光でTyr選択的にニトロ化する
タンパク質とアミノ酸
アミノ酸はアミノ基とカルボキシ基を持った分子で、それぞれが直線的に連結して生体内でタンパク質として機能しています。タンパク質は主に20種類のアミノ酸で構成されています。20種類も構造があるので、1種類だけ反応させるというのは結構難しいです。今回はそのアミノ酸の中でもチロシンと呼ばれるアミノ酸の持つフェノール構造をニトロ化するという論文です。
Light‐controlled Tyrosine Nitration of Proteins
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/anie.202102287
論文の概要
チロシンのニトロ修飾は生体にもみられる翻訳後修飾である。ただし、それに相当する化学変換がこれまで難しかった。今回はジニトロイミダゾールを室温下、MeCN中で390nmの光を当てることで、タンパク質のチロシン選択的にニトロ化することに成功した。光反応なので、光のあて具合でニトロ化の進行具合をコントロールすることができ、生理的なニトロ化修飾の効果を明らかにできるツールとして利用できる可能性がある。
Fig1から引用
フェノール誘導体について同反応を1h実施すると、50-70%程度でフェノールの2位がニトロ化された生成物が得られている。反応機構としては、光照射によってニトロイミダゾールラジカルと二酸化窒素(ラジカル)が発生し、前者がフェノール2位のプロトンをラジカル的に引き抜き、二酸化窒素とラジカルカップリングする機構が提唱されている。
TEMPO(ラジカルクエンチャー)を共存させると阻害されることから、ラジカル機構であることが示唆されている。亜硝酸ナトリウムやperoxynititeより反応が効率的に選択的に進行するよう。上記から、ニトロイミダゾールラジカルの寄与を想定しているものと思われる。
実際にタンパク質をニトロ化することで機能が変わるモデル実験として、α-Synucleinの凝集実験を実施している。異常凝集したαーSynucleinは細胞毒性を有し神経細胞死を起こすことが知られている。試験管内で攪拌すると凝集してしまうαーSynucleinをニトロ化することで凝集抑制機能があることが確認された。ニトロ化による凝集抑制は初期には効果を示すが、ある程度凝集体ができてしまってからは効果が薄いよう。
所感
・収率が若干低いのでサンプルが貴重だと使いにくいかも。あとはコンフォメーションによって選択性が出るのかどうか。定性的に機能変化を追うには便利だが、精密な実験を行うにはやはりタンパク質の合成が必要か。
・溶解性と凝集コントロールは昔から実験的に確認されていることも多いが、特に最近は難しい創薬標的として流行っているような気もする。
・Aβとかもそうだけど、生物学的に見つかりやすい現象を対症療法的に創薬標的にしても効果が薄いことも多くて、発生源をつぶさないといけないんだろうな、となんとなく感じた。特に凝集やアミロイド形成は自己増幅するような現象であるため、そういった現象の生物学的な制御をこういったモデルを利用して正しく理解してから、創薬標的を定める必要があるのかなーと不勉強ながら感じた。