちゃくちゃ美味しい

本屋に着いて2日目ぐらいのこと。みんなでご飯を食べていると、店長があるスタッフに「ハビービー、明日は頼んだよ」と話しかけていた。

はは〜んなるほど。しめしめ。
あのスタッフの名前は、「ハビービー」というのね・・・

そう、「本屋到着編」にも書いたように、私は初日にスタッフみんなの名前を一気に聞いたが、全然覚えられなかった。

私はまだ和の心を持ち合わせており相手に名前をこれ以上何回も聞くわけにもいかず、こうして忍者のように会話から盗み聞きをしながら、みんなの名前を覚えていく作戦をとっている。

そして食事が終わってみんなでお皿を洗っていると、店長が「他のスタッフ」に話しかけていた。「食後のお茶でも飲むか?ハビービー」

ん?もう一人、「ハビービー」という人がいるのか?どうやらアラビア語で「ハビービー」は、よくある名前のようだ。

しかし次の日、事件は起きた。なんと店長が、イタリア人スタッフのラウラにこう言ったのだ。「今日の落ち葉掃き当番は、君かい、ハビービー?

うおおおおお?

私は混乱した。どういうことなんだ。私は、このスタッフだけはいろいろあって名前が「ラウラ」であると確信していたのだ。

私は恐る恐る聞いた。

「ねえ、ハビービーって誰?」


●ハビービーの正体

店長「ああ、ハビービーね。教えてやってくれハビービー

ラウラ「オーケー、うふふ。『ハビービー』っていうのはね、アラビア語で『大好きな人』っていう意味なの!!す〜っごくよく使うのよ。私もヨルダンに来るまで知らなかった」

だ、大好きな人!?!?!?

コーヒーを頼むと「どうぞ、ハビービー」と言って渡してくれる

ラウラ「そう、愛する人〜みたいな感じね」

愛する人!?!?

そんな素敵というか深すぎる言葉を、こんなにも「使いすぎなほど」使っているのか、アラブの人は。

そんな壮大な単語、いつどうやって使うのか!?!

ああ、なんということだ。すぐにでも「ハビービー」という概念の裏面にある「用法・容量をお守りください」の注意書きを読んで使い方を知りたい。(注意書きはアラビア語ではありませんように)

●気になっていた追加の質問

読めなさすぎて笑えるアラビア語。「お気軽にどうぞ」と書いてある(または「立ち入り禁止」)

私はここで、ハビービーの発音について気になっていたことがあった。なにしろ私の「外国語リスニング力」は”なかなかのもの”なのだ。自画自賛。

「たまにさ、『ハビービー』っぽい時と、伸ばさずにほんのり『ハビービ』っぽい時がある気がするんだけど・・・どうなのかな?」

この些細な違いは、聞き間違いだろうか・・・?

ラウラ「そうそうそう!それはね!アラビア語では、名詞の後に『ィ』をつけると、『my』の意味になるの!面白いよね。つまり『my ハビービ』が『ハビービー』ってことなの」

えええ!なるほど〜〜!すごい!

「ハビービー」の伸ばし棒の謎も解けたのも嬉しいが、何より半信半疑で聞いた質問が本当にあっていたことにも驚いた。なんでも聞いてみるものだな〜。知の探求。

店長はスタッフのことをまとめて「ハビービーズ」と呼ぶ。「最後に『ズ』をつけて複数形にする」という英語の文法を、アラビア語の単語に当てはめるなんて、なんか面白いよね〜とみんなで話していた

それにしても、アラビア語の文法は面白い。そういえば大学の時に、友達とノリでアラビア語の授業に侵入して後ろの席で傍聴したことがあったが、難しすぎて全く意味がわからなかった日のことを思い出した。

とにかく、これで完璧。この日から私は、ハビービーマスターとなった。

●ハードルの高い「大好きな人」

別の日、飛び交うハビービーにも慣れてきたころ、店長や現地の人たちにこんなことを聞いた。「ねえ、ハビービーってさ。何回目に会ったぐらいから使うものなの?

店長は、めちゃくちゃ笑った。「何回目!?!?!?しらんしらん、ほんとに面白いこと聞いてくるなーーフウはーーーー。使いたいと思ったら使えばいいんだよ」

「会った日だと早いかな?」
「まあ、早い気もするけど、いいんじゃない」
「ふ〜ん」

私はこうして、「ヨルダンにおいて私は外国人であるから、ハビービーの『いい塩梅』はよく分かっていない」という免罪符を使い、初対面の人に「こんにちはハビービー」と挨拶しまくった。これは裏のある作戦というより、単純に「ハビービー」という素敵な言葉をどんどん言いたかった。

アラビア語の話せない客私と、英語の話せない服屋の店主、唯一伝わった「ハビービー」

そう挨拶すると、現地の人はみな「え!?この子、外国人なのにハビービーを知ってんの!!」とすっごく笑ってくれるし、何より「ハビービー」と呼ばれて嬉しくない人なんていないのだ。

私は「ハビービーの用法・容量」を、自ら生み出してしまった。

●アラビア語で大げんか

すごい髭の持ち主に怒られるとなかなか怖い

そんな本屋滞在の3週間目ぐらいのこと。なにやら店長と知り合いが店内で結構な喧嘩をしていた。

なお、アラビア語で喧嘩しているので何を言っているのかまっっったくわからなかったが、おそらく「本の仕分けや、仕入れのスケジュール」について話しているとみた。

「なんだなんだ」と思いながら、耳をすます。すると・・・なんということだろう。

声を荒げる大喧嘩だというのに、ところどころで「ハビービー!」という言葉が入っているのである!!!!!

「おい、だからさ!!先にこっちからやれって言ってんだろ、ハビービー!!!」

「は、うっせーよ!どう考えても先にあっちに寄った方がいいだろ!?ハビービー!?!?」


おいおいおい。なんということだ。
喧嘩のシーンの「ハビービー」でも、例外なく、本当に「大好きな人」を代入してもいいのだろうか。

「は、うっせーよ、大好きな人?!?」になってしまうが、その点は大丈夫そうだろうか。


なんかもう、アラビア語はめちゃくちゃだ。大好きだ。

●日本でいう「ハビービー」

アラブの空気感はとっても味があっていい

ある日、私はふとこんなことを言った。「アラブの人って、日常的にハビービ〜〜って言って本当に素敵だわ。日本だと、『愛する人』とかほとんど言わないもん

すると店長が「?!?!?!お前は・・・何を言ってるんだ??信じられない・・・」という顔をした。

「おいおいおいマジか?!?!愛よりも話題にあがることなんてあんのか?日本人はいっつも何を話してんだ!?

う〜ん?たしかに。日本人は普段、何を話してるんだっけな。日本のことを思い出してみよう・・・

日本での会話
「こんにちは。今日は涼しいですねえ」
「お待たせしました、コーヒーどうぞ。熱いのでお気をつけください」

ああ、そうそう、そうだった・・・。

私は、こう答えた。

「温度だね」


fin

●次回:アラビア語を少しずつ習得していく!!

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