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時系列倒置の研究 9・「オッペンハイマー」【クリストファー・ノーラン】

作品解説はこちらです。

時系列通りの章立ては、

なのですが、実際には

という非常に込み入った内容になっています。
実際のタイムラインで章立て表をまとめることもできまして、

こうなります。綺麗に4分割できます。時系列で見ると5分割ですから

なんちゅうか知的な監督さんですね。変なところでマニアックです。「インセプション」でも「二重対称構造」とでも呼ぶべき構造作っていまして、

一筋縄ではいかない作家です。
本作の第二章は2分割できまして、

こんな感じになるのですが、第二章-2を実際見てみると、

となりまして、細かく見れば時系列倒置が激しい。
しかし内容的にはバッシュ大佐のオッペンハイマーへの突っ込みと、そのバッシュをあっさり左遷してオッペンハイマーを守るペンタゴンさんの強権が、効率的に述べられています。分かりやすいです。

そして第三章は原爆開発物語なのですが、

実際の映画では、

となりまして、ここのみほとんど時系列倒置がない。ほぼ単純な時系列まんま物語です。
最後の第四章は、

時系列の最後の二つDおよびEを、

交互に出現させる構成です。

つまり本作では、時系列について3種類の形式が混在しています。

時系列倒置

倒置(ほぼ)ナシ

時系列交互

です。

時系列交互と時系列倒置はどうも少々意味が異なるようです。以下ご参照下さい。

本作の現実時系列では

となりますので、

だいたいこういう構成の物語です。

原爆開発が一番ストレートで分かりやすく、時系列交互は次に分かりやすいです。しかし主題の「軍との戦い」の発端はペンタゴンの登場、それはABの時系列倒置部分にあります。一番難解な部分に主題が描かれている。前述のようにバッシュ大佐左遷事件も時系列倒置で描かれていましたね。

作品を思い出す鑑賞者は、誰でも知っている原爆開発から理解しはじめて、すこしづつ理解しづらいパートに思索を到達させます。最終的にペンタゴンさんという大きな存在に到達します。時系列のグラデーションの中に物語の重層性を隠すというか、組み込む。

凄いですね。参りました。「時系列研究作品」と呼びたくなる勢いです。物語の重層性は「対称構造」「反復構造」「キャラ配置」などの構成の中に組み込まれることが多いです。時系列倒置は構成ではなく、構成の装飾に過ぎないと思っていましたが、強力な思考力を持った作家の手にかかれば、ほぼ構成に準じるレベルで重層性を確保できるようです。
彼は「物語」という形式そのものに対して深く思索ができています。私はノーラン監督の「メメント」とか「テネット」とか、実は好きじゃないんです。挑戦的なのは偉いですが、練り込みが甘い。わかりにくくなっている。しかし本作は違います。とんでもない奇抜ことやっているのに、自然に鑑賞出来ます。


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