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「オッペンハイマー」あらすじ解説【クリストファー・ノーラン】
表面的には分かりやすく、深読みしても内容あります。つまり、出来が良いのです。
あらすじ
まとめると5節に分かれます。対称、反復などの構成は特に見出せません。時間は少々アバウトです。すみません。
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A:物理学者誕生
アメリカ出身の物理学徒オッペンハイマーは、ヨーロッパに留学します。
実験でうまくゆかずストレスを抱えたりもしますが、
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ボーアや
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ハイゼルベルクから刺激を受け、
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ピカソやストラヴィンスキーの文化にも触れて、
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充実した時間を過ごします。
帰国してカルフォルニア大学バークレー校で教鞭を執ります。
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共産主義者と知り合い、恋人も出来ます。
B:マンハッタン計画始動
バークレーに軍人が訪ねて来ます。
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グローヴス大佐(当時)です。マット・ディモンが演じています。
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グローヴスはペンタゴンの建物を作って出世して、マンハッタン計画の幹事になりました。面倒なので以下「ペンタゴンさん」と呼びます。
ペンタゴンさんはオッペンハイマーを計画に誘います。こいつなら原爆作れると踏んでいます。慧眼です。
物理学者は自由な研究、情報交流を求めます。しかし戦時中です。スパイも大量に入り込んでます。軍としては情報を区分化、つまり互いの情報流通を出来るだけなくす方向で行きたい。するとオッペンハイマーは提案をしてきます。
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ロスアラモスの平原に新たな研究都市を作ろうと。隔離都市なら情報漏洩を最小限に出来ます。
そしてペンタゴンさんは、実際に町を作ってしまいます。
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壮大な実行力です。実はオッペンハイマーには共産主義者とつきあっていたという経歴の傷があったのですが、そのことを詮索しすぎた軍人は、
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ペンタゴンさんによって左遷されます。強力です。原爆開発が最優先なのです。
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C:原爆開発成功
原爆開発中にヒットラーが死にます。もうナチスは終わりです。ならば研究中止でいいんじゃないか。そんな声が出ます。
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しかしオッペンハイマーは反対意見を抑え込みます。まだ日本とは戦争中だ。本土上陸は大量の損害が出る。だから開発継続だ。原爆で損害を押さえられる。
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かくて原爆は完成
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爆破実験も成功します。
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原爆は搬出され、投下は成功します。
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しかし、スタッフを集めた講演で、オッペンハイマーは原爆の被害を追体験するイメージを得ます。
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その後トルーマン大統領と会談した際、「私の手は血塗られたように感じます」と告白します。トルーマンはそんな弱気な彼を馬鹿にします。
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D:オッペンハイマー事件(核分裂)
ロスアラモスを離脱してプリンストン高等研究所の所長になります。
行くとストローズというたたき上げの人が迎え入れてくれます。元靴屋です。オッペンハイマーは少し馬鹿にします。良くないですね。
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アインシュタインが居ます。
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オッペンハイマーと会話します。
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会話後アインシュタインはストローズと目を合わさなくなります。
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なにかアインシュタインに変な事を吹き込んだのではないかと、ストローズはオッペンハイマーを疑います。
そうこうしていると過去の共産主義者との付き合いを蒸し返されます。裁判もどき、しかし立証責任ナシという嫌な尋問開かれて、さんざん虐められます。吊し上げです。
