ふしぎな動物
トミー・ウンゲラー『ラシーヌおじさんとふしぎな動物』
たむら りゅういち・あそう くみ やく
評論社 昭和52年12月20日 初版発行
時がたちました。日本に紹介されてからでも、四十数年が経過しています。作者のトミー・ウンゲラーについて、当時は、うかがい知れなかったことも、わかる時代になりました。
それでも、この生き物は、やはり「ふしぎな動物」です。なぞがあります。代々の子どもたちの心を、ひきつけてきました。これからも、そうでしょう。
どうして知恵と経験のあるラシーヌおじさんは、その正体に気がつかなかったのでしょうか。もしかすると、どこかで中身が、すりかわったのではないでしょうか。
あるいは時が来ると、男の子と女の子のふたつに、わかれる生き物だったのではないでしょうか。
どうしてラシーヌおじさんは、初対面のなぞの生き物と、リンゴのタルトなどを食べ、赤ぶどう酒を飲み、別れるときに「両方のほっぺたに、キス」までしたのでしょう。
見開きのとなりのページでは、いろいろなことが同時に起こっています。どうして犬はうさぎを狩り、切り株には斧がつきささったままなのでしょう。空には、小さなコウモリの影が浮かび、フクロウは、はしごの影から、じっと様子をうかがっています。たしかに何かが起こっているのです。
この絵本は、人間の愛情や、やさしさとは何かを、子どもたちに、そっとしずかに、語りかけています。ほんとうのことは、声を大きくして叫ぶ必要などないのです。良い絵本の一冊には、良い詩の一編に等しい、強い力があります。
世紀を越えて生き残っていく絵本の一冊でしょう。