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遠い夏のアイスキャンディ

ただただ暑い夏の日
日が当たりが良すぎる部屋は昼間電気をつけなくても過ごせる。
真っ黒い私たちにも忠実に太陽はこの部屋を照らしてくれていたから何かを勘違いをしていたのかもしれない。
いつも自分の家の冷蔵庫にアイスを常備しているあの人が「アイスが食べたい。」と口にする。うちの冷蔵庫にはアイスがない。
家を出るのも嫌なくらい暑いけど、アイスを買いに行こう。

クーラーの涼しさに守られていた私たちはまるでこれから大きな戦いに出る戦士のように力強く玄関を飛び出した。

直線80メートル先にあるデイリーヤマザキ。
人間をも溶かしそうな力強い光線の下、二人はただ黙々と真っ直ぐと進む。
10畳くらいの狭いデイリーヤマザキに着くと、真っ先にアイスコーナーへ行き、大人二人がアイスを見て目をキラキラさせる。

棒アイスを二つ買って、今度は逃げるように早歩きで直線80メートル先の自宅に急ぐ。
アイスクリームが溶けないうちに。
戦いから帰ってきた私たちは一仕事を終えた顔をして、クーラーのかかった部屋でアイスに食らいつく。
あの人は私よりも早々とアイスを食べ終えて、2畳の台所の換気扇の下でタバコを吸い出した。
まだ棒アイスを食べ終えてない私は台所の近くの壁にもたれながら、溶け出すアイスを舌で阻止しつつあの人がタバコを吸う横顔を眺めていた。
ああ、なんかこーゆーのいいなぁ。

この前、久々にあの頃住んでいた家の前を通ったらあのデイリーヤマザキが潰れていたよ。
これで思い出が一個死亡。
思い出は殺すがいちばん。

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