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擁護してくれる知人も居ますが、
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裏切る知人も出現します。
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なんせ物理業界最大の英雄です。引きずり降ろそうという力も働くのです。世間様は厳しいのです。同僚アインシュタインは怒ります。
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結局名誉は保たれますが、機密へのアクセス権は剥奪されます。ひどいです。妻は泣きながら「彼らに厳しく罰せられたら、世界は許すとでも?」と夫の従順な態度を非難します。
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オッペンハイマーは否定も肯定もせず淡々としています。少し謎めいた態度です。「今に分かる」と。
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E:ストローズ聴聞会(核融合)
4年後、ストローズは出世して閣僚になろうとしています。しかしオッペンハイマーと仲が悪かったことが問題になっています。アイソトープの輸出に関するいさかいや、何より水爆開発に対する見解の相違が話題になります。オッペンハイマーは原爆開発責任者ですが、水爆開発には反対していたのです。
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そこに科学者が出席して証言をします。
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「ストローズ氏はオッペンハイマーを恨んでいた。彼がオッペンハイマー事件を作った。科学者たちは彼には政府から離れてほしいと思っている」と。
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当然議会の心象は悪くなります。ストローズは怒りますが、自分のやったことの報いですのでどうしようもありません。結局若手議員のケネディたちが反対して、彼は閣僚になれません。そこそこの権力者でしたが、失脚したのです。
(あらすじ終わり)
最後に時間配分もう一度見て見ましょう。
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Cの部分が少し長いですね。ロスアラモスでの原爆開発が中心になっています。
後半はオッペンハイマーの名誉剥奪と、それを画策したストローズの失脚です。
時系列倒置
今時系列を整理してあらすじを説明しました。しかし実際の映画では、
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こんな時系列ぐちゃぐちゃです。ぐちゃぐちゃっぷりは驚異的なレベルです。普通こんな作品を鑑賞してもなにがなんだか理解できません。映画では「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」が、かなりの複雑な時系列でして、難解をもって知られています。
それでも時系列倒置は本作よりはるかにシンプルなのです。
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そこまで複雑な「オッペンハイマー」ですが、実際観ると比較的分かりやすい。おそらく鑑賞した方の9割は、一度でだいたいの流れを把握できたのではないかと思います。時系列が複雑なことよりも、時系列が複雑なのに分かりやすいことを評価すべきですね。
「倒置回数」という尺度を私は作っていまして、要は何度時系列操作をすれば元の時系列に戻るか、というだけなのですが、本作は56回必要です。今まで読解した作品では、丸谷才一の「笹まくら」という小説が最高でして、時系列倒置を極めた作品なのですが、
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倒置回数は24回でしたから、本作は倍以上です。そもそも3時間の映画で130節もあります。1節平均が1分23秒くらい。物凄く細かいシーンの寄せ集めです。
絵画で例えれば点描でして、
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普通に見える奇抜な映画なのです。
愛人の死
バークレー時代、オッペンハイマーは最初共産主義者の女性とつきあっています。
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彼女といたしているとき、サンスクリット経典の
「我は死なり。世界の破壊者なり」というフレーズを読みます。
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しかしオッペンハイマーは恋多き男です。別の女性と知り合います。
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そちらと結婚することにしますので、前の彼女とは切れます。
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その後原爆開発中に、連絡を受けます。前の彼女が死んだそうです。
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一応自殺ということになっています。遺書があります。しかしその死に方が変です。薬を飲んで浴槽に顔をつけて窒息死するのですが、
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映像では黒い手袋をはめた腕が、彼女の頭を押さえつけています。第72節、1:27:04~のシーンです。
