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野生な無花果
昔住んでいた家の庭にはいちじくの木があった。
隣には私のひいばあちゃんが住んでいて、休みの日、私とばあちゃんと2人庭に出ると、ばあちゃんは木からいちじくをもぎとり、そのまま手で皮を剥いてむしゃむしゃと食べた。「ひとくち?」と手で無音で差し出されたいちじくをかじる。植物の味、と思った記憶がある。それがもしかしたら、今では”野生”と私が名づける生の果物をまるまる食らった初めての経験かも知れない。
大人になってから、いちじくは漢字で無花果と書くことを知った。花の無い果実。確かに庭のいちじくの木にはまぁるい葉っぱだけで花は咲いていなかった。だからなのか、植物の味がしたのは。あぁあれはやっぱりいちじくだったのか、と思う。
小さい頃のただ体や心だけで覚えていた記憶が、どこかで身についた知識と符合する。こういうことがあるから、頭よりとにかく心と体を使うことが大事なんだよな、と思う。頭で覚えたことなんかより、ずっと消えないで残るものだから。
久々にいちじくを買って食べて、やっぱりちょっと植物の味、と思った。
いつの頃からか、台所で立ったまま果物にかぶりつくのを好むようになった。かぶりつくと、なんかすごく本能的で人間な感じがして、自分の中の普段は眠っている野生が牙をむく感じがあるのだ。そのことに、ちゃんと私も血の通った人間なんだとちょっと安心感を覚える。
冬、皮の中に勢いよく親指を突き刺してグジュっとしたみかんの果肉に親指がうもれる。りんごは皮のままかじる。桃は皮だけむいて、切らないで汁をしたたらせながら思い切り食らう。手も口周りもベトベトで、だけどなぜか綺麗に皮をむいてカットされた果物を食べる時より「食べた」感じがする。野生が充電されるからなんじゃないかと私は思っている。
姉にいちじくって無花果って書いて本当に木に花が咲かないんだよ、って話をしたら、最近私はホクロを漢字で黒子って書くって知った、と返してきて漢字っておもしろいねと盛り上がる。黒子。私も知らなかった。
くろこだね。
うん、くろこだね。
今度からくろこできたって言おうかな、
となんと平和な会話と思いながらしばらくLINEを続けた。ライオンの話で終わった。