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一瞬しか映らず非常に認識しにくいのですが、ここが本作理解の最大のポイントになります。彼女は暗殺されたのです。
では暗殺したのは誰か。作中では説明は一切ありません。しかし別のシーンで「暗殺」という言葉を口走る人物は居ます。ペンタゴンさんです。
ある時オッペンハイマーがシカゴに状況確認に行きます。帰って来るとペンタゴンさんが激怒します。情報の区分化に抵触するからです。
「君らには私が与えた権利しかない」
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それを聞いていたコンドンという科学者が、そんな情報統制に耐えられなくなって、もう辞めると言って出てゆきます。「大将軍殿 私は辞める」
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オッペンハイマーは情報漏洩を心配します「彼が口外しないか心配では?」
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ペンタゴンさんの答えは、「暗殺する」です。
オッペンハイマーは固まります。
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流石にまずいと思ったのか「冗談だ、米国を裏切らない」と自分で自分をフォローしますが、
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ペンタゴンさんはいざとなったらやりそうですね。ここだけ見るとペンタゴンさんが悪者に見えますが、彼の立場に立つとそうでもありません。
物理学者はとにかく情報を求めます。研究に必要だからです。でも軍人は違います。情報漏洩して敵に抜かれると、同僚たちが大量戦死するのです。コンドン1人殺して、味方を1万人守れるならば、やってもおかしくありません。核開発ですので1万人では少ないですね。何十万人のオーダーになりますね。
元彼女は共産主義者でした。
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もしも彼女が摘発されると、オッペンハイマーも連座して摘発しなければなりません。しかしオッペンハイマーを摘発すると、マンハッタン計画は回らなくなります。
マンハッタン計画を成功に導くために必要なことは、とにかくオッペンハイマーの地位を守ることです。となると彼女が邪魔です。彼女にこの世から消えてもらうことが、マンハッタン計画成功の条件になります。
マンハッタン計画の成功を最も願っているのはペンタゴンさんです。誰よりもオッペンハイマーの価値を理解しているからこそ、誰よりも元彼女を消滅させるインセンティブを持っています。
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そしてオッペンハイマーは他の物理学者と違って、それくらいシリアスな状況だということを理解できています。
恋人の自殺(暗殺)後、テラーという学者が仲間外れになります。怒ったテラーはロスアラモスを出てゆこうとしますが、オッペンハイマーは必死になって引き止めます。
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引き止めた理由の半分は情報漏洩を恐れてです。残りの半分は、テラーが消されることを心配してです。消すのはもちろんペンタゴンさんです。
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テラーはのちにオッペンハイマーを裏切ります。自分もヒーローになりたかったのでしょう。でもオッペンハイマーは彼を許します。戦争中の原爆開発は、そんな甘っちょろいレベルの話ではなかったのです。
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背後に軍の力が働いている、という意味では本作は夏目漱石の「三四郎」に似ています。
漱石は「彼岸過迄」でも軍産複合体の問題を取り上げています。
しかし「三四郎」も「彼岸過迄」も、普通に読んでも軍がらみと絶対わかりません。難解すぎる。誰にもわからないから実は書いた意味がないです。それに比べれば本作は比較的理解しやすく作られています。
ストローズ聴聞会
手下を使ってオッペンハイマーをいじめたから、
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因果応報、ストローズは聴聞会で苦しい立場に追い込まれます。
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でもストローズがオッペンハイマー事件を立案しているとき、
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傍に居るのはニコルズです。ペンタゴンさんの手下です。
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オッペンハイマーを告発するのはボーデンという科学者なのですが、
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昔は飛行機乗りでして、飛行中にドイツのV2ロケットを目撃したことがあります。
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「あれに核兵器が搭載されたら」という恐怖心があるから、ボーデンは戦後水爆開発に反対したオッペンハイマーが許せなかった。つまり、オッペンハイマー事件そのものが、正体は軍部なのです。ストローズは黒幕ではありません。神輿に過ぎないのです。
その因果でストローズは出世できなくなるのですが、彼の閣僚就任に反対したのはケネディです。ケネディと軍の関係についてはご存じの通り。ちなみにニコルズやボーデンの責任を問うシーンは一切登場しません。軍は無傷なのです。
肝心のペンタゴンさんは、オッペンハイマー事件でも事情聴収されますが、
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煮え切らない発言をします。彼はオッペンハイマーの敵ではありません。でも(長期間苦楽を共にしたのに)完全に味方というわけでもない態度です。
アインシュタインとの三回の会話
オッペンハイマーはアインシュタインと三度会話を交わします。鑑賞上の最初に視聴者が目撃するのは、オッペンハイマーがプリンストンに赴任した日、池のほとりです。
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何を話したか分かりません。分かるのはアインシュタインがひどく不機嫌になり、ストローズと目を合わせなくなり、ストローズが「オッペンハイマーが自分の悪口をアインシュタインに吹き込んだ」と疑ったことだけです。
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鑑賞上2番目、時系列上で最初の会話は、原爆開発中不安があってアインシュタインに相談に行った時です。
アインシュタインはクルト・ゲーデルと林の中で会話しています。
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実は核分裂反応が大気にまで連鎖して、世界を一気に滅亡させるというのではないかという疑念が、研究チームから出されていたのです。
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不安に思ったオッペンハイマーは、アインシュタインのところへ馳せ参じて相談します。オッペンハイマーはアインシュタインを時代遅れの学者だと馬鹿にする発言をしますが、彼が心底信頼しているのはアインシュタインただ一人です。
数式を見せられたアインシュタインは、自分には計算できないと検討を断ります。
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そしてもしも真実が破滅的(つまり一度核分裂をおこすと世界が滅亡の連鎖反応に巻き込まれる)なら、開発をやめて ナチスとそれ(情報)を共有しなさい、と告げます。
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大胆な発言ですね。核分裂を実行すると、連鎖反応で人類が滅亡する。だったら戦争の勝者も敗者もなくなる。その情報を共有できれば、アメリカもナチスも核を使わないだろう。そうすれば人類は滅亡から逃れられる。だから敵と協力しあおうと言うのです。
アインシュタインはユダヤ人で、ナチスの反ユダヤ政策ももちろん知っています。それでもナチスと協力すべきだと。
結局、連鎖反応は計算間違いでした。核兵器開発、投下は成功しました。しかし戦後オッペンハイマーは、相互不信からの核拡大を止めようとします。アインシュタインに忠実です。
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時系列上の最後のアインシュタインとの会話は、1954年です。アインシュタインは1955年に亡くなりますから死の前年です。オッペンハイマー事件でいじめられているのを見かねて、いっそ亡命しろと忠告します。
「僕は祖国を愛してる」と返すと、
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アインシュタインは「連中に くたばれと言え」と言います。アインシュタインは本当に怒っています。
つまり、オッペンハイマーの作戦は成功しています。
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オッペンハイマーはどんな作戦を立てたのでしょうか?
原爆投下成功後、彼は被爆者のビジョンを得ました。
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そして状況を考えました。軍に協力した自分が英雄になっている。これはまずい。物理学者が軍に支配されてゆく。行き着く先は世界の破壊だ。それを止めるには、自分が虐められて、物理学者の気持ちを軍から離脱させるしかない。
だからいくら不当な尋問を受けても誠実に答え続けました。アインシュタインが怒ったくらいですから、ほとんどの学者が怒ったと見て間違いありません。その怒りを引き出すために、あえて虐められた。ストレスを受け続けた。
公聴会でストローズの失脚を決定的にするのは、ヒル博士です。
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彼はオッペンハイマーとは二度邂逅していますが、二度とも不快な思いをしています。
一度目はメモを取るのを叱責され、
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二度目は署名をしてもらおうとした腕を払いのけられ、名簿を地面に落とされます。
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そのヒルがストローズを非難する。その非難は当然ながら、オッペンハイマーに対する愛情から来るものではありません。学者を飲み込む勢力である、軍に対する反発です。
オッペンハイマーはいわば、身を捨てて事態を改善しようとしました。そのことは作中明示されませんが、ラストシーンで十分に暗示されています。
ラストシーンはアインシュタインとの二度目の会話、プリンストンの池のほとりでの会話の詳細です。最初のモノクロバージョンではわからなかった、会話の内容が最後に明かされます。ここが映画全編のタネ明かしになります。
オッペンハイマーは二人の会話の時系列上の最初、アインシュタインがゲーデルといた時の、会話の内容を回顧します。
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オッペンハイマー「計算を見せて不安を伝えた。爆発で連鎖反応が起きて、全世界を破壊すると」
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アインシュタイン「覚えてるよ それが何か?」
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オペンハイマー「我々は破壊した」
アインシュタインはそのまま立ち去り、近づいてくるストローズに目もくれません。ストローズはそれを見て、アインシュタインに悪口を言ったと解釈したのですが、間違っています。アインシュタインは「我々は破壊した」の意味が分かって、目の前が真っ暗になったのです。何も見えなくなったのです。
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核分裂で地球上の大気全体が核分裂を起こすという恐れはなくなりました。しかし別の連鎖反応、核兵器の拡大という連鎖反応が起きました。世界滅亡の道、人類滅亡の道です。オッペンハイマーはそれを伝え、アインシュタインは理解して絶望しました。
E=mc2を考えたアインシュタインと、それを実現したオッペンハイマー、この二人が新しいプロメテウスの火を獲得した最大の功労者、いいかえれば滅亡への道の最大の責任者なのです。
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オッペンハイマーはロスアラモスを離れてプリンストンに来た時点、1947年時点で既に、次なる戦いを認識していたようです。プロメテウスのように、岩に縛られ拷問される覚悟を決めていたようです。
雑談
作品解説は以上です。以下は雑談です。日本人の反応としては、「原爆の描写が不十分だ」という方が多かったようですが、アメリカはどうも日本より原爆のタブー性が高く、暗示的にしか描写できない環境のようです。
その中で、
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の三つを描けたのは、賞賛されてしかるべきだと思います。勇敢です。この作品と今回のノーベル平和賞、おそらく関係あるでしょうし、ウクライナや中東で、まだ核が使われずにギリギリ持ちこたえているのは、本作の影響もあると思っています。
観る前は、バベルの塔の話が下敷きになって会話が通じなくなる物語、と予想していました。確かにストローズとオッペンハイマーは会話が通じていないのですが、それよりもペンタゴンさんの存在が大きな要素でした。
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実を言いますと、マット・ディモンクラスの俳優が主人公に近い存在に配置された場合、裏がないわけがないのです。読解する以前に初見から、彼がカギを握るのは明らかでした。ディモンは伏し目がちにして、人と目を合わさず、いかにも腹に一物ありそうな人間を演じています。流石に上手です。
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妻を演じるエミリー・ブラントも良いですね。存在感があります。
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気に入られた方は
「ボーダーライン」
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「オール・ユー・ニード・イズ・キル」
https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B00OST5P1S/ref=atv_dp_share_cu_r
もぜひご覧ください。後者は日本のラノベが原作の輪廻転生ものです。
ノーラン監督の演技指導は、実はあまり関心しないのですが、女優の使い方はいつも上手です。
「インセプション」の可愛くて怖い天地創造の神、マリオン・コティヤール
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「インセプション」あらすじ解説【クリストファー・ノーラン】|fufufufujitani
「ダークナイト ライジング」の峰不二子のアン・ハサウェイ
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「TENET テネット」のエリザベス・デビッキ
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いずれも大変良いです。
ほかトルーマン大統領をゲイリー・オールドマンが演じているのが見どころです。元来こういう人です。
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ノーラン映画にも出演しています。
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それがこの大統領を演じて、
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こういう顔をしています。
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メイクも上手いですが、本人のなりきりも凄いですね。
撮影も良いです。元来映像感覚が良い人では無いのですが、本作は過去最高の出来です。フィルム撮影にこだわっていた人ですが、本作ではデジタルも十分使っていますね。空気感欲しいところはまだフィルムを使っているようです。この年でこれだけ映像が良くなる人は初めて見ました。
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私に物理学の知識がないものだから、学者同志の絡みでなにか意味があるのかもしれませんが、まったく解析できません。そこのところは詳しい方にお任せしたいと思います。